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線は、僕を描く読みました

『空虚を現実で埋めていく』話だった。

講談社文庫公式の書評とあらすじがすごいしっかりしてると思うので先にリンクはっておきます。表紙もステキですよね。

あらすじ

親が交通事故で急死してから無気力な日々を送っていた主人公、青山。ある日、友人の古前から展覧会の手伝いを頼まれ、そこで水墨画家の篠田湖山に出会い、誘われる形で水墨画を始める。
水墨画を通して、彼の人生は徐々に変わっていく。

これから読む人に知ってほしい情報

作者の砥上裕將さん自身も水墨画家さんらしくて、作中で出てくる『春蘭』も作者の描いたものがあります。↓のリンクの春蘭って確かにすごいダイナミックですけど、作中で主人公が本物を見て『本当は地味な花ですね』っていうシーンがあるんですね。

蘭って大抵の人は胡蝶蘭を想像すると思うんですよ、オープンしたてのお店の前に飾ってあるやつ。

でも春蘭って、かなり、じみーーな花です。日本画がこういうひそやかな花に美を感じるのはとてもわかるというくらい控えめな花です。カメラたしなむ民からすると、『春蘭』という水墨画は、この花をマクロレンズで切り取ったような、小さなものをすごいダイナミックに描いているものなんですよね。

私途中までずっと胡蝶蘭のイメージだったので、感想書く時にやっと調べて、思ってた以上に全然違うやん…っていうのに気づいて、アアアってしてます。単独のネモフィラみたいな密やかさですね…。

ネタバレない感想

これすごいんですよ、小説なのに漫画やアニメみたいに絵が思い浮かんでくる。

水墨画は全然知らないし筆も墨も小学生の頃から1度も触ったことないんですけど、それでも筆を動かす腕の動きや空気感が伝わってくるんですよね。描写がとにかくすごい。最後の著者紹介で水墨画家って書いてるのを見て納得するくらい、水墨画に関する描写に緻密さがある。

ストーリーも流れ自体はシンプルだけど水墨画とすごく上手くからめられている。墨と筆だけで描く水墨画だからこそできる展開。『絵を描くために世界をしっかりと観察する』というのはどの絵画にも共通する大事な話だと思うんですが、水墨画は写実ではないので『何を感じて、それをどう筆の流れに落とし込むか』っていうのが大事になるんですよね。

主人公がそれまでからっぽだったからこそ、気づくことができたものもある。そして、お話の中でひっそりと『水墨画が衰退した理由』もそこにあると語られているのが、作者が水墨画家だからこその、すこし切ないお話だなあと思いました。

おわり

いい本だった…!って手放しで言える本だったな〜〜と思います。

この本見て本物の水墨画を見に行きたいなーと思ったんですが、水墨画の美術館って意外とないんですね。東京でも企画展ならやってるみたいなので、見かけたらぜひ行こうと思います。常設展でおいてるところないかなー。

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