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現実社会の生きづらさを補完してくれるアニメ 〜対談 with 冨田明宏 #4 〜

THECOO 株式会社代表の平良 真人( @TylerMasato ) の対談シリーズ。

前回は、アニメはクリエイティブファーストの世界であること、ビデオ・オン・デマンド サービスの普及など時代の変化に伴い、アニソンも聞かれる工夫が必要というお話しを伺いました。( #3 はこちら

引き続き、音楽評論家・音楽プロデューサーとして活動されている冨田明宏さんと、アニソンの世界を深掘りしていきます。

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冨田明宏(とみたあきひろ)
音楽評論家・音楽プロデューサー
数々の人気アニメ主題歌やゲーム音楽、CM音楽、アーティスト・プロデュースを手がける。
音楽ライター時代は年間 120 本にも及ぶインタビューを経験し、アニソン評論家として『アニソンマガジン』や『リスアニ!』などアニメ音楽専門誌でメインライター、スーパーバイザーなどを担当。ラジオパーソナリティー、『マツコの知らない世界』や『関ジャム 完全燃SHOW』などメディアでも活躍中。

現代の生きづらさを補完してくれるのが、アニメであり アニソンである

平良真人( 以下、平良 ):
最後に、アニメやアニソンのファンの方って、思い入れの度合がみんな深いなって感じて、なんでなのかなって。「ファン層」や「ファン像」が気になります。

冨田明宏氏( 以下、冨田氏 ):
ファン層やファン像も本当に多様化していると感じていますが、一時期はアマチュアの作家が書いた小説を自由に閲覧できる WEBサイト「 小説家になろう 」に投稿された小説を原作にたくさんアニメが作られました。それらを総称して「 なろう系 」とも言われていますが、ある日突然主人公が異世界に転生してしまい、なぜかその世界ではモテまくりで、なおかつ反則レベルで強い・・・などの特徴があって。ある意味、読み手がひたすらに気持ちがいい、ストレスをまったく感じない、都合の良い設定の作品が多くアニメ化されました。我々おじさん世代の中には「 何でこういう作品がこんなに流行ってるの? 」と言う人もいますけど、それも一つの時代性の現れなのかもしれませんね。

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平良:
その中で、ヒットするものの特徴はあるんですか?

冨田氏:
結果論でしかないので非常に難しい質問ですが、結局のところ、現代を生きるアニメオタクと言われる皆さんが何を求めているか、その心理を読むしかないかもしれませんね。昔のオタクは物語の面白さや設定の妙にどれだけのめり込めるかが大切だったように感じますが、今は現実社会に生きづらさを感じていたり、「 本当は俺の人生こんなはずじゃなかった 」という変身願望などが、作品性に分かりやすく現れている気がしています。
これは私自身もそうですが、自分の中の欠損したものをアニメやその世界に求めているんじゃないかなと。

平良:
でも、それは、非現実的なわけですよね?

冨田氏:
現在のこんなに厳しい社会性を反映させた、めちゃくちゃリアルな現実をアニメで描いたら、悲しくてしんどくて見ていられないと思うんですよ(笑)。
僕の知り合いでも、昔だったらリア充になってそうなイケメンなのに「 アニメの世界の方がいいです 」「 あの作品の〇〇ちゃんとなら結婚したい 」という子が結構いて。これも 1 つの社会性の表れだなと思うんです。彼らにとっては、今って無茶苦茶生きづらい社会なんだろうなって。だから現実社会の生きづらさみたいなものを補完してくれるのが、彼らにとってアニメなんだなって。

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平良:
ヒーローやスターに求めているものと似ているのかもしれないですね。

冨田氏:
確かに超人願望とかヒーロー願望とかと似ていますね。

アニメはお金をかけずに楽しめる趣味

平良:
エンタメ好きだけど、実はアニメはキン肉マンで終わっていました。

冨田氏:
僕と同年代のような、いわゆるアラフォーやそれ以上のみなさんも楽しめる作品が今は多いということを、小中学生でアニメを卒業した皆さんにもう 1 回お伝えしたいなとは思いますね。

