Colaboの「大量脱税」に関する考察
皆さん、こんにちは。
久しぶりの投稿となります。
Colaboが「大量脱税」?
今回は以前から気にはなっていたテーマの一つですが、業務にかまけてこのようなタイミングとなりました。
ニュースサイト”エコーニュース”が仁藤夢乃氏の一般社団法人Colaboが「大量脱税」をしているのではないかという指摘を行っており、これについて考察してみます。
ニュースサイトの内容を要約すると、以下の通りとなります。(あくまで私個人の偏見が介在します。詳細については末尾のリンクでご確認ください)
Colaboと新宿区との「パートナーシップ口座」に対する報酬の支払先36,000円が、Colaboではなく仁藤氏個人となっていることが情報公開請求で判明した。
本来Colaboに対するはずの報酬が仁藤氏個人宛に支払われているのは、Colaboから仁藤氏への利益供与に当たるのではないか。(法人税法施行令3条2項6号)
加えて、仁藤氏らは役員の立場で1万円以上相当の「贅沢」を行っており、これも「特別の利益」に該当する可能性がある。(同)
特定の個人への「特別の利益」を与えることは、法人税法に定める「非営利型法人」の要件に抵触することとなり、Colaboは前述により非営利型法人に該当しなくなる可能性がある。(法人税法2条9号の2ロ、第4条)
その場合、非営利型法人であれば収益事業を除く事業について免除されていた納税義務の適用がなくなり、過年度分も含めて収益事業以外の事業に係る所得について納税義務が発生することとなる。(法人税法64条の4第1項)
「大量脱税」の是非に関する考察
論点整理
まずは、前述の論点及びColaboが意図的であるか無いかに関わらず多額の税負担が生じるのかどうかについて、順次整理して行きたいと思います。
エコーニュース(以下、同ニュース)が根拠としているのは法人税及び法人税法施行令の条文です。以下、引用された条文を紹介します。
つまり、(なぜかColaboではなく)新宿区から仁藤氏個人に支払われた報酬36,000円あるいは仁藤氏(及び他のColabo理事)による1万円超の「贅沢」が、法人税法施行令3条2項6号に定める「特別の利益」に該当するかどうかが同ニュースにおける論点となります。
そして、どのようにして「特別の利益」に該当するか否かを判断すべきか考察していきましょう。
「特別の利益」とは
税務法規には「通達」というものがあります。これは税法や施行令・施行規則と違って実務上の判断に当たっての「マニュアル」であって、必ずしも法的拘束力があるわけではなく、その分臨機応変に改訂されることもあります。
しかし少なくとも課税当局の判断基準をあらかじめ明確にすることによって、不公平ないし裁量的な判断を行わないようにするための制度であると言えます。
さて、前述の「特別の利益」についても、法人税基本通達では以下のように記されています。
単純に金額だけを見た場合、本来Colaboに帰属すべき36,000円のお金が仁藤氏に引き渡されたとしても、それだけで「社会通念上不相応」とは判断できません。
もちろん、それが1回限りでなくColaboの業務に無関係な飲食なども含め累積すると数十万円を超えるものであれば話は違ってきますが、少なくとも現時点ではそのような話にはなっていません。
また、報酬がそもそも源泉徴収を差し引かれた金額(法人に対して源泉徴収は発生しません)であることと、諸般の事情から法人への支払いが出来なかった経緯があることから、初めからColaboではなく仁藤氏個人に対する報酬の支払いであったという反論もなされています。
仮に、税務上の観点から当該報酬が実質的にColaboに帰属すべきと判断されたとしても、仁藤氏が暫定的に報酬を預かっていたと解釈する余地もあり、仁藤氏とColaboとの間で経済的利益が移転したとも言い切るのは難しいのではないでしょうか。
以上より、課税当局側が「特別の利益」を主張するのは非常にハードルが高いと言わざるを得ないのではないかと私は考えます。
課税当局は「大量脱税」を立証できるか
課税当局の一存とは限らない
もう一つ、税務に係る審査請求や税務訴訟制度についても触れておかなければなりません。
税務署や国税庁が一度判断をすればそれは絶対的なものであり覆しようがない…というわけにはいきません。
税務調査などにより納税者にとって納得のいかない更正や決定がなされたとき、納税者の権利を保護するための制度が定められています。
大まかに説明しますと、税務当局の決定などが不服である場合には、
所轄税務署に対する異議申し立て
国税不服審判所への審査請求
裁判所への訴訟
といった最大で3段階のプロセスを踏んで課税当局の判断の是非を問い直すことが出来るのです。
課税当局は本当に判断を下せるか?
