見出し画像

絶対見てはいけないクソ映画『絶対クリックしてはいけない動画』(12)

「監視カメラが溢れる現代社会への警鐘」といった、取って付けたようなテーマを、『リングの劣化コピーとしか言いようがない安直な恐怖演出で描くKホラー冬の時代に作られた愚作。

画像35

 2018年、『昆池岩/コンジアム』が267万人の観客動員を達成してKホラー歴代2位の記録を打ち立て、Kホラーは蘇った。Kホラーの黄金時代は90年代末〜ゼロ年代半ばとされ、2003年に314万人を動員した『箪笥』が歴代1位だ。そして、ゼロ年代後半から『昆池岩/コンジアム』登場までのおよそ十年間は、“Kホラー冬の時代”とされる。

 2012年の本作は、まさに“冬の時代”に作られた1本だ。観客動員数は86万7,386人。100万人で一応ヒットとされるので、それほど悪い成績ではない。「その年のサマーシーズンのトップバッターを飾るホラー映画は必ずヒットする」という韓国映画界のジンクスは、辛うじて守られた。

 また、830万人動員という破格の超ヒットの国民的映画『過速スキャンダル』(08)で幼い天才女優として大注目されながら、事務所との契約上のトラブルで数年間メディアに露出できなくなっていた女優パク・ボヨンの復帰第1作という点で、注目には値する。

 逆に言うと、その年の夏のホラー1発目かつパク・ボヨン復帰第1作でなかったなら、86万人のプチヒットにすら到底なれなかっただろう…。

 Kホラーの凡作に対し韓国本国でも必ず言われる「Jホラーのパクリかよ」「まんま『リング』じゃないか」というツッコミが随所で当てはまる。キム・テギュン監督はデビュー作『霊』(リョン 04)でもその嫌いはあった。こうした姿勢が“Kホラー冬の時代”を招いてしまったのではないだろうか。


【前半あらすじ(ネタバレ無し)】
 アバンタイトル。廃屋の一室に人形の首やら目玉やら腕やら部品が大量にあり、そこで呪いの儀式が執り行われている。一体の人形の腹を裂いて綿を取り出し、替わりに生米や毛髪を詰め、赤い糸で縛り上げるPOV映像。これ、ゼロ年代に日本でも流行った「ひとりかくれんぼ」の儀式だ。

画像8

 そこに、女子高生が「いい加減にしてーっ!!」と外から怒鳴り込んでくる。だが、霊的な力により真っ暗な屋内に『フォーガットン』のようにビョ〜ンと引っぱり込まれ、響き渡る彼女の絶叫!そこで題字が表示。

 本編開始。ソウル市内の監視カメラ映像が次々と映し出され、そこに、主人公であるLOTTEデパート店員セヒの出勤姿が撮らえられている。街の監視カメラやスマホ、PC内臓カメラなど、カメラが氾濫する現代社会の危うさ、ということがモチーフになっている本作。セヒは出社後、更衣室で制服に着替えている時、何者かに覗かれているような気がする。

画像3

 セヒの妹ジョンミは高3。ハンドルネーム「若手ベリーダンサー」というYouTuberで、セクシー衣装のダンス動画でかなりの再生回数を稼いでおり、投げ銭で小遣い稼ぎしている(下の写真の髪はエクステとウィッグ)。

ダウンロード

 2人の父は米国に単身赴任中で、母はいない。母親代わりの姉は、高3妹の受験勉強そっちのけのちょいエロYouTuber活動が気に入っておらず、小言も言うが、基本的には仲良し姉妹だ。

 セヒの彼氏は別の女と2人呑みしていたプチ浮気がバレて喧嘩中、セヒに平謝り中だ。彼は名門工業大の学生で、警察のサイバー犯罪課でバイトしている。以上の3人が主要登場人物である。

画像2

 彼氏はセヒ妹に連絡してファストフード店に呼び出し、姉との復縁を取り持ってくれるよう頼み込む。この店で直前まで妹は友達2人と放課後の駄話を楽しんでいて、その時、見たら呪われる動画の噂を聞かされたばかり。

ダウンロード (2)

 警察のサイバー犯罪課ならそうした動画ファイルを、そのサイトが凍結・閉鎖された後でも大量に保管しているはず。姉との仲を取り持ってあげてもいいが「そんな珍しい動画を頂戴」と妹は条件を出す。韓国YouTuber界隈では、レア動画を見たり落としたりしていることがステータスらしい。彼氏はサイバー犯罪課のサーバからヤバい動画を適当にUSBに入れて持ち出す。

 一方、LOTTEデパートで仕事中のセヒのiPhoneに「おヘソの下のホクロが可愛いね」と言うセクハラiMessageが着信。やはり更衣室は覗かれていた!

