切り刻むのは、夜。

高校生の頃、私を可愛いといって褒めそやした友人がいた。

クラスが違ったから大して関わりは無かったが、たまに一緒に昼食を食べたり、放課後カラオケに行ったりしていた。

彼女とは“ゆめかわいい”や“メンヘラ”、“ヤンデレ”について語り、自分達がどこに位置するのか、どこまで行けるのかを探求して過ごしていた。大森靖子や当時流行っていたVOCALOIDのアルバム“地獄型人間動物園”の楽曲を好んで聞き、一緒に配信アプリで歌を投稿したりしていた。

当時、私も病んでいたし、彼女も病んでいた。でも病んだままパステルカラーに身を包む自分達が可愛くて仕方がなかった。

彼女はクラスでは厄介者扱いされてあまり居心地が良さそうではなかった。私はそもそも友人と呼べる友人がいなかった。

高校を出ると私は漆黒の虚無大学生に、彼女はパステルカラーのまま、ホス狂になった。彼女はホストクラブで知り合ったであろうパステルカラーの友人と毎晩のようにブロンODをしてリストカットするのをツイキャスで配信していた。

いつだって、夜は私達を孤独にさせた。
私は孤独を愛し、彼女は孤独を拒んだ。

孤独を拒む人間に、夜はあまりにも長過ぎる。それなのに、孤独を拒む人間がエゴイスティックに縺れ合うのも決まって夜だ。

彼女は夜に苦しみ、同時に夜に生かされる。最悪と最高は紙一重みたいに、彼女は躁と鬱を同じ夜の中で繰り返していた。

身体なんてのは飾りにしか過ぎない。綺麗とか醜いとかはあるかもしれないけれど、刃を入れたら血が出るし、脆くて、しょうもない。

腕なんて切っても意味なんてないこと、彼女だって分かってるはずだ。

だから、私は夜を切り刻みたくなった。長過ぎる夜、明けると言われてから一向に明けない夜、一度しかない夜、潰えたら戻らない夜。

夜とはなんなんだ。私は最近自分がどこに向かっているのか分からない。

私がやりたいことは小説との心中である。それなのに私は小説をほっぽって中身のないnoteを書き、思ってもないことをTwitterでつぶやき、意味もなく映画を見ている。

私が小説をほったらかしにするので、小説も私には愛想が尽きたらしく、最近全然筆が乗らない。私をもっと遠くへ連れて行って。なんて言い出したのは私のほうが小説の方か、もはや何も思い出せないが、とにかく私はこれ以上馬鹿になる前になんとか仲直りをしなくてはいけない。

それなのにまた私は夜を切り刻む為に浮気しそうだ。私は夜を切り刻んではいけない部類の人間だったのかもしれない。

そもそも私は何故一人で生きている気になっているのか。本当に切り刻みたいのは夜なのか。彼女にとって夜は毒だったが、私にとってはどうだったのか。

無論、私が今一番切り刻みたいのは何かと圧迫してくる上司である。私の精神と金銭は上司のせいでいつだってギリギリだ。それを一緒に切り刻んでくれるのが小説だったじゃないか。そしてその実行を闇の中に隠してくれるのが夜だった。

私は夜に切り刻む、小説と共に。



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