平良:
僕は夜中に家に帰ると、テレビをつけないでゲームしているんですよね。。

冨田氏:
なるほど! ライフスタイルによってハマるハマらないはありますよね。僕の周りには、深夜に仕事から帰ってきて、疲れたなとテレビつけるとアニメがやっていて、それからハマったという人が多いです。アニメとの接点は、深夜のライフスタイルで変わるかも知れません。

平良:
最近変わったのはプレステをやる時 Netflix に繋ぐんですよ。そのおかげもあって、たまたま「 東京喰種 」を見て面白いと知りました。周りにアニメを見る人が多くて不思議だったんですよね。

冨田氏:
そうですね。大学でたまに講義させてもらうんですけど、学生達と話していて「 なんでみんなはアニメが好きなの? 」と聞いたら、「 アニメってお金かからないじゃないですか 」と言っている子がいて。Netflix や アマゾンプライム って定額の通信費はかかりますけど、テレビで追っているだけで 1 つの作品のファンになれて、友達と共通の話題ができて、カラオケで主題歌を歌えばそれもみんなで盛り上がれる。昔はオタクの条件っていかに好きな作品やキャラクターのために時間と身銭を切るか・・・でしたけど、今の子たちって毎月の通信費だけで結構なお小遣いが持っていかれちゃうんですよね。そんなみんなにとっては、今アニメって追いかけているだけではお金がかからない、しかもネットに情報が溢れているから最低限の予算で楽しめる趣味なのかなと。SNS でも作品のファンで繋がれるし、アニソンだってYouTube に公式の MV が上がる。さらには アップル・ミュージック や アニュータ ほか定額で聴き放題のサービスもある。だから、お金をそこまでかけずに楽しめる趣味なのかもしれないなと。

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平良:
そう考えると、若い子たちもテレビ見ているって事ですよね。

冨田氏:
そう思いました!意外と若い子達ってテレビ見ているなって。あと今はスマホがあればテレビ番組もアニメも見れますからね。配信サービスや YouTubeで見るとか色々手段はあると思いますけど、でもなんだかんだみんなアニメ見ているなって。

平良:
僕はドラマ見るので、なんで月9 がそうならなかったんだろうって疑問はあるんですよね。

冨田氏:
日本のドラマで一時期まずいなって思っていたのは、リアリティー志向のものが多かったところで。「 何で非日常を味わいたくて見ようとしているドラマで、ここまで現実を突きつけられなきゃいけないんだろう? 」というようなドラマが結構放送されていて、「 これじゃあ見ていてみんな疲れちゃうだろうな 」と思っていました。社会性を描こうとして、ディフォルメが足りなくてリアルに近づいてしまったというか。ドラマが力を持っていた時代、たとえばトレンディドラマや 野島伸司脚本 作品なんて、完全にエンターテイメントでありファンタジーだったじゃないですか。「 こんなやつらいねーよ! 」っていう。でも、その元となるような話にはリアルが潜んでいて、だから社会性もうっすら帯びていた。あれってある意味ファンタジーを楽しむエンタメだったんですよね。

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平良:
僕も実家で中高生の時に親父に言われました。絶対こんな家に住めないからなって。

冨田氏:
だから面白かったんですよね。

欅坂46もでんぱ組も。生きづらい中、必死に生きている姿に共感する若者たち

平良:
先日、欅坂46の武道館ライブに初めて行ったのですが、彼女達にもなんとなく「 生きづらさ 」を感じたなと思い出しました。

冨田氏:
僕も 欅坂46 のロックな感じ好きですね。欅坂 ってなんだか生きづらそうなメンバーが多いですよね。楽曲的にもそういう曲をたくさん歌っていて。そこに今の若者たちのシンパシーがありそうですね。
昔でんぱ組.inc のマネジメントに携わっていた時、あの子達みんな本当のオタクで、だからこそ今の社会がすごく生きづらそうでした。たとえば学校や職場に居場所がなくても、オタクとしてアニメ・ゲームやコスプレという文化に参加することで存在を認めてもらえた。そしてそんな自分たちに力強く共感してくれるファンが現れ、存在を認められ、ファンのために彼ら・彼女たちの存在も肯定していく。一生懸命に、好きなことを形にしていく彼女たちの姿は「 生きづらい 」と嘆く世代に勇気を与えたと思います。「 私達も生きてていいんだな 」と。