ダウンロード (1)

  会社に通報しても総務部長は気のせいだと言って取り合ってくれない。「更衣室にも監視カメラは設置されているが(!!?? 韓国LOTTEデパート、マジか!?)それは盗難防止用の単なる脅しでオフライン。誰も見てない」と言う。セヒはその応対に腹が立って、仕事を辞めてしまう。
(怖しいことに、この、主人公がサイバー覗きされてるかも!? という一件はこれにて終了となり、以降のストーリーで二度と触れられることはない。なんの意味ある!?)

 その晩、彼氏はセヒ妹を呼び出し、警察の㊙️動画が入ったUSBを手渡す。中には動画ファイル「1/108」だけしか入っておらず、妹がPCで再生すると、映画冒頭に我々観客も見た「ひとりかくれんぼ」のPOV映像だ(ものすごぉぉく『リング』の呪いのVHSっぽい)。不気味な動画に妹はおののく。

画像7

 ちょうどその時、ライバルYouTuberの「可愛子ちゃん」からPCにビデオ通話がかかってきて、ビビる。「可愛子ちゃん」という糞ダサいハンドルネーム、原語では「カムチギ」さんで、カムチギとは「小っちゃくって丸っこくって可愛い」という意味と、「ずる賢い」と言う意味と、さらには、90年代後半に人気だった炭酸飲料の商品名でもある。

ダウンロード (3)

 子供向け大ヒット商品で、低炭酸。ペットボトルは245㎖と小っちゃくって丸っこくって可愛いサイズ。当時CMが子供たちの間で流行り、流行語も生んだ。日本だとヒュ〜ヒュ〜の「桃の天然水」orいずれ血となる骨となる「鉄骨飲料」みたいな感じのハンドルネームか?カムチギさんがこの映画の時点で20歳前後だと仮定すると、小学校入学前後頃に直撃された計算だ。

 そのカムチギさんも、話を聞いて、その呪いの動画を見たいと言い出す。とにかくこの手の動画を見たり落としたりしていることがステータスらしいので。儲かっているYouTuberカムチギさんは妹にポ〜ンっと日本円で1万円ほどを電子マネーで振り込み、動画ファイルを共有してもらう。

 妹は、姉にはタダで、この不気味なレア動画を見せてあげようと思い、姉の部屋を訪れUSBを姉のノートPCに挿入するが、中のファイル名が「2/108」に変わっており、内容も、駅のベンチでサラリーマンのおっさんが泥酔したミニスカOLを介抱チカンしようとしている映像に変わっていた。

画像13

 不思議に思って妹は自室に戻り自分のPCで見てみると、今度はファイル名がさらに「3/108」になっており、『マトリックス1』風の何もない白ホリ空間に箪笥が1棹、その扉がンギィィ〜っとゆっくり開いて、中の闇から何物かが這い出してきて…という、『リング』の井戸の箪笥バージョンとしか例えようがない不気味動画に変わっていた。

画像10

 そこに、姉が乱入して来て「高3なんだから勉強しなさい!!」とUSBを没収されてしまう。妹は観念して受験勉強を始めるが、すぐ飽きて、YouTubeに上げるわけではなくストレス発散のために、ランジェリー姿になって音楽のボリュームを上げセクシーダンスを爆踊りする。

画像10

スクリーンショット 2021-03-08 7.45.40

スクリーンショット 2021-03-08 7.45.37

 USBを没収した足で姉は近所のコンビニに向かうが、そのレジ裏の監視カメラモニターで、店内を買い物して回る赤いパーカーの女性客の姿を、不審そうに見つめる。赤パーカー女の何がそんなに怪しいのか、説明不足で我々観客には伝わらないし、今後この件が伏線として回収されることもない…。

