見出し画像

【商社就活】#8 商社内定に向け学生時代に習得すべきこと(1) −創造力(考え抜く力)

↓↓↓ 前回note ↓↓↓


【この記事で説明すること】
・ロジカルシンキング(論理的思考)の重要性と、それに関連する代表的なフレームワークの概要を学ぶ。
・新しいアイデアを生み出すための「思考のフレームワーク」についての概要を把握する。


以前、「創造力」の一つの切り口である「学業」について説明しました。​今回は「考え抜く力」について説明します。前回の記事では、大学の授業やディスカッション・ディベートなどを通じて「考える力」を磨く必要性について説明しましたが、さらに「思考のフレームワーク」を習得し「考え抜く力」を養っていくことが必要だと考えます。

​​「ビジネス・フレームワーク」とは、コンサルティング会社などが考えた分析・思考ツールであり、「経営戦略」「マーケティング」「組織・人事マネジメント」「課題発見・解決」等さまざまな領域のものがあります。
「フレームワークは万能ではない」ということを十分認識する必要がありますが、これらを効果的に使いこなすことができれば、迅速かつ精度の高い情報整理、意思決定、問題解決が可能となり、ビジネスの生産性は格段にアップしていきます。​

​​昨今、ビジネス環境は急激なスピードで目まぐるしく変化しており、この傾向は将来加速していくものと思われます。
このような環境下で商社は、従来に比べ、課題そのものを見出すことが難しくなってきており、また、その解決方法についても、「前例」を応用することができなくなり、一から解決方法を編み出す必要が生じています。
また、既存ビジネスをより成長させることに加えて、イノベーションをもたらすような斬新で大胆な発想で新しいビジネスを創り出すことも求められています。さらに、「生産性」が強く意識されるようになってきており、限られた時間の中で、最大限の成果やパフォーマンスをあげることも求められています。​

このような状況を鑑みると、今後商社パーソンに強く求められるのは「考え抜く力」であると言えます。「考え抜く力」とは、物事を深く広く多面的に考え、効率的に一歩も二歩も先を読む力と定義します。

現状はどうかというと、商社パーソンは「我流」で物事を考えている人が多いように思います。商社パーソンの「考える力」はそもそも高いと思われますが、商社での幅広い経験を通じて、その「考える力」はさらに磨かれていきます。「我流」で物事を考える力は、商社パーソンに求められる能力であると言えます。
一方、経験を積めば積むほど、「思い込み」「先入観」が強くなり、思考がワンパターン化していきます。つまり、自分の考え方や過去の考え方を是とし、新しい考え方を拒むようになっていきます。もっと厄介なことには、自身の思考がワンパターン化していることに自分自身では気づかず、また組織が硬直化していることに組織も気づかないということが起こります。

ビジネス環境が急激なスピードで変化している状況下、今まで以上に物事を深く広く考え、かつそれをスピーディーにおこなうには、「我流」だけでは不十分であると言えます。
ここに「思考のフレームワーク」を学ぶ理由があります。「思考のフレームワーク」を学ぶことにより、「我流」では気づかない視点に気づくことができ、それを他者と共通の言語で議論することが可能となります。経験に裏打ちされた「我流」の思考に加え、「思考のフレームワーク」を状況によって巧みに使いこなすことにより、「考え抜く力」は磨かれていきます。

経験に基づく「我流」の思考

「フレームワーク」に基づく思考
|| 
考え抜く力


学生時代に、まずは、「ロジカルシンキング」に関連する代表的なフレームワークを学び、使いこなせるレベルにまでなるのが望ましいです。「ロジカルシンキング」は、ビジネスにおける代表的な思考法であり、グローバルなビジネス環境下、英語と並ぶビジネスの「共通言語」であると言えるからです。
また、新しいアイデアを生み出すための「思考のフレームワーク」についてもその概要について理解をしてほしいと思います。
最近商社では、従来型の選考方法に加え、ケース面接や特殊な選考方法を導入する会社が増えてきています。これは、「考え抜く力」を備えているかどうかを見極めるためであると推測します。ぜひ「思考のフレームワーク」を習得して下さい。