平良:
そういう子は、ボロボロの服を着てアコギ弾くイメージだったんですけど、アイドルで元気に踊っているから不思議な感じだなって思いましたね。笑

冨田氏:
ダンスにも当然決められた振り付けがあって表現されているわけですけど、欅坂 の場合ってそれまでの 秋元康 プロデュースのアイドルにはない、型破りなパフォーマンスが必ず盛り込んであるなって思います。「 自分を変えたくて踊ってるし歌ってる 」というか、そういうメッセージが透けて見えるというか。昔はロックバンドが担っていたことかもしれませんが、今はアイドルがそれを表現する時代なのかもしれませんね。

僕がプロジェクトの監修を担当している、ゲスの極み乙女 の 川谷絵音さんが作詞・作曲などを手がける「 結城萌子 」というアーティストがワーナー・ミュージックから今度デビューするんです。彼女は街を歩いていたらモデルにスカウトされるような可愛い女の子なんですけど、とにかく好きなアニメとゲームのこと、そして声優さんとして生きていくことしか頭になくて。彼女と話していても「 この世界は、この子にとって生きづらそうだな 」と思っちゃうんです。現実世界の話をしているとき、全然楽しくなさそうなんですよ(笑)。だけど彼女はアニメの世界について考えたり、話しているときは本当に幸せそうで。僕は川谷さんも同じように今の世の中に生きづらさを感じているアーティストだと思っていて。だからこそ「 生きづらい世代 」に届く、価値のあるプロジェクトになる気がしています。

他人も社会も関係ない。自分を肯定してくれる居場所がエンタメ

冨田氏:
”生きづらさ” というポイントは、もしかしたら fanicon を使おうとしている人にも通じるのかなと思うんです。一時期若い子たちが悟り世代とか言われていましたけど、僕がアニメ好きの若い子達と接していて感じることは、「 悟っているんじゃなくて諦めているのかな? 」って。つまり望んで悟っているわけではなくて、悟らざるを得ないというか。昔みたいに終身雇用も保証されない、老後は年金以外に 2000 万円必要で、そのうえ望まない社会に対して無理にでも適応しなくちゃいけない。どうせやりたいこともできない、未来に希望がない・・・みたいな。スタートラインに立つ前から諦めざるを得ないムードがあって。だけど「 僕達は諦めています 」ってわざわざ言えないじゃないですか。「 もっと若者は夢を見ろ。俺たちの時代は・・・ 」とか言われたりするから(苦笑)。だから僕たちのような世代が若者たちに言えることって、「 諦めるな!夢を持て 」じゃなくて、まずは「 こんな時代に諦めず生きているだけで、君たちはエライよ 」「 生きているだけでもいいじゃん 」と、まずは肯定してあげることかなと。その方がよっぽど大事なんじゃないかって思ったんです。

いわゆるオタクの場合、陥りやすい「 生きづらい感覚 」って「 自分以外みんな幸せそうに見える 」というやつがあって。リア充とか陽キャな非オタクの人たちは、どうせ学生時代に恋人作ってHなことも経験して、ラブコメ作品で描かれているような楽しい青春を謳歌しているに違いない、不公平だ! という。実際は、そんなに上手くいっている人ばかりじゃないと思うんです。リアルの充実度という部分で欠落していると感じているから、足りない部分をアニメで補う。会社員時代、拗らせ気味のオタクだった僕にもそういう時期がありましたから(苦笑)。その補う部分は、トレンドという形でアニメ作品の傾向に現れると思っています。