画像11

画像12

 一方YouTuberカムチギさんは、1万円も払った動画を最後までネットカフェで誰に邪魔されることなく独り見終え、恐るべき真相を知った。何か霊的な存在の気配を感じ、急ぎ自宅マンションに逃げ帰るが、結局、霊にマンション地下駐車場へおびき出され、そこで空のエレベーターシャフトに突き落とされるという、『アパートメント』や『女校怪談4』等Kホラーでお馴染みの、韓国独特の殺され方で死ぬ(日本の『着信アリ』にも出てきたが)。


【後半あらすじ(警告!ネタバレあり!!)】
 翌朝。妹が登校すると全校の噂の的に。なんと昨夜のストレス発散エロ踊りの一部始終が、自室PCのカメラが何故かONになって勝手にYouTubeにアップされ、今朝「ベリーダンサー ヌード」でSNSのトレンド入りをしていたのだ。「売名行為で平気で脱ぐビッチ」と学校で陰口を言われるが、身に覚えが無い。精神的に追い詰められる妹。授業中には、自分の腹から生米や黒い毛髪が溢れ出す不気味な幻覚を見て、悲鳴を上げてしまう。

 帰りの地下鉄では、他校の女子高生集団に「あ、トレンド入りしてるヌード女だ」と無断で動画撮影されて取っ組み合いの大喧嘩に。すると今度はその喧嘩も他の乗客たちに撮影されてネットに晒され、再生回数トップに。YouTubeのコメント欄やiPhoneのiMessageは中傷コメントで溢れ返る。

スクリーンショット 2021-03-07 9.01.25

 さらに翌日。セヒは彼氏から聞かされ、妹が一夜にしてネットの有名人になっている事実をようやく知る。妹を叱責するが「自分は悪くない」と言う妹と口論に。ここで「あの動画の呪いのせいだ!」と気づいた妹は、姉の部屋に乱入。没収されたUSBを取り返し、もう一度開いてみる。ファイル名は「4/108」に進んでおり、今度はカムチギさんが昨夜、ネットカフェから自宅マンションに怯えながら帰宅し、地下駐車場に誘い出され、エレベーターシャフトに突き落とされ死ぬまでの一連のムービーに変化していた。

 その時、突然PCに「お前のせいだお前のせいだお前のせいだ」という文字が、キーボードが勝手に叩かれて打ち込まれる霊障が発生。

画像50

 妹は恐怖のあまり精神に変調をきたし、夜は姉の布団に潜り込んで一緒に眠るが、夜中に夢遊病のように抜け出すとキッチンで卵10個ぐらい分の目玉焼きを作り、熱いフライパンから手掴みで頬張るという奇行に及ぶ。姉が止めると暴力を振るうなど、もはや『エクソシスト』のリンダ・ブレア状態。

画像14

 手に負えなくなった姉は彼氏に電話で助けを求める。ここのショットはなかなか凄い。姉がキッチンから自室(きれいに整理整頓されている)に戻り、iPhoneを取っていったん廊下に出て彼氏に電話をかけ、いま出てきた自室にiPhoneを置こうとクルリと振り返ると、ほんの一瞬のうちに泥棒でも入ったように室内がメチャクチャに荒らされている、という一連を、30秒ほどのワンカットで見せる。ここ(だけ)は「ほほう!」と唸らされる。

 助けに駆けつけた彼氏は、家中に監視カメラを設置するという方法で助けようとする(助けになるか?)。廊下やリビングにカメラは設置できても、リンダ・ブレア状態の妹の部屋に入って取り付け工事はできないので、一計を安じ、巨大なクマちゃんぬいぐるみの目に盗撮カメラを仕込み、彼氏が妹へのプレゼントというテイで部屋に持って行くと、エロく誘ってくる妹。