この記事だけでは到底説明しきれませんので、参考文献やインターネットなどを通じて理解を深め、みなさんの学生生活において活用してください。「思考」のフレームワーク以外にも、フレームワークには「経営戦略」や「マーケティング」などに関連するものがありますが、これらは実際にビジネスを始めてから学ぶ方がより効率的ですので、会社に入ってから習得すると良いと思います。
まずは、「思考のフレームワーク」を学び、「考え抜く力」を磨くことが求められます。特にまずは「ロジカルシンキング」の習得に力を入れてください。


ロジカルシンキング


問題が生じた際に、ロジカルに分析することで解決策が見え、ロジカルに説明することで、相手の理解が得られる。「ロジカルシンキング」はビジネスパーソンにとって必須の思考のフレームワークです。

(1)5W1H

5W1Hと聞いて、小学校の国語や中学校の英語の授業で習ったことを思い出した人もいると思いますが、5W1Hは、ビジネスにおいてあらゆる場面で活用される基本的なフレームワークです。
5W1Hは、Who(誰が?)What(何を?)When(いつ?)Where(どこで?)Why(なぜ?)How(どのように?)です。

ビジネスの世界では、ターゲットを明確にしたい場合にWhom(誰に?)を、優先順位を付けたい場合にWhich(どれを?)を、予算・コスト・利益等の数字を明確にしたい場合にHow much(いくら?)を追加し、7W2Hと呼ばれることもあります。

Who(誰が?)
What(何を?)
When(いつ?)
Where(どこで?)
Why(なぜ?)
Whom(誰に?)
Which(どれを?)
How(どのように?)
How much(いくら?)

5W1Hは、誰でも知っている基本フレームワークですが、情報の漏れや重複を減らし、口頭や文書にて相手に簡潔に情報を伝える際のコミュニケーションツールとして重宝するフレームワークです。
また、新しいアイデアの発想や問題解決にも5W1Hは活用できます。
実際、仕事ができる人はこのフレームワークを大切にしているように思います。上司に報告する際に、5W1Hのいずれかが欠落し、上司をイライラさせる場面を何度も見てきました。
また、プロジェクトにおいて、What(何を?)How(どのように?)How much(いくら?)ばかりに気が取られ、それ以外の、例えばWho(誰が?)Why(なぜ?)などの議論がおろそかになり、プロジェクトがうまくいかなかったことも多々あります。5W1Hは基本フレームワークであるがためにその重要性が見過ごされがちですが、常に意識すべき重要なフレームワークです。学生時代に習得してください。

(参考)
リーダーシップに話が飛びますが、5W1Hに関連したリーダーシップ論を紹介します。サイモン・シネックが『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』で提唱する「ゴールデンサークル」です。形式的なリーダーがWhat(結果)から始めるのに対して、理念を掲げて社会を巻き込むインスパイア型のリーダーはWhy(理念と大義)から始めるという理論です。今後、リーダーシップを磨いていく上で大変参考になる理論です。

インスパイア型リーダー

スライド1


(2)なぜなぜ分析

5W1Hについて説明しましたが、「なぜなぜ分析」はそのうちのWhy(なぜ?)に関連したフレームワークです。なぜなぜ分析はトヨタ自動車が品質管理や労働安全管理において真の原因を追求するために開発した分析手法ですが、現在は他の業界や分野においても幅広く活用されています。

「なぜなぜ分析」の肝は、問題の本質と解決策は「なぜ?」を適切に繰り返す(5回が目安)ことによって把握でき、それを根本的な解決に活用するという点です。昨今はスピードが求められますので、どうしても考えが浅くなってしまう傾向にあると思います。「なぜ?」を繰り返すことを通じて問題の本質と解決策を見いだすスキルは、商社パーソンにとっても有益なスキルであると考えます。

