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多様性に伴うアニソンの変化 〜対談 with 冨田明宏 #3 〜

THECOO 株式会社代表の平良 真人の対談シリーズ。

前回は、アニメとアニソンは絶妙な相互関係で成り立っているからこそ、熱狂が生まれるし、文化として世界に広がっているというお話しを伺いました。( # 2 はこちら

今回も、音楽評論家・音楽プロデューサーとして活動されている冨田明宏さんと、アニソンの世界を深掘りしていきます。

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冨田明宏(とみたあきひろ)
音楽評論家・音楽プロデューサー
数々の人気アニメ主題歌やゲーム音楽、CM音楽、アーティスト・プロデュースを手がける。
音楽ライター時代は年間 120 本にも及ぶインタビューを経験し、アニソン評論家として『アニソンマガジン』や『リスアニ!』などアニメ音楽専門誌でメインライター、スーパーバイザーなどを担当。ラジオパーソナリティー、『マツコの知らない世界』や『関ジャム 完全燃SHOW』などメディアでも活躍中。

基本はオーディション。クリエイティブファーストの世界

平良真人( 以下、平良 ):
これまでのお話しの中で、" アニソンは自由 " というお話しをたくさん伺ってきたのですが、そうなると、ドラマのタイアップは自由さがないバージョンなのですか?なにを自由さというのかを知りたくて…。

冨田明宏氏( 以下、冨田氏 ):
単純にテレビドラマで扱われる内容が、日本社会における恋愛やヒューマンドラマなど、いろいろと限定的ですよね。だから必然的に音楽としての幅が生まれにくいし、さらに言うと、その主題歌は基本的にアーティストやバンドが担当することがほとんどで、いわゆるポップスとしてのマナーから逸脱する必要がない。しかしアニメはその点、現在も過去も未来も扱うことがあれば、SF やファンタジーもあるし、もちろん恋愛やヒューマンドラマもあります。しかもすべてにおいて日本人が主人公とは限らず、主人公が外国人の作品もあれば宇宙人の作品もあります。そういった作品に寄り添うことを考えると、必然的に音楽の自由の幅が広くなります。

そしてこれはあくまでの僕の主観のお話しですが、実写ドラマや映画には、まだまだ作品性やストーリーとまったく関係ない「なんでこれが主題歌なの?」というものが多いように感じられます。勿論、作品に寄り添った素晴らしい曲もたくさんありますが、ぶっちゃけ裏にある ” 政治 ” が透けて見えちゃうものも多いというか( 苦笑 )。
アニメ業界ばかりを褒めそやすつもりはないのですが、本当にクリエイティブ・ファーストな現場が多いんですよ。声優さんの配役もですが、本当にオーディションがメインですから。もちろん監督や原作者のイメージが固まっていて指名される場合もあると思いますが、ほとんどがガチのオーディションで決まります。有名無名問わずなので、そこはすごくフェアな業界だなって思っています。

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平良:
なんとなくわかってはいたんですけど、そんなにも違うんですね。

冨田氏
もちろんエンターテイメントなので、見てもらって聞いてもらってなんぼの世界ではありますけど、皆様が思っている以上にクリエイティブ・ファーストな世界だと僕は思っています。だから、僕も 10 年以上アニソンのメディアをやったり、アニメの主題歌や声優の音楽プロデュースなどをやっていますけど、本当にトレンドを読むのが難しくて。「 今はこれをやったら、この人だったら売れる! 」みたいなヒットの法則や ” 流れ ” のようなものが見つけにくくて。たとえば、低予算でメディアがまったく注目していなかった作品でも面白ければ大ヒットを記録することもあります。その逆で、予算も潤沢で有名声優が目白押しの作品であっても、作品が評価されなければビジネス的に上手くいかないことも多々あって。だからこそ、常にクリエイティブ・ファーストを意識せざるを得ないのかなと。そこを一生懸命にやる以外、生き残るすべがないとも思っていて。

平良:
そこには、ユーザーのフェアな感覚があるんですか?

冨田氏
そうですね。有名無名関係なく、結局「 面白いものにお金を払いたい 」という意識は昔からあると思います。そこがオタクの良さです。
原作があるものだったら、その原作をどれだけ大切にしているか、監督が原作を読み解いた時にどのシーンを大切と思ったかが大事になってきます。どうしても漫画 10 巻近くあるものを 1 クールにまとめるとなると、描くものを選択しないといけない。どの点をつまんで線にして物語を作るのかをお客さんは真剣に見ています。配役も同じで、一体誰だったらこの役がふさわしいのかと。

平良:
そうなると、作品がヒットすれば、そこから声優も出やすいんですか?

冨田氏:
アニメ作品が以前とくらべて各段に増えたことで、声優さんにも当然出演のチャンスは巡ってきやすくはなったと思います。ただ昔ほど 1 回ヒットしたら安泰みたいなのもなくなって来ている印象です。やはり多様化が進行した結果、業界全体を巻き込むような空前のヒット作品のようなものが出にくくなってしまって。それでもまだまだチャンスは多い業界だとは思っていますね。

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平良:
アニメをそういう目で見てみたくなりました!アニメとかアニソンを聞いてみたくなりました!

冨田氏
これも個人的な見解ですけど、アニメとかアニソンは、「 ウソでしょ!? 」と軽く引くくらいクレイジーなくらいが際立って評価もされやすいのかな?って(笑)。

平良:
日本においては、アニメはそれだけ自由な世界であるってことなんですね!