スクリーンショット 2021-03-08 8.12.38

スクリーンショット 2021-03-08 6.39.06

 迫られて微妙な空気になってしまい、彼氏は盗撮カメラ設置後すぐに退散。姉は各カメラからの映像を寝ずの番でウォッチし続ける。妹は自室のPCでUSBの動画を見まくって、とうとう「107/108」まで来た。それは、我々も映画冒頭で見た、「ひとりかくれんぼ」の儀式中に女子高生が「もういい加減にして!!」と怒鳴り込んできて、そのまま屋内の闇に引きずり込まれる動画だ。これを再生し終えた時、OSの「新規ファイル作成」メッセージボックスがポップアップ表示され、妹は「OK」をクリック。すると108/108という新規ファイルが作成される。それを再生し見た妹は「サンミ!ありえない!!!!!」と狂乱状態に。映画はその108動画を映さず、画面を見ながら恐怖し見開かれた妹の目と、サンミ?なる人物の悲鳴がファイルの音声として流れるだけだが、そもそも、サンミって誰!? そんな登場人物出てきたっけ!?

画像36

 なおこの新規ファイル作成のくだりで、マウスを操作する妹の手元がアップになり、人差し指を深爪しているのだが、そうなった経緯を描くシーンも存在しない(目玉焼きをフライパンから手掴みで食ってもこうはならんよな!?)。これといいサンミ?といいコンビニの赤パーカー女といい姉の更衣室盗撮事件といい、補足的シーンがカットされた結果、部品が足りない欠陥商品のような映画になってしまったのでは!? と筆者は疑っている。

画像16

 サンミ(誰?)の最期を見てしまったことで、今や、妹の発狂は極に達した。夢遊病状態となりPC机から立ち上がると、カメラ内臓クマちゃんぬいぐるみだけ持って、部屋着姿のままフラフラと家から出て行ってしまう。

スクリーンショット 2021-03-08 8.07.46

 妹の失踪時たまたま姉は監視に疲れて寝落ちしていた。朝になってようやく妹がいないことに気づいた姉は(監視カメラの意味ね〜)彼氏に電話で泣きつく。「妹は呪いの動画は本物だと言っていた!あの動画のせいよ!!」とパニクる姉の言葉を聞いて、思い当たるフシありありな彼氏は「あ…俺のせいだ…」と悟り、署で先輩刑事に「正義のネット」事件について質問する。

 ここで彼氏は、自分が警察㊙️動画の中から適当に選んで渡しただけの動画が「正義のネット」事件に関係した動画だと知っていて先輩刑事に質問するが、「正義のネット」は劇中この時初めて登場した固有名詞で、なぜこの段階で突然、彼氏がその事件に気づいたのか、観客には解らない…。

 なお、この先輩刑事は質問される直前、高校で生徒が教師に反抗し、暴力まで振るっている隠し撮り動画を署で見ながら「世も末だな…」と独り言で嘆いていた。ここ、ストーリー本筋とは無関係なくだりだが、意味がある。

スクリーンショット 2021-03-07 10.16.05

 ここ、『女校怪談』へのオマージュでは?『女校怪談』とは、教師による体罰やパワハラを学校の怪談と絡めて描いた、Kホラーの原点とされる98年の映画。しかし『女校怪談1』の解説でも書いたが、2010年前後に韓国各地の自治体で「児童生徒人権条例」が相次いで制定され、教師のパワハラという『女校怪談』の前提が解消され、反対に、立場が逆転し荒れる生徒による学級崩壊が起き始めている、という社会問題に、Kホラーの後輩である2012年の本作は、取って付けたように軽く言及してみたのではないだろうか。

 さて、彼氏はサイバー犯罪課の先輩刑事に「正義のネット」事件について質問し、先輩は語る。「思い出すのも嫌な事件だぜ。駅のベンチでサラリーマンのおっさんが泥酔したミニスカOLを介抱チカンしている映像に見えるが、実はあれ、前後を編集されたもの。実際にフルで見ると、悪質な迷惑系YouTuberの雌ガキ(冒頭で廃墟に『フォーガットン』式にビョ〜ンと引きずり込まれた女子高生)が泥酔OLの大股開きパンチラ動画を撮影しようとして、あの男性は逆に、新聞紙で目隠ししてやってたんだよ。