実際には課税当局の判断が覆る確率は非常に低いのですが、それは必ずしも公権力が強いからではなく課税当局側が税法の原理原則を遵守しなおかつ所内・庁内で所定のプロセスを踏んで判断を行っているため、争いが生じるような無理筋な決定がなされることが基本的に生じ得ないからです。いい加減な判断を下して税務訴訟にでもなれば、担当者自身の評価にもつながりかねないことは言うまでもありません。
それゆえ、税務訴訟にもつれかねないような判断を課税当局が軽々にするとは考えられませんし、非営利型法人の要件を満たさなくなるほどの「特別の利益」がありその結果多額の課税が生じるという非常に重い判断を下す場合には、法人側がぐうの音も出ないほどの質・量ともに徹底した証拠を固めるでしょう。
もし仮に他の行政(公益法人等を管轄する内閣府や自治体など)の監査によってこれを裏付ける重大な不正や瑕疵が既に明らかになっていれば話が早いですが、そうでない状況で課税当局が独自に判断するハードルは極めて高いと言わざるを得ません。
そう考えると、誰の目から見ても社会通念から逸脱していない限り、同ニュースの内容を「特別の利益」と主張するのは課税当局にとって非常にリスクが高いと言えるでしょう。
他の非営利型法人の実務に与える影響
加えて、同ニュースの指摘している内容が本当に「大量脱税」に該当するとなった場合、全国の他の非営利型法人の実務に与える影響も計り知れません。
中小・零細法人ほど法人と代表者との境界線が曖昧なのは一般会社も一般社団法人ないし一般財団法人も同様ですが、法人と代表者との間の「特別の利益」が厳格に適用されるようになると、同様に法人税法施行令第3条違反として非営利型法人を否認され多額の税負担が一度に生じる事例が広範囲に生じることも否定できません。
もちろん、公私の区分が曖昧である方が悪いという言い方もできるでしょうが、杓子定規に判断を厳しくすることが公益法人等の運営に支障をきたし倒産さえ招いてしまっては本末転倒です。
どうしても厳格なルールを遵守すべきとするのであれば、猶予期間を設けて段階的にハードルを上げていくべきです。
同ニュースの内容が実際に税務の観点から争点になっているかは私自身は分かりませんが、少なくとも専門家の観点から慎重に判断すべき論点だと考えます。
まとめ:意図的な「脱税」と悪意のない「見解の相違」の違い
最後になりましたが、そもそも論としてお断りしておきます。
同ニュースでは「脱税」という文言が用いられていましたが、脱税とは読んで字のことく「税を脱する」行為であり、法令に違反して不当に税負担を少なくすることです。つまり、「税金を減らしたい」という納税者の明確な意図があることが前提です。
これに対し、納税者に法令を違反する意図がなくても課税当局との間で判断が異なるケースもあります。純粋な納税者側の不注意によることもありますが、そうでない場合に納税者と課税当局との見解が異なる場合は「見解の相違」と言います。どちらが正しいかは、双方が意見をたたかわせて、場合によっては国税不服審判や裁判を経て結論に至ることになります。
これは以前の記事で取り上げた「不正」と「誤謬」の違いにも似ています。ただ、見解の相違が必ずしも誤謬とは限らないところ、例えばプライバシー上の理由から開示できない領収書の会計処理を巡る判断は「見解の相違」とも言えるかも知れません。
もし仮にColaboにおいて税務調査が行われた場合、もしかしたら「特別の利益」の有無を巡って「見解の相違」が生じることだってないとは言えません。
その場合、「特別の利益」が存在し、それが非営利型法人の要件を否認するほど重大なものだったとしても、それが脱税という意図を伴ったものであるかどうかというのも、また次の段階の判断となります。
あるいは、脱税の意図の有無そのものが非営利型法人の要件の是非の判断を分けるかも知れません。
はたまた、脱税の意図が無かったとしても一般常識を逸脱するほど酷い不注意であったならば、やはり脱税に等しい重いペナルティが課せられ得るでしょう。
ここで改めて、冒頭の「大量脱税」に該当するかどうかの判断に当たっての論点を整理してみます。
Colaboと仁藤氏との間に「特別の利益」の遣り取りがあったか
それは非営利型法人の要件を否認し得るほど社会通念上不相当なものか
Colaboあるいは仁藤氏に脱税の意図はあったか
非営利型法人に該当しなくなった場合の税負担は「大量」か
皆さんはどう思われますか?
参考資料
https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/koekihojin/pdf/01.pdf
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