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母の句集

ゼミで認知言語学を理解するために俳句や短歌を引用したくて、初めて母の句集を読んだ。

よく喋るしビジネススマイルが得意だけれど実のところは内向的な母が、あの大きな目で何を見つめていたのか、考えていのか。私は何にも知らなかったんだな。


本人はひねりにひねった技巧的かつ詩的で情緒に富んだ、時にはブラックな作品を詠むのが好きらしいが、この句集に印刷される句はほとんどが写実的なもの。純粋に切り取られた母の視界を、スンと文字に落とし込んだ句が並ぶ。そこに描かれるのは、田舎と家族のこと。序で祖父は、母には代々の溺愛の血が流れていると書いているけれど、本当なんだね。私含め3人の子供たちをいかに愛おしく思っているのか、17音の外側に溢れる母の母らしさに、意表を突かれた。悪いことをした覚えはないのに、何だかとても申し訳ない気持ちにもなった。


俳句にも権利云々があるらしいが、母のだからいいかな。だめかな、ひとつだけ。お気に入りはね、


短夜の隙間にひとり十五歳

誰といたって結局人間は孤独だと感じる瞬間と、それでもやっぱり誰かにそばにいて欲しいと温もりを求める瞬間はいつまでたっても交互にやってくるけれど、15歳の頃なんてずっとひとりが怖かった。ひとりだと思って全てを抱えたフリをしているつもりだったのに、それが母にはバレていた。ちゃんと見てくれていた、私が隙間にいたのを母は黙って見守ってくれていたのだ。ということは私、あの頃からどの一瞬たりとも、ひとりじゃなかった。


こんなの、時を超えたラブレターだね、直接もらうどんな言葉よりも嬉しいのかもしれない。


はっきり言って私は母の言葉が本当に本当に好きだ。母の書いたエッセイから手紙から、その全部がほんとうに優しい。悔しい。嬉しい。母の血が流れていて、嬉しい。幸せだ。


お母さん、私もね、ひねりにひねった純粋じゃない言葉を考えるの好きだけど、でもそれは、純粋な言葉を綴るために自分の中でバランスを取るためなんじゃないかなと最近よく考えるよ。評価される方もされない方も、背反してて両方とも私だし両方ともお母さんそのものなんだと思う。あなたの子で良かったと思う機会は少なくないけれど、今回句集を全部読んで改めてそう思いました。理想の感性が、お母さんです。

もっともっとがんばるね。



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