【Colabo事件②】引き続き、監査結果報告書に関する補足のようなもの(その1)※1/14・1/15一部訂正・加筆
前回記事で、1月4日付で東京都より公開された一般社団法人Colaboの「不正会計疑惑」に係る「東京都若年被害女性等支援事業について当該事業の受託者の会計報告に不正があるとして、当該報告について監査を求める住民監査請求監査結果(以下、監査結果報告書)」について要約・解説したところ、お陰様で想像を大幅に超える反響を頂きました。
改めて、御礼申し上げます。
前回記事を未読の方は、ぜひ下記よりご笑読ください。
もちろん、「ここは○○ではないのか?」等々、辛辣なご意見・ご感想も多数頂いています。
前回記事でも十分に消化しきれなかった箇所もありますので、それらも踏まえて引き続き掘り下げていきたいと思います。
以下は私の主観によるものであることも、あらかじめご了承ください。
いわゆる「(表3)問題」について
(表3)=裏帳簿?
前回記事でも紹介しましたが、「事業所要額(予算額)」及び「事業実績額」が2千6百万円に対し、監査結果報告書では「本事業(東京都若年被害女性等支援事業。以下、支援事業)の実施に必要な経費として法人A(=Colabo)が台帳に記録した経費」として、以下の表が掲載されています。
この表を(表3)と表現していたことから、当該経費の明細及び合計額を表すリスト自体も(表3)が通称として一部で定着しています。
確かに、右列の「事業実績額」こそが一般に言う予算に対する実績すなわち実際に発生した経費と思っていた側からすると、左列の「本件経費」を「これが本当の経費だよ」と言われて出されたら、後出しジャンケンをされたような気にもなるでしょう。
それゆえ、さも「監査になってから出してくるのだから、(表3)は”裏帳簿”だ」かのような言説もあるようです。
(表3)を作ったのは誰?
ここで、もう一度監査結果報告書における(表3)の手前を読んでみましょう。
そもそも「事業実績額」自体が初めから実際に発生した経費と必ずしも一致しないという前提なので、Colabo(=法人A)が保管している帳簿や領収書等を調査し、結果として(表3)にたどり着いたと読むことが出来ます。
監査結果報告書においても引用元の「台帳」の定義が明確でないので具体的に何を指すのかまでは分かりませんが、おそらくColabo側の会計ソフト等で記録されており、そのデータや領収書その他の諸記録を照合することで監査委員側も一定の心証を得ているものではないかと思われます。
しかし、そもそもColabo側からすると(表3)そのものの提出が初めから求められておらず、「精算額」という名目で実績額=予算額を報告するに留まっていたため、故意に(表3)=実際の経費を隠蔽していたというのもさすがに論理の飛躍と言わざるを得ません。
(表3)こそが真の経費なのか?
もっとも、監査結果報告書を読む限り、(表3)はColabo側の会計データに基づくものであり、これが実際の経費であることまで担保しているとは解釈できません。
経費の妥当性についても疑義を呈し東京都福祉保健局側にも再調査を勧告していますので、この結果次第では最終的な経費の内訳も(表3)から動く可能性は十分にあります。
それがどの程度動くのかも含めて、章を分けて検討します。
2月28日期限の再調査によって何がどう変わるか
監査結果報告書は「中間報告」?
監査結果報告書では請求者である暇空茜氏の「不正会計」の追及について「理由がない」とした一方で、Colabo側の経費計上についても数点を「不適切な点がある」ないし「妥当性が疑われる」ものとして指摘しています。
そして、東京都福祉保健局に対し2月28日を期限として、必要な経費を再調査するとともに、過年度分も含めて不適切と認められる経費や過払い分については返還請求等の措置を講じるべきと勧告しています。
つまり、再調査の結果によっては前述の(表3)を下回る金額が支援事業のあるべき経費という結論となり、その合計額が予算額の2千6百万円を下回れば、当然ながら差額については都に対し返還しなければならなくなります。
どこまで遡るかまでは明記されていませんが、最も古い委託契約が平成30年なので、令和3年度までの4年分で過払い分が認められた場合、Colaboがトータルで多額の返金を迫られることも十分あり得ます。
確かに、文言上は「会計不正」がことごとく否定されても、再調査の結果支援事業の経費が大幅な過大計上であることが判明し、Coloaboにおいても重い返還義務が生じたとなれば、暇空氏にとっては勝利ともいえるでしょう。
そう考えると、2月28日までに報告されるであろう東京都福祉保健局の再調査こそが「真打」であり、今回の監査結果報告書はいわば「中間報告」のようなものでしかない…ということでしょうか?
「不適切な点があるもの」と「妥当性が疑われるもの」
ただ、監査結果報告書の主語及び対象をここで再度整理する必要があります。
前回記事でも書きましたように、最後の「勧告」の対象は東京都福祉保健局であり、再調査の主体も同様に東京都福祉保健局です。
そして、精査及び返還請求等の「適切な措置」を講じるのも、やはり東京都福祉保健局です。
当該くだりをここで掲載します。
ここは専門外なので実際の勝手とは違う可能性がありますが、「~が認められる場合には」と断りが入っている以上、不適切か否かの判断は東京都福祉保健局に委ねられているとも読み取れるのではないでしょうか?
