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摂食障害のリアルと克服まで

皆さん、こんにちは!

Heading South代表の廣田千晶です。

前回、アメリカの大学へ留学後、環境変化にうまく適応できず、摂食障害になってしまったというお話をしました。

若年層を中心に、コロナ禍のストレスや不安から摂食障害患者が急増しているとの話を耳にします。この病気は、精神的な病の要素が強く、経験者でしか分からない独特の辛さがあります。また、患者さんご自身が治りたい、治そうと本気で覚悟を決めない限りは、克服することがとても難しい病気でもあります。

あくまでも私自身の体験談ですが、今、苦しんでいる方々やそれをサポートされる方々にも少しでもご参考になりましたら幸いです。

私の場合は、留学に伴う環境変化で一時的に食欲が減退したことで、スルスルと体重が落ちて行ったことがきっかけでした。幼少期から太っていていじめられた経験のある私にとって、アメリカに留学して再びぶくぶくと太ることは何としても回避したいという思いが常に片隅にあったことも一因だったのかもしれません。最初は、体重が日々落ちていくのを見るのが純粋に楽しいといった軽い気持ちでしたが、徐々に欲求がエスカレートしていき、少しでも減らない日があると、何かに取り憑かれたように体重を減らしたい欲求に駆られ、食事を極端に控えることが増えていきました。そうした状況が2ヶ月くらい続いた頃でしょうか。気づけば、ほんのわずかでも体重が増えることに強迫観念のような異様な恐怖感を持ち始めていきました。

拒食症は、周囲から見てものすごく痩せ細っている人でも、当人は何かに取り憑かれたように太っていると思い込んでいます。私の場合は、2ヶ月程度でほぼ平均体型から15キロほど急に痩せたため、先ず友人たちが驚いてとても心配してくれました。「どうしたの?もっと食べないとダメだよ」「そんなに痩せてどうしたの?」と心配して声を掛けてくれるのですが、私は「この人たちは、私を太らせようとしている」と本気で思い込み、友人たちの厚意を完全に拒絶してしまったのです。悲しいことに、拒食症を患う人たちにとって、太らせようとする人はみんな敵に見えてしまうのです。

友人と共に食事をすると「それだけしか食べないの?」と指摘されることが辛くなり、人と食事することを避けるようになりました。また、絶対に体重が増えないように、1日のカロリーや摂取量をコントロールするために、決まったものしか口にしなくなっていきました。

拒食症は、「食べられない」のではなく、「食べたくて仕方がないのに、体重が増えることへの強迫観念から、食べられない」ため、食に対して異常なほど執着します。1日に口にできる量を頑なに決めているため、食事中は食べることに全神経を研ぎ澄まし、誰にも邪魔されたくないと思っていました。

初期のフェーズでは、やたらと活動が活発になるのも(個人差は多少あるとは思いますが)特徴のひとつです。ろくに食べていないにも拘らず、ローラーブレードで20キロを走ったり、ランニングしたりと、異様なくらい日々意欲的に運動していたように記憶しています。

ただ、継続的に運動はしているものの、十分に栄養を摂取していないので、脂肪だけでなく筋肉も落ちて、だんだんと骨皮になっていきます。そうすると、当然ですが代謝も落ちて太りやすくなるのです。他方、太ることは何としても阻止しなければならないとの思いに支配されているので、食事の内容を見直したり、運動を増やしたりと、過剰なほど神経質になり始めるのです。

食べたいのに食べられないから、頭は常に食べ物のことでいっぱい。
食べ物のことが頭から離れず、怖くて何も買えないのに食品スーパーを長時間徘徊したりすることも増えていきました……。

痩せ始めてから4-5ヶ月くらいで20キロ近く痩せ、この頃になると、過食が始まりました。食欲は本来、視床下部にある摂食中枢と満腹中枢のバランスでコントロールされていますが、食べたいのに食べることを我慢し過ぎた結果、食欲をコントロールする中枢のバランスが崩れ、もはや、脳が満腹を感じられなくなっているのです。

「食べたくて仕方がないのに食べない」という我慢をし続けている状態が、些細なきっかけで崩壊するときがあります。例えば、食べ物をおまけやお土産などで大量に戴いたりしたときなど。そうなると、もう堰を切ったように食べ続けるのです。我慢もできなければ、満腹中枢も壊れているので、制御不能に陥ります。

過食もまた、取り憑かれたように食べるので、絶対に人に見られたくない姿でした。太りたくないという恐怖感から、過食の後は嘔吐するなどして食べたものを出そうとするのですが、嘔吐する度に大きく落ち込み、自分は一体何をしているのだろうと、自分を責めることが増えていきました。

こうやって、拒食と過食を繰り返すスパイラルに入るのです。誰にも見せられない、気持ちを吐露できない状況の中で、段々、自分が疲弊していくのを感じました。もうこの頃になると、動くとお腹が空くからと、休日は食べずにベッドに篭って美味しそうなお料理の本をひたすら眺めていました。「自分は何のためにアメリカまでやってきたのだろう……」と、こんな状態で、こんなにもくだらない理由で身動きが取れない自分に対する絶望感から涙が止まらず、生きることが段々と辛くなっていきました。

