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人間の予測機能と修正機能

私たち人間は、意識的に行動するときと、体を無意識に動かしているときがあります。朝起きてトイレに行ったり、準備をして出かけたり、電車に乗るとき、車を運転するときも、多くは「無意識」レベルで行動しています。脳にはコンピューターのCPUのような箱があって、その容量には限界があります。エンジンをかける、アクセルを踏む、ブレーキはこっちで、後ろに車がいるからバックミラーをみたり、サイドミラーをチェックしたり、これらすべてをいちいち「意識的」に制御していたら脳はパンクしてしまいます。

スポーツでも同じだと思います。相手がボールを持っていて、仕掛けてくるとき、プレーヤーはほぼ無意識に身体を動かして足を出したり、ボールを止めたり。何度も何度も繰り返し経験してきたデータが「この場合はこうだろう」と推測して過去の情報を使いまわした方が脳のエネルギーを浪費せずに済みます。もし現実が推測と同じだったら、私たちの脳は現実から情報を取り込むことなく、無意識に身体を動かすことができます。

つまり眼や耳から入ったデータをほとんど使うことなく、ここでボールを扱う選手はこちらに進むはずだ、というシミュレーションを「現実」として体験するということ。私たちが日常をスムーズに過ごすことができるのは、脳が生まれ持つシミュレーション能力のおかげです。

でもこの能力が仇となることもあります。人間はかように高次な予測機能を持つことで、歪んだ物語を創造し精神を苦しめるときがあります。いつも明るくあいさつをしてくれる同僚が、ある日急にそっけない態度を取ったとしましょう。あなたの高次シミュレーション能力は高速でこの状況を分析。結果として「嫌われたのではないか?」という思いを浮かび上がらせて、いつまでも反芻、メンタルを蝕み続けます。

「忙しくて意識が仕事に向いていた」

単にそれだけのことであることの方が圧倒的に多くて、ありのままの今を丁寧に処理すれば、「また時間を置いてから話しかけてみよう」というシンプルな感情でその場をやり過ごすことができるのですが、人によっては無駄にシミュレーション能力が高すぎて、心を悩ませてしまうのです。

ホメオスタシスとは、全ての生命体が持つ自動修復システム。外部の変化に対応して身体を常に同じ状態に保つことができる能力です。もし転勤などで海外に赴任することになれば、最初は大変でも「住めば都」になります。前職ではまったく芽が出なかった人材が、転職後にウソのように活躍するケースも珍しくありません。このように私たちは、他者や環境との交わりの中で自己の輪郭が描かれ、柔軟に形を変えていくことができます。

シミュレーション能力は、高次物語生成能力でもあり、うまく使えばフレキシブルに今を生き抜くことができます。過去のデータを活かしながら、現実と同じであれば無意識に。データと現実に乖離があれば、現実を素直に受け入れて今に馴染むことができるのです。無意識の自動システムを生かしつつ、「今を生きる」ことに集中すれば、無駄にイライラしたり心配したり、怒ったり落ち込んだりすることもなくなると思われます。

久保大輔




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