画像17

 それをそのYouTuberに編集マジックで逆に痴漢しているように切り取られてネットに上げられ、正義漢ぶったソーシャル・ジャスティス・ウォリアー(SJW)どもが群がってきて実名から住所から全部晒され、男性は首吊り自殺し、奥さんも絶望死。一人娘はSJWどもとネット上でバトルを繰り広げた後、『お前ら全員、この動画を見てる奴ら、みんな祟り殺してやる!!』と言って、ネットで公開リスカ自殺したんだ。その時も、SJWどもは『やれるもんならやってみろ』『どうせ狂言自殺だろ』とか煽ってやがった…」

 当時、一人娘をバッシングしていたSJWどもの中には「カムチギ」や「若手ベリーダンサー」のハンドルネームもあった。そう、セヒの妹である!

画像18

 実はリスカ寸前に警察のサイバー犯罪課が気づき、自殺中継を強制遮断したのだが(だから本当に自殺したことをSJWどもは知らず終い)、配信されなかったリスカ動画と、リスカ後、失血死するまでの間に執り行った「ひとりかくれんぼ」の呪いの儀式の動画を、サイバー犯罪課では保管していた。彼氏が適当に選んで妹にあげた動画は、それだったのだ!

画像43

 一方、行方不明の妹を探そうと、妹PCの中の手がかりを探す姉も、その過程で動画を108/108まで全て見てしまい、真相を知る。その時、妹のクマちゃんカメラがWifiでも拾ったのか一時的に復旧し、どこかの町を徘徊する妹の姿が姉のiPhoneに映し出される。妹は家族全員が死んだおっさん一家の廃墟に、「私は殺られたりしない!悪い女め!!」と叫び包丁を振り回しながら突入していくところだった。そこでWifiが切れて配信は再びダウン。

画像34

 姉と彼氏は携帯で連絡を取り合い、妹カメラの位置情報と警察の捜査資料から空き家の住所を突き止め、そこに自宅と警察署からそれぞれ急行する。

 姉が現場に着いた頃には、日が暮れていた。彼氏はまだ到着してない。雨も降り始めた。姉は意を決し単身屋内に踏み込むが、廃墟なので中は真っ暗。そこでiPhoneの赤外線カメラ(そんな機能あるか!?)を使い、スマホ画面を見ながら暗中模索で進む。iPhoneならLEDライトが普通に標準装備なのでそれで照らせば済むと思うが…ここは監督が[REC]っぽい画を撮りたかったんだから仕方ない。映画は緑色の赤外線カメラ映像に切り替わって[REC]風の展開に。そして、妹を探しに来たのに何故か怪しい箪笥に気を取られた姉は、わざわざそれを開け、中にクマちゃんぬいぐるみと別の女の死体を発見する(冒頭で引きずり込まれた女子高生か!? 説明が無く詳細不明)。

画像19

 ここで彼氏が追いつき、彼氏が持つ懐中電灯のため[REC]風演出は早くも終了。同時に妹も見つかる。妹は「ひとりかくれんぼ」動画を見、この空き家に呪いの依代となる人形が隠されていて、それさえ処分すれば呪いは解けるものと信じている。

 3人はついに「ひとりかくれんぼ」儀式が行われた一室を突き止める。そこには全滅した一家の、在りし日の幸せそうな家族写真が壁一面に飾られていた(しかし、この家は人形の部品が商売できるほど大量にあるが、何の家業だったの!? 旦那はサラリーマンなので奥さんが人形作家?説明は無い)。

画像20

 とにかく、依代の人形を動画で見た通りの場所から妹は発見。たまたま偶然そこらへんに転がっていた灯油缶とマッチで燃やし、例のUSBも火の中にくべ、呪いを終わらせることに成功した3人。妹は、痴漢の捏造動画の真相を知って、自分がソーシャル・ジャスティス・ウォリアー(SJW)気取りでおっさんと娘をバッシングしたのは間違いだったこと、また自身も炎上してその辛さを知って、過去の行いを深く反省する。姉も「安らかに眠ってね」と一家の冥福を祈るのであった。

画像41

 が、この映画、あと20分も残っているのだ…。さぁ、ここから『リング』の井戸さらい後の真田広之死亡パートに突入する!