身近に拒食症の経験者がいないと、実態をご存じない方も多いのではないかと思います。摂食障害は、急激な体重減少によって、死に至ることもある恐ろしい病ではありますが、経験者としては、精神的に蝕まれることがこの病の本当に恐ろしい面だと感じています。

私の場合は、4ヶ月くらいで20キロ近く痩せましたので、脂肪はもちろん、筋肉も落ちて、鶏ガラのようになってしまい、お風呂に入るときは骨が当たって痛くて湯船に入れなくなったり、背中には常に床ずれがありました。また、生理が止まり、体温が低下したり、体毛が濃くなったりもしました。

そして、本人はもちろんこの状況から一刻も早く抜け出したいのですが、治癒は即ち体重を増やすことを意味します。この病気が何より厄介なのは、心は太ることへの恐怖に完全に囚われているため、治したくても治す覚悟が決められないことにあります。しかしながら、摂食障害の克服とは、日常的に食べることを再び定着させることであり、それが継続的に実行できるかは、本人の意思に他なりません。それゆえ、本人が体重増加の恐怖と闘う覚悟を決めて一歩踏み出すことで、初めて、回復フェーズのスタート台に立てるのです。

私の場合は、覚悟を決めざるを得ないきっかけがありました。

摂食障害が始まって約2年が経過した大学2年生の夏休みに母と旅行に行く機会がありました。母に心配を掛けたくなかったことから、裸を見られないように隠れてシャワーを浴びようとしたところ、バスルームで不意に母に背中を見られてしまったのです。背中には床ずれができ、鶏ガラみたいになった私の姿を見て、母は大泣きしました。

母にここまでの思いをさせて、この状況を続ける価値がどこにあるのだろうか……。そう思ったとき、この状況を終わらせようと、漸く決心がついたのです。

生理が長く止まっていたこともあり、ホルモン治療も加えながら、克服に向けて、食べることを始めました。満腹中枢がうまく機能しない中で、食べ過ぎることもしょっちゅう。これまで食べていなかった分もあり、ものすごい勢いで体重が増加していきます。顔もむくみでパンパンになりながら、体重がどんどん増えていく恐怖と戦いながら食べ続けることは、食べることに喜びを感じるには程遠く、精神的にとても辛くしんどいものでした。

日々体重が増加していく顔や体を見るのは苦痛でしかありませんでしたが、食べることは治療であり、また元気な自分を取り戻せると信じて、極力、自分の姿を見ないようにして生活していたように記憶をしています。

私の場合、治すことを決意して幸いにも半年くらいで生理が戻ってきました。一方で、正しく満腹を感じられ、本当の意味で人と楽しくお食事ができるようになるまでには、実に6-7年くらいの時間を要しました。

さて、アメリカで摂食障害に一番苦しんでいた時期は、両親も心配して何度も大学をやめて帰国するように促されましたし、私自身、心身ともに限界を感じていたのは事実ではあったものの、最後、諦めずに踏ん張れたのは、実は、人生を変えた出逢い(その2)で触れた、学年主任の言葉があったからだったのです。

有名国立大学への進学に傾倒していた学年主任に、「お前がもしアメリカの大学に行ったら、お前の人生はロクなものにならない」と言い切られ、憤慨して「先生に私の人生を決められたくない!」と啖呵を切った手前、ここで帰ったら彼の言っていた通りになると思ったら、絶対に帰りたくありませんでした。

別の地域の大学への転校など、入学当初に思い描いていた夢で実現できなかったことは色々ありましたが、それでも、あの言葉がなかったら、私は間違いなく踏ん張り切れなかった。今は、学年主任に本当に感謝しています。

この回の最後にもうひとつお伝えしたいのが、家族や身近にいる方々のサポートのあり方です。前述のとおり、摂食障害を患う本人は、取り憑かれたように体重増加に対する脅迫観念がある状態です。私のときも、家族が心配して何とか食べさせようと、「骸骨みたいで魅力的じゃない」とか、「そんなに食べないなんて、頭おかしいんじゃないか」と手を替え品を替え説得を試みるのですが、その時の言葉によって、自分でも驚くほど激しく傷ついたことを鮮明に覚えています。

「食べたくて仕方がないのだけれども、食べられない」という精神的な病であるということを身近な人は是非理解して、寄り添ってあげて欲しいと思います。治そうと決心してからも克服までには本当に時間を要しますし、一度決めたからと言って、辛くて食べられなくなる時期もあります。

食べられないことを責められたり、無理して食べさせようとすると、本人は「私を太らせようとする敵」だと認識します。それが例え、家族や親しい友人やパートナーだったとしてもです。無理に食べさせるのではなく、何故食べられなくなったのかというきっかけや背景にある気持ちを聞いて、受け入れてあげてください。本人は、決して孤立したいわけではなく、現状から抜け出したいと必死にもがいています。何があっても味方であることを理解してもらったうえで、今よりも良くなるために、何ができるかを一緒に考えてあげてください。

個人的な話ではありますが、今、苦しんでいる方々やそれをサポートされる方々にも少しでもご参考になりましたら、とても嬉しく思います。

<<つづく>>

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