(3)マトリックス

定義の仕方はさまざまですが、ここでは縦軸と横軸の2軸のフレームワークを「マトリックス」と定義することにします。「マトリックス」は、物事の全体像をとらえたいとき、複雑な事象を簡潔に整理したいとき、さまざまな事象のポジショニングを明確にしたいとき、問題解決の糸口を見つけたいときに、有効なフレームワークです。
「マトリックス」は、縦軸と横軸の設定次第で、さまざまな事象を表現することができます。2軸の設定の仕方のコツさえつかんでしまえば、かなり使い勝手の良いフレームワークです。実際、職場において「マトリックス」の活用頻度はかなり高いと言えます。縦軸と横軸をそれぞれ2つに分けて2×2の4つの象限(または領域)のマトリックス(=「2×2マトリックス」)が頻繁に使われます。

「マトリックス」はさまざまな場面で活用できます。実際私も複雑なことに出くわした場合、まずはとにかく「マトリックス」で整理することにしています。無駄な作業となることもありますが、大概何らかの気づきを得ることができます。
スティーブン・R・コヴィーの有名な著書に『7つの習慣 ー成功には原則があった!』には時間管理に関する「マトリックス」についての記載があります。商社に入社すると「やることが多すぎて何から手をつけたら良い分からない」といった状況に陥るでしょう。商社では常にマルチタスクを抱えるのが一般的で、同時並行的に複数の業務を遂行していくことが求められます。そのようなときに使えるのがコヴィーが提唱する「重要度/緊急度マトリックス」です。タスクを見える化し、4タイプに分け優先順位を決めるためのマトリックスです。縦軸は重要度、横軸は緊急度です。


時間管理マトリックス

スライド1

第1領域:緊急度も重要度も高い領域です。締め切りのある仕事や会議、重大な事故やクレーム対応などです。即座に取り組まなければならない領域ですが、これに追われてしまいがちです。例えばクレーム対応については、そもそもクレームが発生しない仕組みを考えることに時間を割く必要があると考えます。

第2領域:緊急度は低いが重要度は高い領域です。業務プロセスの効率化、新規ビジネスの準備、部下の育成、人脈形成、自己啓発などです。即効性はないものの本質的な活動が含まれていますので、この領域に時間を割くべきと考えます。

第3領域:緊急度は高いが重要度は低い領域です。重要ではない会議や電話、突然の来客などです。できる限り効率的に済ませる領域です。

第4領域:緊急度も重要度も低い領域です。今すぐやめましょう。

​このように、マトリックスを用いて2軸で整理してみると、複雑なことでも分かりやすくなります。今から活用できるフレームワークですので、活用してみてください。


(4)ロジックツリー

「ロジカルシンキング」が必要なのは、物事が複雑にからみ合っているので、それを分かりやすく整理し、分かりやすく伝える必要があるためです。

まず、分かりやすく整理するために必要なのは「MECE(ミーシー、ミッシー、ミースなどと呼びます)」です。これは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(漏れなく、ダブりなく)の略称です。複雑な物事を構成している要素を「漏れなく」「ダブりなく」切り分け、本質的な部分に効率よくたどりつくということです。「MECE」を使って物事を整理することは大事ですが、厳密にやろうとしすぎて時間をかけ過ぎるのはかえって逆効果です。こだわりすぎないことです。また、「漏れなく」と「ダブりなく」では、「漏れなく」の方が大事です。「漏れなく」は網羅的に全体を把握するために不可欠で、漏れてしまうと気づかずに終わってしまうこともあるからです。「ダブりなく」の方が、あとで調整が可能です。

​次に理解しておくべきことは、「帰納法(きのうほう)」と「演繹法(えんえきほう)」です。ロジカルに物事を伝えたいときのアプローチの違いですが、「帰納法」とは、複数のデータやサンプルなどがあり、そこから導き出せる傾向を主張や結論に結びつけるアプローチの仕方で、「演繹法」は一般的かつ普遍的な傾向やルールを前提として、主張や結論を導き出すアプローチです。ケースバイケースでこの二つのアプローチを使い分けることが求められます。