 姉妹の家に戻ってきた3人。妹は安眠し、姉と彼氏が一件落着し抱き合っているところに、姉のiPhoneにメッセージが届く。動画が添付されている。

画像40

 …さっき成仏したはずの少女のリスカ動画だ。いったい誰が送信を!? その時、妹の部屋から悲鳴が!駆けつけると妹は「私たちを殺しに来た〜!!」と怯えてPCを指差す。モニターには、この家の外から配信されているPOV動画が映っている。玄関ドアを開け、家の中に入って来るPOV映像。

 …本作、問題は多いが、ここからが最大の問題だ。以降、妹はずーーーーーっと悲鳴上げっぱなし。セリフもほぼ無く、また、起きている状況に応じて「こういう場合にはこういう恐怖のリアクションを人はとるはず」という人間観察に基づくリアルな演技もせずに、ひたすら叫び続ける。「キャー!キャー!キャー!キャー!キャー!キャー!キャー!キャー!」と一本調子に延々叫ぶだけ。監督が演技指導しきれなくなり「とりあえずずっと叫んでて」とでも女優に丸投げしたのか…。

画像47

 また彼氏と姉が「逃げよう!」と引っ張っても、妹は「キャー!キャー!キャー!キャー!」と悲鳴を上げ続けながらヘタり込んでテコでも動こうとしない。元気に叫んでいるので腰が抜け放心状態という風には見えず、なぜ逃げないのか不明。仕方なく机などでドアにバリケードを築き「呪い殺された人たちに共通点はなかったか!?」と彼氏が聞くと、妹は「あった。死ぬ前に自分の姿が映り、それを見たら死んだ」と答える(そうだったっけ!? 印象的に描かれていないので記憶に無い)。ならばブレーカーを落としPCの電源を喪失させれば助かる!と考えた彼氏は(スマホは!?)、窓から外へと抜け出して家のブレーカーのある場所に向かう。

 しかしその彼氏のあとを追うPOVが、妹のPCに映し出されてしまう。霊はまず彼氏から襲うことにしたようだ!ブレーカーに駆け寄る彼氏。あの「ひとりかくれんぼ」儀式の映像と、走る彼氏の姿がカットバックする。人形がカッターで腹を裂かれると彼氏の腹から血が吹き出し、人形が中の綿を取り出されると彼氏が腹を押さえて悶絶し、人形の目を取り外されると彼氏の目からも出血する、という、呪いなぶり殺し状態になって、彼氏は死ぬ。しかし、命懸けでブレーカーだけは落としてから逝ってくれた。

 悲しんでいる暇は無い。「逃げるのよ!急いで!!」と悲壮にも妹を駆り立てる姉。今度は妹もちゃんと逃げる(最初から逃げろよ)。もちろんこの間ずーーーっと「キャー!キャー!キャー!キャー!」と一本調子に叫び続けていることは言うまでもない。廊下に出ると、電気が点いたり消えたり。えっ!? 彼氏ブレーカー落としたのでは!? し、死んだ意味ねぇ…。

画像46

 2階から1階まで逃げてきて姉が玄関ドアを出たところで、妹は『フォーガットン』のように霊的な力によってビョ〜ンと屋内に引っぱり戻され、そこで玄関ドアが霊的に閉まり、ノブをガチャガチャやっても開かない。姉は家の外に締め出され妹はリビングと、離ればなれになってしまう。

 姉は庭からリビングの窓に回り込み、妹が閉じ込められた屋内の様子を見るが、窓には鉄格子がはまっていて中に入れない。

画像21

 室内では食器棚が開いたり閉じたりし、割れ物の皿やコップが乱れ飛び、シャンデリアが降ってきて、ガスコンロは火柱を上げ、壮絶ポルターガイスト地獄と化していた。妹を救出しに入れないので、ここから先は姉までもが「ジョンミ(妹の名前)やー!ジョンミやー!ジョンミやー!ジョンミやー!ジョンミやー!」と妹の名を屋外からひたすら連呼し、屋内では妹が「キャー!キャー!キャー!キャー!キャー!」と延々叫び続けているという、見ているこっちまで気が狂いそうな地獄の演技・演出に突入していく。