多様化したアニソン業界は、もう本物しか残れない

冨田氏:
とあるレーベルの音楽プロデューサーを外注でやっていた時、あるアニメ作品のオーダーで「 日本人誰もが知っているけれども、まだアニソンやっていないアーティストに主題歌をお願いしたい 」と言われて、リストアップしてみようと頑張ったことがあるんですよ。
でも考えてみたら、サザンオールスターズ、GLAY 、L'Arc-en-Ciel 、LUNA SEA もアニソンを歌っている。ユニコーン も、RADWIMPS も、BUMP OP CHICKEN も、ミスチルでさえもアニソンを歌っています。結論から言うと、もうほとんど残されていませんでした。実写映画の『 るろうに剣心 』はやっていますが、アニメ主題歌をやっていないのは ONE OK ROCK くらいで。
今、日本の有名な作詞家、作曲家、編曲家、アーティスト、バンドなどなど優秀なクリエイターの表現の受け皿の一部として、アニメが存在しているなと改めて感じています。
昔は子供向けという偏見から、敬遠されることもありました。でも今は「 海外でも評価されている 」という実績もあれば、アニメ主題歌から有名になったアーティストだって沢山います。さまざまな可能性を感じたアーティスト達が、今では積極的に楽曲提供をしている印象を持っています。

平良:
アーティストとアニメのコラボが主流な時代になっているんですか?声優さんが歌う事が少なくなっているイメージがあるのですが…

冨田氏:
アーティストも増え、声優も歌い、キャラクターソング も、アニソンアーティスト もいる……もう一括りでは状況を語れない時代になっていますね。これはどのエンターテインメントも打ち当たる壁ですが、成熟した後に待っているのは多様化と飽和です。アニメ も多様性がかなり進んでいますし、連動しているのでアニソンも多様化していきました。「 キャロル&チューズデイ 」が、なぜ海外のアーティストを沢山使っているかというと、Netflix を通して世界配信されることが決まっていたからで、オープニングテーマ、エンディングテーマはもちろん劇中歌も全部英語で歌われています。そういうエッジィな作品もあれば、声優さんたちがキャラクターを演じながら歌う可愛らしいキャラソン主題歌もある。かなりカオスな状況になっていますね。

こうなってくると、もうアニソンをスタイルの違いなどで語るのも可笑しな話になってくるので、「 その作品に対して本当に相応しく、素晴らしい曲かどうか 」が唯一の判断基準になってくる気がしています。このカオスかつ飽和的状況の中で残るのは、スタイル云々ではなく、本物だけです。音楽を作る作り手が、アニメーションに対してどれだけ誠実であるか。その関係性が本物じゃないと、もう箸にも棒にもかからない。今はアニメのタイアップ枠って、軽い気持ちで関わると一番痛い思いをするプロモーションかもしれないですね(笑)。

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ビデオ・オン・デマンド サービスの普及により、高まる挿入歌の需要

平良:
アニメ自体の競争も激しいから、尚更そうなりますよね?

冨田氏:
そうですね。アニメも今や年間 200 本とか放送されていて、その中でも本当にヒットする作品は、年間 5 本あるかないかだと思うんです。なので DVD やブルーレイなど、パッケージとしてリリースを重ねると赤字になってしまうようなこともあるんだろうなぁと。今のビジネスの形態としては、パッケージに頼らず Netflix やアマゾンプライムなどに作品を貸し出すことで費用を回収する、というような部分も非常に重要になってきました。もっと言えば「 Netflix出資によるアニメ 」も増えています。そうなると、だんだんとアニソンの形も変わって行く気がするんです。はじめから海外配信を意識すれば音楽性や言語、起用するアーティストも考えなければならないし、テレビでオンエアされるからこそ必要なオープニングテーマやエンディングテーマも形を変わっていくかもしれない。僕自身がそうですが、12 話とかまとめてみるときはスキップしたくなっちゃいますから(苦笑)。

つまり、作中で流れる挿入歌の方が聴いてもらえるのかな? なんて思うんですよ。そうなると、アニソンの ” 1コーラス = 90 秒 ”という制約も問われなくなる。バトルが売りの作品だったら、毎回バトルシーンで流れる挿入歌の方がお客さんの印象に残って買いたいと思ってもらえるかもしれませんよね。

平良:
Netflix で「 ジョジョの奇妙な冒険 」を見ているんですけど、たまに初めのイントロをずらしていますよね。ちょっとずつ変えていたりとか。最終話近くはオープニングで「 THE WORLD 」が発動されたり、飛ばさない対策しているなって思いました。

冨田氏:
オープニングやエンディングを切り分けて考えず、30 分という尺全体を楽しんでもらうために、アニメに対する音楽の役割を考え直さなくてはいけなそうですね。

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平良:
音楽にストーリーを入れてくる可能性もあるんですね。

冨田氏:
毎回オープニング、エンディングを変える可能性もありますよね。毎回歌う人を変えることによって、「 今回この声優さんが歌っているということは、この子が主人公なんだ 」という伏線になったり、「 この主題歌が流れたということは、あの話の続きなのかな? 」という伏線が生まれたり。やり方が色々変わってくるかもしれませんよね。

平良:
続けて見るっていうことも考えると、そういう風にも考えられるってことですね。

アニメの世界は、ユーザーの「 面白いものにお金を払いたい 」という意識が強くあり、クリエイティブファーストにならざるを得ない。そして、ビデオ・オン・デマンド サービスの普及により、アニメが続けて見られるようになったり、見られ方も変化しており、それに伴って、音楽も変化と工夫必要になりそうです。

次回は、ファンがアニメやアニソンに求めているもの、役割についてお話しを伺います。( つづく )

編集・構成 / 赤塚えり

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