​次は、「ピラミッド構造」です。メインメッセージとなる主張や意見がまず一番上にきます。その下には、キーメッセージとしてその主張や意見の裏付けとなる根拠や情報が三、四つ来ます。その下には、それぞれのキーメッセージを下支えする根拠が三、四つ来ます。このように、主張や意見とそれを支える根拠をピラミッド型で深掘りしていくことになります。「ピラミッド構造」で大事なことは、メインメッセージが適切であるかどうかです。ここが間違ってしまうとすべてが間違ってしまいます。根拠を掲げるときは「MECE」を意識することも大切です。論理破綻していないかどうか、上から「Why so?(なぜそうなのか?)」下から「So what?(だから何?」を使って確認していくことが大切です。

​「ピラミッド構造」の一つの形態ですが、「ロジックツリー」というのがあり、これは問題解決の場面で、問題の原因を深掘りし、本質的な問題がどこにあるかを導き出す手法です。形状は「ピラミッド構造」と同じです。下に掘り下げていく「原因」は、MECEを意識する必要があり、階層のレベル感を統一したり、上下の階層に矛盾がないように注意する必要があります。

​私が新入社員の時、指導社員がバーバラ・ミントの『考える技術・書く技術』をプレゼントしてくれました。その後何度も読み直しています。初めて読んだ時は、「難しすぎて正直よく分からない」というのが第一印象でした。ただ、業務をしながら、繰り返し読んでみると、ロジックツリーの良さが理解できるようになり、業務に応用することができるようになりました。


(5)クリティカルシンキング

「クリティカルシンキング」とは、「本当にその前提が正しいのか検証したうえで本質を見極めること」です。「ロジカルシンキング」は上記のとおり「物事を要素に分解して筋道を立てて整理すること」ですが、「クリティカルシンキング」は「ロジカルシンキング」とまったくの別物というわけではなく、相互に作用し合うものであると言えます。

「クリティカルシンキング」は、健全に批判的な視点を持つということですが、なぜこのような視点が必要なのでしょうか?それは、商社に限らず会社には、過去を踏襲したり、前例主義が少なからずあるからです。何ごとも「健全に」疑うことが求められます。
新入社員から「新入社員だから何も分からないので、どのように組織に貢献したら良いか分からない」という悩みの相談を受けることがあります。それに対して「上司や先輩社員に、なぜこの仕事をやるんですか?」と質問することが新入社員が組織に貢献できることであるとアドバイスしてきました。
上司らが明確に説明でき、それが納得できるものであれば、その仕事はやる意味があるものです。もし、上司らが説明できなかったり、説明できても自分が納得できるものでなければ、「本当にこの仕事、やる意味あるのだろうか?」と疑ってみることです。それをリスト化することが新入社員の役目です。2年目、3年目になり知識や経験を積んだのちに、その業務の継続の可否を見直していくということをやってはどうかと思います。


このようにロジカルシンキングは、複雑な物事を分かりやすく整理し、相手に伝えるための有益なフレームワークですが、ロジカルシンキングには限界があることも認識しておく必要があります。ロジカルに物事を突き詰めていくと、最終的に同じ結論にたどり着き、差別化できないということと、人は必ずしもロジカルに行動するわけではないということです。

​前者は、山口周『世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか? 経営における「アート」と「サイエンス」』に、ソニーのウォークマン誕生の話が掲載されていましたので、紹介します。ウォークマンは、当時名誉会長だった井深大の「海外出張の際、機内で音楽を聞くための小型・高品質のカセットプレイヤーが欲しい」というリクエストに基づき作られたものですが、社内ではその製品化については反対意見が出たというのです。それまでの市場調査から、「大きなスピーカーも録音機能も持たないカセットプレイヤーなど売れるわけがない」という意見が多数出たとのことです。要は論理的に考えた結果、売れないだろうと考えたわけです。でも結果はどうでしょうか? ウォークマンは大ヒットしました。「論理」よりも「感性」が優った事例です。