スクリーンショット 2021-03-08 8.17.32

画像35

 妹は破片だらけの床をあえてわざわざ四つん這いで逃げようと決意。掌にガラスがザクザク突き刺さる。姉はまさかの怪力を発揮して鉄格子をこじ開ける。妹は窓際まで這って来た。ねじ曲がった鉄格子の隙間からギリギリ出られるかも…というあと一歩のところで、なんとTVの同軸ケーブルがスルスルっと伸びてきて妹の首に巻きつき、首吊り状態に!もちろん姉は「ジョンミやー!ジョンミやー!ジョンミやー!ジョンミやー!」と半狂乱だ!!

画像22

画像33

画像32

 もはや1分1秒を争う事態。姉は怪力で鉄格子をこじ開けることを断念。外階段から2階に上って建物内に入る作戦に切り替える(最初からそうしろ)。しかし時すでに遅し、哀れ妹は縊死してしまっていた…。姉の「ジョンミやー!ジョンミやー!ジョンミやー!」の哀叫がいつまでも響き渡る。

画像31

 キレた姉は「呪いを解く方法なんて最初っから無かったじゃない!一体あんたはどうして欲しいのよ!!」と泣きわめきながら、PCモニターやTVを鉄パイプで片っ端から叩き壊す。でもうっかり自分のiPhoneは壊し忘れちゃった!iPhoneに心霊POVビデオ通話が着信!霊は今、この家の屋上にいる!!

 屋上に上って霊と対峙するセヒ。「独りで死ぬのがイヤなの!? 注目されたかったの!? どうせ世間はあんたなんかに関心ないわ!」と、父が自殺に追い込まれ自らもネット炎上で自殺した相手に言うには酷い罵声を浴びせる。

画像23

画像30

 すると霊は「世間の注目なぞ必要ない」と返答。セヒ「ならもうやめて!私たちもあなたと同じ被害者なのよ!?」と言い返すが、霊「ならば、死ねェい!」と問答無用で襲いかかってくる。霊の声はエコーがかかり、襲ってくる時の顔は何故かとろ〜りピザチーズ状態。片目は『ターミネーター1』でカッターで眼球をえぐり出した後のシュワ状態。なぜリスカで自殺した娘の霊の顔がpizza+T800÷2状態なのか!? 脈絡も必然性も意味も無い。「CGで思いつくまま適当に怖そうな感じに加工してみました」でしかない。

スクリーンショット 2021-03-08 6.39.17

 セヒは2階建ての屋上からアスファルトの路上に突き落とされる。落下しながらセヒが見た遠ざかる怨霊の顔は、元の美少女に戻っていた。

画像26

画像27

画像43

…本作のキム・テギュン監督、心霊映画や恐怖演出について、ナメてる。かろうじて怖い演出は『リング』などJホラーからの借用。デビュー作の『霊』(リョン 04)からしてすでにそうだった。本国でも「Jホラーのツギハギ!」との酷評が多く見られる。“Kホラー冬の時代”を招いたA級戦犯の、少なくとも1人ではあると断罪したい!韓国版『リング』の脱線映画評でも書いたが、恐怖は、それをどういう映画術を用いれば作り出せるか、作り手が真摯に真剣に追及しない限り、生まれてこない。そうした真摯さと真剣さが、キム・テギュン監督だけに限らず、この時期の作り手たちには欠けていたため、「冬来たる」となってしまったのだろう。冬が明けるのは、真摯かつ真剣に恐怖に取り組んだチョン・ボムシク監督(『昆池岩/コンジアム』)の出現を待たねばならなかった。 

【エピローグ】
 屋上から転落したセヒは死んでいなかった!翌朝、救急隊に助けられる。近隣住民が野次馬と化して集まってきて、スマホでその模様を撮影。町なかの監視カメラもその様子を撮らえていた。今度もネットに晒されるかもしれない。セヒはまた「キャー!キャー!キャー!」と叫び始め、その悲鳴がやまぬまま救急車に乗せられ、そこで終劇…YouTube時代に叩きつけた社会派メッセージだとでも言う気じゃなかろうな!? いい加減にしろコノ![終]

画像28

画像29






この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?