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コロナ前のヨーロッパが僕をカメラマンにした (4)

ミラノに着いた僕はなぜか四つ星のホテルにいた。

部屋にはバスローブ、朝食にはてんこ盛りのフルーツとクリームチーズの載ったサーモンも食べられちゃうようなところだ。

なぜこんなことになったかというと、全ては地元京都で会った靴職人のカップルの二人のおかげだった。

サルバトーレとマックスは、たまたま僕の学生時代のバイト先に遊びに来ていたイタリア人の靴職人だ。

一度店であって話してお買い物してくれたのち、次の日道でまた遭遇するという嘘みたいな出来事から仲良くなり、ミラノに来る際はぜひ連絡してくれと言ってくれていた。

その言葉を図々しくも忘れていなかった僕が今回押しかけたというワケだ。

到着して最寄りの駅まで迎えに来てくれていたサルバトーレ。もう時刻は夜の10時ごろだった。

久しぶりに会えた喜びもそこそこに、彼が言ったのは「ごめん、申し訳ないんだけど、明日から僕らはパリに行かなくちゃならない。」

彼らはエルメスなどのハイブランドの靴の製作を引き受けるファクトリーの創業者であり、ファッションウィークにはブランドとの打ち合わせも兼ねてパリに向かわなければならないという。

ということで、自分たちがお世話できないからと言って、友人が経営している四つ星のホテルを僕にあてがってくれたのだ。

最後の最後に豪勢なホテルに泊まることになり、気分は海外取材に出てきた売れっ子小説家だった。

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ミラノは滞在時間は短かったものの、印象深い街だった。

こじんまりしていて、歩いてだいたい回れるし、フラッと小さな美術館やお店にも入ってみたりできた。

もちろんドゥオーモも圧巻の建築だったけど、夕方になると街にいる人たちが、座っておしゃべりしたり、ゆったりしているのが心に残った。

そんな人たちをかき分けながら、おすすめしてもらったピスタチオ味のジェラートを片手に街を歩き回った。

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日が暮れるころ、自分が一人なのにちょっと寂しくなる。

急によそ者だと実感する。

このままこの街に消えたら自分はどうなるのだろう。

誰か気づいてくれるのだろうか。

街の人たちみたいに一緒にいてくれる人ができるのだろうか。

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そんなことを思っていた最後の夜。

二人がパリから帰ってきて一緒にご飯を食べようという。

向かったのはミラネーゼ御用達の小さなレストランだった。

二人は丁寧に全ての料理を説明してくれて、美味しいワインを飲んだ。

それから、二人の出会いの話を聞いた。

年下のサルバトーレからのほぼストーキングに近い熱烈なアプローチあって、付き合うことになったらしい。

ミラノの夜道を歩きながら、二人の笑顔が目に焼き付いた。

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ヨーロッパでは僕は完全によそ者だったけど、多くの人たちが僕に入り込む「隙」を作ってくれた。

及び腰の僕に、ほらほら何やってんの、こっちきなよと。

ロンドンのホームパーティで一緒に踊った女の子も、フランスのバーで音楽の話をした男の子たちも、ミラノの店で出会ったオシャレなマダムたちも、知らぬ間に僕が彼らの輪に入る手助けをしてくれていた。

あの頃の僕はそんなにカメラに必死じゃなかったけど、そんな彼らの一部を、ちょっとでも切り取って持ってこれたことに幸運を感じている。

いつみても、自分がなんとなく切り取った光景がそのまま鮮明に蘇ってくるのだから。

また戻るだろう。

次もおっきなカメラじゃなくて、ちっさないつでも撮れるヤツで、あの日お世話になった人たちと、まだ見ぬ新たな出会いへの期待を胸に、今度は遠慮なくハイチーズも言わずにシャッターを切ってやりたいのだ。


K

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