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「便利な家」より「気分よく暮らせる家」を

今日は「インテリアの雰囲気」の話。

呪いを解いてくれた言葉

以前、インテリア関連のアプリにデザイナーとして携わった際にあるインテリア・コーディネーターの方とお話する機会があったのですが、その方がとても印象に残ることをおっしゃっていました。

曰く、「日本人はファッションに関しては若いうちから試行錯誤して基本ルールや自分のスタイルを身に付ける人が多いのに、インテリアに関してはそうしない人が多い。たいていの人はインテリア偏差値が低いまま大人になる」とのこと。

話をくわしく聞くと、欧州の方は比較的若い頃から、たとえば壁の色を明るくするとどんな効果があるのか、逆に暗くするとどうか、家具の背が高いと、もしくは低いとどういう印象になるのか、壁になにかを飾るとどういう気分になるのか、照明は全体あるいは部分をどんな色の光で照らすとどのような雰囲気になるのか、キャンドルは、香りは……などなど、とにかく「家を心地よく過ごせる空間にととのえる」ことを大事にして、親や祖父母から学びながら育つのだとか。

確かに、私たち日本人は成長の過程であまりこういうことを試行錯誤したり、学んだりする機会を積極的に得ようとはしませんよね。
その結果か、日本人は「機能的で、場所をとらず、価格が手ごろ」なものを好む傾向にある気がします。

私はもともとそういうタイプでなく、「便利さを多少犠牲にしてもいいので気に入った雰囲気のものを手元に置いて気分よく過ごしたい」と思うタイプの人間なのですが、周囲にあまり同じタイプの人がおらず、昔から友人などにはよく揶揄されたりからかわれたりしていました。
その結果として「家具・家電に機能を求めず、雰囲気を優先することは悪なのではないか」というような強迫観念を持つに至り、全力で雰囲気の良さを求めることをどこかでずっと怖がっていたのです。
なので前述の言葉を聞いた時、便利さより雰囲気の良さや心地良さを求めてもいいんだ! と、お墨付きをもらったような気持ちでたいそうほっとしたのでした。

「勉強」が必要

時は流れ、家を建てることになった私。
当然新しい家も「便利さより心地よさ優先」でととのえたい。

ただ私は同時に、先の言葉でいう「インテリアについて総合的に学んでこなかった日本人」でもあります。

ゼロから家を建てる場合、家具や家電はもちろん、壁や床、間取りから、果てはドアノブのひとつに至るまで、とにかくすべて好きなものが選べるわけです。
自分の好みは多少把握しているとはいえ、たとえばこのパーツとこのパーツを組み合わせるとトータルでどういう雰囲気になるかという勘所がまったくつかめていないという自覚があったため、とにかくなにを基準に建具を選んでいいかまったくわからない。

今から家のプランができあがるまでの短時間で「勉強」をする必要があると強く思いました。

やったこと

まず、それまでほとんど使っていなかった Pinterest に新しいボードを作成し、とにかく「あ、これいいな」と思った家の写真を無作為に集めていきました。

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とにかく琴線に触れた写真をかたっぱしから集めまくることで、ぼんやりとしていた「自分の好み」を可視化し、自分でも再認識することが狙いでした。
戸建を建てることを決めてからの3年弱の間は、ほとんど毎晩寝る前に iPad を寝室に持ち込み Pinterest をブラウズしています。今でも。

「ムードボード」をみつけよう

同時に、雑誌類やオンラインの記事類にもがんばって目を通し、とにかく「全体的な雰囲気をこんな感じにしたい」という写真を探します。
いわゆる「ムードボード」として使えるような、真似したくなるような理想的な家の写真がどこかにないか探し、できればそれを見つけることが第一の目的でした。

当時私の頭の中にあった「こんな感じの家にしたい」というイメージは「シンプルでややクラシックな昭和のマンション風」というものでした。
このイメージがどこから来たのかは今となってはよくわかりませんが、とにかく長い年月住む家なので、いっときの流行スタイルに流されず、古びないものにしたいというのがその意図です。

幸運にも、頭の中のイメージにかなり近い写真を見つけることができました。
カーサブルータス 2019年2月号 の特集記事「理想の家のつくり方」冒頭に載っていた「HOW TO MAKE A HOUSE」という記事の一連の写真。

こちらの動画序盤でフィーチャーされているのがその写真です。

これがプラン作成初期のリファレンスとして機能し、設計士さんとの話も一気にスムーズになったことを記憶しています。
また、自分で家具や家電を選ぶ際の指針にもなりました。全体の色数をおさえて白・黒・木目のみで整える、という大方針は今も生きています。

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もちろん、実際に工程を進めていくうちにいくつか制限も出てくるため、ずっとこの方向性で進めることができたわけではありません。
ですが、方向性を微調整する際にも設計士さんとの話で「ここは例のブルータスの感じで」みたいなかたちで引用される共通言語としては最後まで残り続けました。

初期衝動は一度だけ

以上が、私のインテリア第一歩です。

家を建てる関連の作業をしながらうんうん唸っていると、いろんな人から何回も「家は三回建てないと満足できないというらしいよ」という言葉を聞きました。おそらく彼らは私にもっと肩の力を抜けと言ってくれていたのでしょう。

確かにそうなのかもしれない。おそらくこの家にも「こうしておけばよかった」というポイントがいくつも生まれることでしょう。
ですが、だからといって適当にやるわけにはいかない。「初期衝動を全力でぶつけられるのは一回目だけ」というのもまた真実だと思っています。

選択を迫られる場面で、何度も日和って「便利」に振りかけましたが、そのたびに思い直して今回の家はすべて「雰囲気の良さ」に振っています。
おそらく不便なところも多々ある家になるでしょうが、大好きな雰囲気の中で心地よく過ごせる家になってくれることでしょう。

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