海、君の笑顔を見る夢

愛する人と真っ当で、幸福な未来を夢みたことがありますか?かつて私はそんな夢を見ていました。

適応障害と躁鬱を併発したその人と、統合失調症と解離性同一性障害を併発していた自分。私はその人と一緒にいるうちに、少しずつ病状が良くなり、その人も最悪なときよりかは少しずつ安定していたようだ。

私はその人と、真っ当な幸福を望んだ。海、水族館、イルミネーション、花火。私はその人としか行きたくなかったし、自分からめったに外に出ることもなかったから、その誘いを伝えるにはかなり勇気がいった。

しかし、結局その誘いはなんやかんや断られ続け、どこにも行くことはないまま私達は離れた。別にもう誰とも何もしたくなくなった私はそれならそれでいいかと、生きていた。

それから、もう誰と交際したって、誰に誘われたって何にも魅力的に感じなかった。海も、水族館も、イルミネーションも、花火も。あの人がいなかったら何も意味なんてなかったことに気付いた。

そしていつしか、幸福な夢すら忘れた。

そもそも全部興味がなかった。あの人とも、恋だったのかすら分からない。

狭い社会の中で、友人もおらず、与えられた席にただ座っている、何かに怯えるように。人前で食事すらまともに食べることができない。誰とも話さない、誰とも目も合わせない。そういう人間はこの小さな社会の中で私だけだと思っていた。それなのに、真隣に同じ人間がいた。しかも私と違ってべらぼうに顔がいい。これが運命のいたずらか。

別にあの人は運命でもなんでもなかった。ただ、私と同じで弱い人間だった。傷を舐め合うのは居心地がよかった。きっとそれは二人とも同じだった。二人が二人に依存して、何がしたいのかもわからない。戯れ合うみたいに傷つき、傷つけた。

ただ、全ての美しいと思う風景にいてほしかった。綺麗で、色気があって、涙の似合う人だった。そもそも、もしかしたらあの人が幸せに笑った途端に私が冷めることをあの人は気付いていたのかもしれない。

それでも、いまでもあの人が青空の下で、きらきら輝く海を背に笑っているのを想像するんだ。もう、その顔すらもあまり覚えていないのだけれど。それでも、私じゃない幸福な誰かとなら、きっと叶うよ。


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