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履歴書6~全体進行~

3回目の鬱による休職。もう教師を諦めなければいけないかもしれないし、ある日自殺しているかもしれないし、教師としての私の話を誰かにしておこうと思うけど、話し相手もいないのでここに書こうと思う。

昔々のこと。

私は運動会の全体進行係をしていた。

私は不安で心配性であがり症なので、いろいろな場面でよく台本を作った。

その学校では、初任の時に体育主任を任された。心配性の私は、夏休みの教室で、前年度の運動会の動画を、巻き戻しを繰り返し何度も見ながら体育主任の台詞をすべて書き起こし、台本を作った。

その時の台本が、微調整を経ながら翌年以降も継続して使われ、その年の私は自分が原本を作った台本を見ながら、数回ある全体練習を行うことができた。

全体練習の前に、その日の練習の流れ、私の台詞、児童の動き、BGMのタイミングなどをすべて記入して全教員に配布していたので(毎回毎回配布されて紙だらけで嫌がられたと思う)、他の先生方との流れの共有はできていた。

そして本番・・・

「児童入場!」(BGM)「ピーッピ!ピッピッピ!」「ピ!」

私の笛の合図で児童たちが行進を始める。全体練習の時に学年間の間隔が詰まりすぎてぐちゃってなってしまったが、プラカード係に間隔を開けるよう伝えておいたので、ちょうどよい距離間で行進が進んでいく。

良い感じ。

そして、開会式。

「優勝旗・優勝杯返還!昨年度優勝、赤組!」

(タータータターター タタタタターターター♪)

私の言葉で、応援団長・副応援団長が動き出す。背筋が伸びている。2人が台に上がる際の足も揃っている。

2人が入学した時、私もその学校に配属されたので、彼らが小さい頃からの姿が頭をよぎる。あんな小さかった2人が、初めての運動会では「妖怪体操第1」をニコニコと踊っていた2人が、ずいぶんと立派にかっこよくなって・・・。

私は感動していた。

2人が自分の立ち位置に戻る。私は放送担当の音楽の先生に音楽をフェードアウトするよう目で合図を送る。

音楽の先生はこちらを見ながら、もごもごと口を動かしている。しかしその声は聞こえない。表情はとても困った様子・・・

!!!

(やべ!)

「準優勝杯返還!昨年度準優勝・白組!」

完全に忘れていた。準優勝杯の返還が終わった後でBGMはフェードアウト。音楽の先生はそれを私に伝えようとしてくれていたのだ。気のせいかもしれないが、準優勝杯返還を担当する白組の応援団の子の表情が曇って見える。

開会式が終わった。

私は、準優勝杯返還を担当した子にすぐに謝りに行く。

「ごめん!完全に抜けた!私のミス!」

とても良い子なので

「いいですよ」

と笑って返してくれる。近くにその子もお母さんも居たので、すぐに謝る。

「すいません、やっちゃいました。完全に私のミスです。すみません」

そのお母さんとも、6年越しの付き合いで、しょっちゅうコミュニケーションをとれていたこともあり、

「いいですいいです!うちの子、固まってましたね(笑)」

と、いたずらな、私をからかうような顔で笑って返してくれた。


思い出・思い入れ・個人的な感情に浸っていると、練習ではできていたこともできなくなる。個人的な感情は進行においてはノイズだと悟った私。その後は、念入りに作成した台本を見ながら、自分は台本を読む機械なんだと感情を殺して淡々と進行をこなしていった。思い入れなどの感情はその後、一切抱かないようにしたので、誰が頑張っていたとか、どっちが勝ったとか、まったく頭に入っていない。

思い入れのある学年の子供たちの、最後の運動会だったのに。


運動会が終わり、ランチルームでの反省会では、管理職の他に、低・中・高の先生と運動会主任、全体進行(私)が個別に指名されて立ち、話をする。

私は開会式の失敗のことしか覚えておらず、反省会用の台本なんて作成してないので、全然しゃべれなかったことだけを覚えている。

そんな過去。


最後まで読んでいただきありがとうございます!

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