後者については、行動経済学がそのことを表しています。行動経済学とは、人間の心理や感情的な側面をベースに分析される経済学です。人間は必ずしも合理的な行動をするわけではない、という考えに則って発展した学問で、それまでの経済学にはなかった新しい考え方です。ダン・アリエリーの『予想どおりに不合理: 行動経済学が明かす「あなたがそれを選ぶわけ」』に、人が合理的に行動しない事例がいくつも掲載されています。


新しいアイデアを生み出すフレームワーク

これから、広い視野に立って課題を発見したり、新しいアイデアを生み出すためのフレームワークについて説明していきます。繰り返しになりますが、優先順位が高いのは「ロジカルシンキング」の習得です。もし時間があれば、これから説明するフレームワークについても理解を深めてもらいたいと思います。


(6)システムシンキング

20年以上も前のことですが、私の商社への志望動機を紹介します。

アジアをバックパックで旅行していた時のこと。貧しい人たちがあまりにも多く、十分な食事もなく、非衛生的な環境で生活していることにショックを受け、心を痛めました。この貧困層に対して世界中の政府やNPO等が食料・衣類・住居・医療などの人道的支援をおこなっていました。大変すばらしいことだと頭が下がる思いでしたが、短期的にはしのげているものの、「貧困のサイクル」から抜け出すことができずにいました。

ではどうしたら「貧困のサイクル」から抜け出すことができるのでしょうか? 当時「システム思考」のことは知りませんでしたが、レバレッジポイント(問題解決のツボ)は「雇用の機会」を創出・提供し、「経済的な自立を果たす」ことではないかと考えました。具体的には、

・現地に工場を建設し、現地の原材料を加工し、製品を製造する。現地の人を工場労働者として雇い入れ、職業訓練を施す(=雇用の機会の提供)。
・工場の近くには、工場で働く人とその家族のために住居、学校、病院等を建設し、街を作る。
・そこで働く人たちは、働く喜びを感じ、モチベーションを高めて一生懸命、働いてくれる。
・適正な給料をもらうことにより、最低限の生活は自分の給料でまかなえるようになる(=経済的自立)。
・今まで家計を助けるため働いていた子供たちが学校に行けるようになる。
・教育を受けた子供たちは、大人になった時に就職できるようになり、また、さらに高いレベルの教育を受けることができるようになる。
・このサイクルによって貧困層の人たちは、長期的に「貧困のサイクル」から抜け出せるようになり、地域が発展し、国が発展する。
・そこに消費地として新しいマーケットが生まれ、新たなビジネスチャンスが生まれる。

このように長期的な視点に立ち、全体最適なビジネスができるのは商社しかないと思い、商社を希望しました。


「システムシンキング」とは、全体をシステムとして捉え、システムを構成する要素のつながりと相互作用を図式化し、全体を俯瞰しながら、本質的かつ構造上の問題を探るという課題解決のアプローチのことを言います。

大企業であればどこでもそうかもしれませんが、業務が細分化されている傾向があり、目先の視点、目先の課題に目が行きがちです。これからの商社は、バリューチェーンの構築や組織横断的な取り組みを強化していくことが求められますので、自分の担当領域ばかりではなく、全体を俯瞰し最適な解を見つることが求められます。


(7)デザインシンキング

最近、「デザインシンキング」という思考のフレームワークをよく耳にします。これは、シリコンバレーに拠点を置く世界的デザインファームのIDEO(アイディオ)社が、2000年代中ごろに提唱した思考のフレームワークです。日本でも4、5年前からビジネスに取り入れる企業が増え、ここ1、2年非常に注目されています。

「デザイン」というと、デザイナーやクリエイターのためのものと混同されがちですが、デザイン的な考え方を非デザイナーがビジネスの領域に役立てるというものです。つまり、商品開発やマーケティングのみならず、戦略立案、営業、企画などのビジネスの分野において、デザイン的な考え方を広く活用するというものです。