ただ僕は、その「 欠けているものを埋める 」物こそがエンタメの役割であって、そこにオタクもリア充も関係ないと思っています。人それぞれの「 生きづらさ 」を、エンタメで補完する。それが僕たち担い手の役割かなって。

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平良:
オタクの人が当たり前と思っているものが、もはやファンタジーですね。だって実際そんなキラキラした人いないですもんね。

冨田氏:
何となくですが、若者たちは「 上の世代の ”当たり前” すら望めないのか。じゃぁ俺たちは何を理想に生きていけばいいんだ 」と思っているんじゃないかなって。それもある意味 ”過去の日常という名のファンタジー” であって。それなのに簡単に「 目的を持て! 」と言われたり「 何を目標に生きているんだ? 」とか言われるから、考えれば考えるほど生きづらくなる。そうやって「 自分には何もない 」と打ちひしがれて暗い顔になっている人がいるなら、笑顔にできるものこそ我々が届けるべきエンタメだろうと。音楽やアニメが果たすべき役割は、まだまだあると思うんです。

僕はあらゆる音楽フェスが好きなんですけど、あの敷地に一歩足を踏み入れた人たちってとにかく楽しそうじゃないですか。それはアニソンのフェスもそうだし、アイドルの現場もそうですよね。目の前のアイドルの輝きを見て、感動して泣いて、また日常に帰っていく。日常に帰っていった先は、きっとみんながみんな幸せではないと思うんです。エンタメが生きる希望になっている人々に対して、僕は「 ここがみんなの居場所です 」というフラッグを立てるのが、エンタメの仕事なのかなと思っています。

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平良:
エンタメは夢を見せるっていうことですかね?

冨田氏:
送り手に関していうと、過去の日本の音楽シーンは、メジャーデビューに凄くこだわっていたと思います。でも今は、もっと自由に、マーケットに捉われることなく音楽活動ができます。本業は別にあってもいいし、音楽を辞める理由もなければ、趣味を捨てる必要も無いし、自分の好きに生きる選択ができる。それが今の幸せなのかもしれないなって。エンターテイメントに身を置いている自分が幸せで、そして決して多くはなくても存在を認めて応援してくれるファンがいる。これからはその規模感でもいいんじゃないかなと。そんな小中規模のサークルが無数にあるエンタメの提案が、僕はファンコミュニティアプリである fanicon ではできる気がして。そこが面白いなって思いました。

平良;
簡単に居場所がつくれるよってことですよね。

冨田氏:
ここに来たら、大小の差はあれど同好の士がいるわけじゃないですか。いわばライブやフェスと一緒ですよね。

平良:
fanicon は、日常生活で孤独を感じている人の居場所にもなれば良いなと思っているのですが、なかなかうまく表現出来なくて。”生きていていいんだよ” ってすごく分かりやすいですね。

冨田氏:
5 ちゃんねるのまとめサイトとかを見ると、「結婚していなかったら50代60代になった俺たちはどうなる?」「孤独のまま一人死んでいくのか」「その時期が来たら自殺するか」みたいな、ただただ悲観したり、煽ったりするような状況が垣間見えますけど、もうそういう季節は終わっていいんじゃないかなって。それぞれの尺度の”幸せ”を掴むことことが真の幸せで、他人の尺度と合ってなくたっていいじゃんと。

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平良:
居場所を作るっていうのは秀逸ですね。”生きていていいんだよ”ここはあなたの居場所なんだからっていう。
そして、アニソンはとても自由な音楽であるということも僕にとっては衝撃な発見でしたし、今後そういう目で見ようと思いました。


"生きづらい" 現代の支えであり、居場所になり得るのがエンタメ。だからこそ、その形も自由でよくて、規模感も大中小様々あっていい。他人や世間と比べなくても、それぞれの幸せを掴んでいく、それが今っぽいエンタメの形であり、アーティストが "自分らしく" 活動できる為の支えに、fanicon がなっていきたいです。

編集・構成 / 赤塚えり( @eri__ak

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