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エリア・スレイマン監督『天国にちがいない』

1,イントロダクション

 自分は、時々映画レビューを書きます。ただ、映画作品のレビューは、DVDで観た作品が多く、劇場で観た作品も感想を書きたいけれど、なかなか覚えていないところがあり、書きづらいです。何せ新鮮な作品だから、ネタバレしたら、「何だよ!」と文句を言いそうな人が続出しそうだから、難しい気がします。
 今回は、現時点(2021年)に日本で公開された作品を紹介します。エリア・スレイマン監督という方は、御存知ですか?自分も、今まで知らなかったです。東京国際フィルメックスで特集上映していたみたいですが、気になりつつも、スルーしていました。この『天国にちがいない』を観て、面白い監督だと思いました。もっと作品を観てみたいと思ったけれど、特集上映は終わってしまったり、DVDも『D.I.』という作品しかソフト化されておらず、それも廃盤・高価になっているので、ブックオフオンラインにあったとき、「買っておけば良かった」と若干後悔しています。
 それでは、『天国にちがいない』について、語ります。このレビューを読んで、自分の文章により「地獄じゃねえか!」と思ってしまったら、申し訳ない、と思いますが……。それでは、始めましょう。

2,スタッフ・キャストなど

『天国にちがいない』(2019年/102分)
(製作国:フランス・カタール・ドイツ・カナダ・トルコ・パレスチナ合作)
監督・脚本・主演・製作:エリア・スレイマン
出演:ガエル・ガルシア・ベルナル、タリク・コプティ、アリ・スリマン
撮影:ソフィアン・エル・ファニ
編集:ベロニク・ランジュ
製作:エドアール・ウェイル、タナシス・カラタノス、マーティン・ハンペル
配給:アルバトロス・フィルム、クロックワークス
受賞:2019年カンヌ国際映画祭 特別賞
   同上 国際映画批評家連盟賞(FIPRESCI賞)

3,あらすじ

 新作映画の企画の売り込みのため、映画監督のエリア・スレイマン監督が、故郷ナザレから、パリ、ニューヨークへと旅に行く。そこで感じた違和感や苦難の日々を面白おかしく描いている。
「果たして、我々の本当の故郷はどこにあるのか――?」

4,感想

 少し疲れてしまい、微睡を帯びてうつらうつらしてしまったところもあったが、基本的には面白かった。ネタバレが一部あるので、注意して読んでいただけたら、と思う。
 触れ込みに「現代のチャップリン」と書いてあった。チャップリンの作品は、『黄金狂時代』しか観たことないので、あまり語ることが出来ない。どちらかというと、主人公が無口、あるいは、台詞が一言二言しかない感じは、何処かフランスのジャック・タチの諸作品を彷彿させる感じがした。あと、可笑しいシチュエーションや遠くからそれを眺める、いわゆる撮影する感じ、固定されたシーンは、スウェーデンのロイ・アンダーソンのようなユーモアを感じた。

 様々なシーンにユーモアが込められて、何処をとっても、思い出し笑いをしてしまう。あと若干皮肉も込められているような気がした。作中には、マイケル・ムーアのような風貌の人と映画製作について話す、スティーブン・スピルバーグに似た人とトークショーをする、みたいなシーンもあった。

 パリの噴水広場で、椅子・ベンチの取り合いを繰り広げる感じも良かった。ご飯を食べようとするサラリーマンたちが、席が空くか待っていたら、先に席を取られた、みたいなものは、日本の満員電車に似た構造を感じた。

 黒人のタクシー運転手とのやり取りで、初めて監督が発した言葉が、「ナザレ」と「私はパレスチナ人だ」という言葉だけ。それ以外のシーンは、ただ感情は露わにするものの、ただ無表情で俯瞰で見るという感じが多い。
 あと、スーパーで万引きを見てしまう、子どもまで武器を担いで道を歩いている街に行ってしまう、など治安の悪さを表現し、所々風刺が効いている。
 アラブのシンポジウムの場面で、オーディエンスがあまりにも盛り上がりすぎて、司会者が釘を刺したり、注意したり、まとまらなさ過ぎて、「静かに!自己紹介で会が終わってしまう!拍手は一回まで!」と言い、人の名前が紹介されるたびに、オーディエンスが拍手を1回だけする、というシーンが一番好きだった。

 あとは、ニューヨークの広い公園にて、池の近くで、ベビーカーを引きながらエクササイズしている人もいたり、楽器を鳴らしている人もいた。そのなかで、天使のコスプレ(多分女性)をした人がいきなり服を脱ぎ始めて、警察隊に追っかけられる、という滅茶苦茶なシーンもあった。なんで追っかけるのか、と思っていたら、多分上半身裸で、胸のところにパレスチナの国旗のペイントをしていた。それでアメリカのポリスが追っかけるというところに、なんとなく合点が行ってしまった。

 パリのホテルで、鳥が窓から入ってきて、監督が水を飲ませるシーンがあった。それはハートフルで良かった。その後に、監督がパソコンで作業しようとすると、キーボードの上に近づいては、退けられ、近づいては、退けられ、のやり取りが可愛らしく思えた。痺れを切らした監督が、「用は済んだだろ!外に出ろ!」と合図をして、鳥は飛んでしまったが……。

 パレスチナ・イスラエル辺りの作品を観たことがなかったので、かなり新鮮な映画体験をした。自分は、そのアジア中東周辺の映画は、イランのアッバス・キアロスタミ監督くらいしか観たことがない。割とヨーロッパの映画が好きな自分だが、中東の映画もキレイな風景だったり、ユーモアが込められていて、不思議だと感じ、もっと深めてみたい、と思った。パレスチナ・イスラエルに生まれた境遇をユーモアに昇華して、作品にしていく気力が凄かった。パレスチナ問題は、結構大変だからねえ……。国際的な問題は、中々難しい、と感じたところもありました。基本的に、風景がキレイで、そこも見どころだった。一言で表現するのは難しいが、不思議で心に残る映画だったことは間違いない。

5,終わりに

 タイトルが『天国にちがいない』というタイトルだったが、自分は、「何を見せつけられているのだろう」というのが第一印象だった。それくらい、新鮮な映画体験をした。この世は、人種や宗教、価値観が違うから、仲違いが起きたり、それが捻くれて戦争が起きたり、分かり合えないっていうことが度々起きる。自分も、価値観や人間関係の齟齬で、嫌な思いをしたり、苦い経験を繰り返してきた。多分これからも、繰り返すと思う。

 でも、この世はつくづく平和なのかな、と思う。今は感染症が蔓延していて、制限掛けられてもどかしい気分になっているが、とりあえず生きていて、何か小さいことでもできていたら、それでいいのかな、と思う。
 今回、目に映った映画の世界と今生きている現状は、多分「天国」だろう。いや、悪いことが起きているけれど、死んでいないから、とりあえず、『天国にちがいない』気がする。

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