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〈スペシャルティコーヒー入門 5〉生産処理におけるコーヒーチェリーの重要性について。

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Winter Glow/Tim Lucas

スペシャルティコーヒーを初めて飲んだ時どんな印象だったか覚えていますか?
体験された方のほとんどは、想像していたコーヒーの味を上回る味わいに驚かれたと思います。
その風味の豊かさや特徴的なフレーバーに目が行きがちですが、"クリーンさ"にもぜひ注目していただきたいのです。

一般的にコーヒーと言うと、目の覚めるような苦味のイメージが強いですが、スペシャルティコーヒーは綺麗な酸味や香りを持つ、すっきりとした飲み物です。

そんな、コーヒーの先入観を払拭できるような体験ができるのも、コーヒーチェリーの選別にかける生産者の並々ならぬ努力があったから

上記の記事でお話したように、コーヒーが生豆になるまでには、生産地や生産者によって様々な『生産処理』といわれる過程を経ていて、その過程によって様々なコーヒーの味わいが作られているというところまでは、おわかりいただけていることと思います。
今回は、それらの生産処理全てに通じる、『選別』という大切なことについてお話したいと思います。

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Picking by selection / Dennis Tang

■ 水中での浮き沈みで糖度と実の詰まりを選別する比重選別

コーヒーの収穫のお話のときに「完熟したコーヒーチェリーだけを集めるのが大切」とお話しましたが、完熟したような見た目のものだけを選んで収穫していても、実は中身が無かったり、虫に食われていたりするコーヒーチェリーもあります。

そうしたコーヒーチェリーは、風味を阻害する原因になってしまうので、なんとかして取り除かねばなりません。
例えばパルプトナチュラルやフリィウォッシュトといった生産処理では、集めたチェリーを一度水に漬けたり、水流で流していくことによって、浮くものと沈むものに分けます。

沈んだものは完熟して糖度が高く、中身の詰まっているチェリーで、浮いてしまったものは何らかの原因で中身が無かったり、熟しすぎて乾き始めているチェリーです。
このように水への浮き沈みで行う選別を『比重選別』と呼びます。

美味しいコーヒーになる可能性のあるものは、沈んだものの中に多く含まれます。
しかし、沈んだものの中にもまだ完熟したものと未熟なものが混じっています。チェリーの比重選別だけでは十分ではないので、次の段階でさらに選別します。

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Ecco/pulper

■柔らかい完熟したチェリーをパルパーで選別

比重選別を終えて、パルパーにかけられているコーヒーチェリー。下から果肉を剥かれパーチメントが出てきています。

チェリーから果肉を除去する機械『パルパー』は、柔らかい完熟したチェリーだけ果肉を剥がすように強さを調節しておくことができます。
これによって、まだ固い未熟なチェリーは果肉を剥がされることがありません。
果肉を除去された完熟チェリーは、『パーチメントコーヒー』と呼ばれ、乳白色の殻に生豆が覆われている状態です。

更に、そのパーチメントコーヒーを、水路を進む過程で比重によって選別していきます。
基本的には重いものほどいいものとされていますね。
それらを分けて、乾燥させていきます。

さて、水を使った ”フリィウォッシュト" "パルプトナチュラル" についてはパーチメントの状態に至るまで、ここまでお話したような何重もの選別方法が取られていますが、コーヒーチェリーをそのまま乾燥させる『ナチュラル』は、コーヒーチェリーの見た目と、最初に行うコーヒーチェリーの比重による選別で分けるしかありません。
だから、美味しいナチュラルコーヒーを作るのは難しく、特にクリーンカップに優れたナチュラルは珍しいと言われています。

■不完全なパーチメントを取り除く乾燥中の選別

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Jammet /IMG_6699

乾燥中の『パーチメントコーヒー』
次に大事なのは、乾燥中のパーチメントコーヒーの選別です。
ここまでくぐり抜けると素晴らしいコーヒーになる可能性の高いのですが、パーチメントに果肉が付着していたり、パーチメントが割れてしまっているものは取り除かなければいけません。
それらもまた、品質を落とすリスクがあるからです。

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Coffee beans / Koen van Seijen

良くないパーチメントコーヒーを取り除いている様子。
補足ですが、ここでもコーヒーチェリーをそのまま乾燥させるナチュラルコーヒーは選別が非常に難しいです。
果肉がついたままなので、見た目で区別するのが非常に困難なのです。

■選別の積み重ねがトレーサビリティを可能にする。

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BLACK COFFEE / david pacey

スペシャルティコーヒーにおいて重要なもののひとつは、『トレーサビリティ』というものです。
日本語に直すと『追跡可能性』といわれますが、要は、『どこで・誰が・どのようにして』一杯のコーヒーが作られているかがわかる、ということです。
ここまで述べたような生産処理過程での管理がしっかりしていればいるほど、必然的にトレーサビリティが高くなる、ということです。

そして、ひとくちにコーヒーといっても、全ての選別をくぐり抜けた1級品から、そうでない品質のものまでが集められたひと山から作られるものまであるということも見逃してはなりません。

選別そのものにかかるコストも、積み重なると無視できないものになるのは、想像に難くないですよね。
THE COFFEESHOPにあるコーヒーは基本的にここまで述べたような選別をくぐり抜けた一級品ばかりです。

そこまでこだわって作られたコーヒーは、作った過程がしっかりコーヒーの味に反映されていて、それぞれ違いのある、非常に個性的な輝きを放っています。
1杯の美味しいコーヒーには、そこに至るまでに様々な厳しい過程を経ています。
それを抽出する私たちは、やはり美味しいコーヒーを美味しいコーヒーとしてお出しする、という責任があります。

考えだすと止まらなくなってしまうのですが、何気なく手にしてくださった私たちのコーヒーには”実はこんなにも手がかかっているんですよ”ということを時々でいいので、思い出していただければ嬉しいです。

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◼︎THE COFFEESHOP
- ROAST WORKS -
住所: 〒151-0063 東京都渋谷区富ヶ谷2-22-12 1F
営業時間:9:00-17:00 [※店内席あり 3席]
電話番号: TEL.03-6407-1344
最寄駅: 駒場東大前駅:徒歩約13分 / 代々木上原駅:徒歩約15分

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