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同窓会

俺が待ち合わせのバーに着いたときにはタカシ以外のメンツは揃っていた。

「よう、久しぶり」
「オス、元気だったか?」
「まーな」
「とりあえず乾杯しようぜ!」
「おう、遅れてすまなかったな」
「乾杯!」

喉が渇いていた俺は、配られてきた生ジョッキを一気に飲みほした。

リョーヘイはほぼ毎日会っているし、ユタカとは最近会ったばかりで、他のメンツもしかり。話は必然的にユタカの近況報告になる。


「お前も忙しいそうだな」
「ああ、今、四半期前でさ。お前こそ、飛びまわって急がしそうじゃねえか?直近はどちらへ?」
「彼のロシアと揉めてた国さ」
「今はどんな感じなんだ?」
「今は落ち着いてて、前の方が良かったとか、今の方がいいとか、街の人に聞いても具体的な例はでてこないけど。でも法律が厳しくなって、物価が上がったらしい。ロシア国籍をとると就職率もアップするんだって。でも、もうプーチン熱も冷めて静かなものさ」
「そうなんだ。揉めてた時も行ってたよな」
「ああ。お前こそ最近どこか行ったのか?」
「ニューヨーク。本社へ行っただけだよ、今年は」
「まえはもっと色んなところに行ってたよな、彼女と」
「ああ、でも、俺たち別れたんだ、春に」
「そうだったんだ。悪かったな。俺たち、最後に会ったのいつだ?」
「いや。多分、去年の冬だな」

ひとしきり近況を話終えたところで、ユタカは次の渡航地だという、エチオピアについて語り始めた。
南部の部族の取材に行くらしいのだが、下調べに以前現地に行ったことのある俺の体験談を聞きたかったらしい。

「なあ、お前、学生時代、バックパッカーでよく色んな国に行ってたよな」
「ああ。あの頃はあのために日々生きてたようなものだからな」
「エチオピアに行って土産に変な太鼓くれたよな」
「ああ」
「俺、今度、南部に住む部族の取材に行くんだ。どんなとこだった?」
「今は世界遺産ブームで人気の観光地だけど、俺が行ったころはあまり観光客もいなかったよ。今みたいにネットが発達してなくて、着いてから情報集めるのが大変だったけど、バスを何10本も乗り継いで南部に行ったんだ。赤土を体中に塗ったり、カラフルなペイントやビーズを飾ったりしたユニークな部族に会ったよ。一番度肝を抜かれたのは、皿を下唇に差し込んだ部族さ。女性だけが入れるらしいんだけど、俺も試しに入れたんだけど、無理だった」
「そりゃそーだろ!エチオピアの旅はどうだった?」
「楽しかったぜ。全く異質の時間が流れてるっていうか、うまく言えないけど、原点に戻った気がした」
「そっか。じゃあ、何が大変だった?」
「お前の場合、仕事で行くんだから当然アジスアベバから飛行機で行くんだろ?俺はダニだらけの乗り合いバスで旅したから、色々過酷だった。虫が嫌いなら痒み止めと虫除け持ってけ。最初はバンバン虫除け振りまいてたけど、そのうち面倒くさくなって気にせずビーサンで歩き回ってた。痒いときゃ掻く!それだけだ。でも、腹が弱ければ胃腸薬とトイレットペーパーを持っていけ」
「ハハハ、原始的だな」
「だろ?でもシンプルに旅するのがベストさ。これ俺の旅のモットー!」
「お前らしいな。お前が気取った外資系の金融で働いてるなんて信じらんねーよ」
「俺もだよ。ま、興味があれば出発までに俺の部屋に遊びに来いよ。旅の写真なら山ほどあるぜ」
「お、いいね。ぜひ、そうさせてくれ」

そこで他の仲間が話に入り、いつもの底なしの酒盛りになった。


家に帰りユタカとの会話を思い出し、俺は記憶をたどる旅にでた。
忘れそうなあの頃をれっきとした形のある過去にするために。


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