これまでは、経営資源といえば「ヒト、モノ、カネ」でした。しかし、デジタルテクノロジーの発展した現代では、「ヒト、モノ、カネ」に加え、「データ、テクノロジー、デザイン」の重要性も非常に高くなっていると言えます。

デザインシンキングを一言で言うと、「デザイン的プロセスを利用し、ビジネス上の問題を解決するための思考のフレームワーク」となります。デザインシンキングは次の5つのステップから成り立っています。

①共感:インタビューや観察を通じて、ユーザーに深く共感するところから始めます。まずはユーザーを適切に理解することが大事です。

②問題提起:インタビューや観察結果から、自分では気づいていないかもしれないがユーザーが抱えている本当の課題を見つけます。正しい課題認識や課題設定が、正しい解決策を生み出すのに不可欠となります。

③創造:問題を解決しうるアイデアを大量に出します。最終的にそこから一つに絞り混みます。

④プロトタイプ:決定したアイデアを基に、極めてラフなプロトタイプ(原型)を作成します。考えるために作り、学ぶために試します。

⑤テスト:ユーザーにプロトタイプを体験してもらい、フィードバックをもらいます。テストは、自分の解決策とユーザーについて学ぶための機会です。

デザイン思考を実践する上では、「ユーザーに焦点を当てる」「すばやく失敗し、失敗からたくさん学ぶ」「誰が何を言っても絶対に否定されない安全な空間を作る」といったことが大切だと言われています。

​​

​ビジネスの基本となるロジカルシンキングに関連するフレームワークと、新しいアイデアを生み出すフレームワークの代表的なものを紹介しました。重要なものをピックアップしましたが、この記事だけでは到底説明しきれません。みなさんご自身が、関連する本やインターネットなどを通じてまずは頭で理解し、それを実践の場面で試み、活用してください。自分自身の経験から血となり肉となった「我流」の思考と、フレームワークから得られる思考を組み合わせ、「考え抜く力」を磨いていってください。


【まとめ】
・商社において「ロジカルシンキング」は必要不可欠なスキルであり、代表的なフレームワークについては、大学時代に習得すべし。
・新しいアイデアを生み出す「思考のフレームワーク」についても、商社においてその必要性は増してきており、時間が許せば習得を目指すべし。
【参考文献】
・渡邉光太郎(2017年)『シンプルに結果を出す人の5W1H』すばる舎.
・サイモン・シネック(2012年)『WHYから始めよ! インスパイア型リーダーはここが違う』 栗木さつき訳 日本経済新聞出版社.
・サイモン・シネック(2009年)『How great leaders inspire action』 TED TALKS.
・スティーブン・R ・コヴィー(1996年)『7つの習慣 ー成功には原則があった!』川西茂訳 キングベアー出版.
・バーバラ・ミント(1999年)​​『新版 考える技術・書く技術−問題解決力を伸ばすピラミッド原則』山﨑康司訳 ダイヤモンド社.
・グロービス経営大学院(2012年)『改訂3版 グロービスMBAクリティカル・シンキング (グロービスMBAシリーズ)』 ダイヤモンド社.
・ドネラ・H・メドウズ(2015年)『世界はシステムで動く ーいま起きていることの本質をつかむ考え方』枝廣淳子訳 英治出版.
・枝廣淳子/小田理一郎(2007年)『なぜあの人の解決策はいつもうまくいくのか?』東洋経済新報社.
・ティム・ブラウン(2014年)『デザイン思考が世界を変える』千葉敏生訳 ハヤカワ・ノンフィクション文庫.
・濱口秀司(2012年)『Break the bias』TED TALKS.
・エドワード・デボノ(2015年)『水平思考の世界 固定観念がはずれる創造的思考法』藤島みさ子訳 きこ書房.
​・細谷功(2019年)『入門「地頭力を鍛える」32のキーワードで学ぶ思考法』 東洋経済新報社.


当方が考える『次世代商社における求める人材像』

画像3


次回は、【商社就活】#9 商社内定に向け学生時代に習得すべきこと(1) −創造力(デジタル・テクノロジー・リテラシー) です。お楽しみに!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?