確かに、「経費として計上するに当たり不適切な点があるもの」として監査結果報告書は以下を列挙しています。
人件費(法定福利費・税理士報酬等を含む)の会計区分ごとの按分が不適切であり、その結果として支援事業以外に係る費用が混入している。
手取額で計上したことによる、人件費のうち源泉徴収等部分の計上漏れ
領収書として疑義が生じるような領収書や、そもそも領収書が示されていない費用
事業計画書の内訳を事業実績額に転記したと思しき結果、記載内容と実際の支出とで乖離が生じている
アウトリーチ支援に関する実施状況が契約内容に比べて曖昧で、実態が把握できない
なお、「一回当たりの支出が比較的高額なレストランでの食事代やホテルの宿泊代」「食事代とは理解しがたい物品の購入代」「都外遠隔地での宿泊代」なども併せて指摘しているものの、上記5点とは敢えて小節を分けて「妥当性が疑われるもの」としており、「不適切」に比べるとトーンダウンした表現になっています。
ここで、以上の5点+「妥当性が疑われるもの」1点について、下記の4カテゴリーに分類していきます。
A:明らかに経費として認める余地がないもの
B:瑕疵ないし問題はあるが認める余地があるもの
C:軽微な瑕疵あるいは実質的に瑕疵と言えないもの
D:本来経費にすべきもののうち計上漏れ
1.人件費について
まず、会計区分ごとに按分すべきという「公益法人会計基準」に対する明らかなエラーであるため、支援事業に係るもの以外は全てA(明らかに経費として認める余地が無いもの)に該当すると言わざるを得ません。
当然ながら、按分する基準によって否認される金額は大幅に変動します。
(表3)では人件費と法定福利費(科目名は「各種保険」)の合計額は1千3百万円を超えており、経費全体でもかなりの割合を占めています。
また、人件費のうち税理士報酬及び社労士報酬については「按分せず全額計上」(監査結果報告書P.22)されています。金額は明らかにされていませんが、それぞれの相場に照らせば合算して50~100万円程度(顧問料など経常的な報酬のみと仮定)と思われますが、適切な按分を行った結果、その半額前後の影響は想定されうるでしょう。
もっとも、Colaboの年次報告書も含めて外部に公開された資料だけでは合理的な按分基準となる指標を見つけることが出来なかったので試算はできませんが、極端な例ですが本来適用すべき按分基準よりもColaboが用いていた按分基準が10%過大であった場合は、それだけで100万円を超える経費が否認されることになります。(あくまで仮定に過ぎないことを強調します)
2.源泉徴収等の計上漏れ
前回記事でも紹介した通り、本来総額で計上すべき給与(人件費)が、源泉徴収額などを差し引いた手取り額で計上されていました。その結果として、給与が逆に過少計上となっています。
すなわち、D:本来経費にすべきもののうち計上漏れに該当します。
ここで注意が必要なのは、(表3)に記載されている「人件費」9,978千円が、Colaboの会計データから拾った数値(修正前=手取額)なのか、監査委員がColaboの給与台帳を基に算出した総額(あるべき金額)なのかまでは明確にされていません。
人件費の金額が手取額のままと仮定した場合、計上すべき人件費はどうなるのでしょうか。
鍵となるのは法定福利費(各種保険)です。
令和3年度Colaboの決算報告書を見てみましょう。
事業費及び管理費で、給料手当及び法定福利費が以下のように掲載されています。
それぞれの法定福利費と給料手当の比率を計算してみると
事業費・管理費ともに、概ね同じような比率になっていることがお分かりでしょうか。
当然ながら、アルバイトなど社会保険が適用されないケースや40~64歳が被保険者となる介護保険の有無などにより一律ではありませんが、健康保険及び厚生年金を合算した料率が概ね27~30%(都道府県または法人が独自に運用している健康保険などにより変動します)となり、かつ健康保険・厚生年金は雇用主(企業)と被雇用者(従業員)で折半するのが原則です。
このほか、健康保険・厚生年金ほど金額は大きくないですが労働保険も給与を基準に計算するため、やはり給与に比例して発生する性質を持っています。
ゆえに、企業が負担する法定福利費は理論上、給与額の10~15%ということになります。
上記のColaboの法定福利費と給料手当の割合は、これを裏付けるものと判断することが出来ます。
これは分析的手続といって、数値が100%正しいという確証までは得られませんが「大体正しい」という心証を得る会計監査で一般的に用いられる手法です。
もう一度(表3)に戻ってみましょう。
こちらにおける両者の割合はどうなるでしょうか。
なお、人件費のうち法定福利費の発生しない税理士報酬・社労士報酬の合計額は1百万円と仮定します。
明らかに上記の理論上の割合を逸脱しています。
では法定福利費/給与の割合が15%と仮定すると、法定福利費はどうでしょう。
逆に、2百万円を超える過大計上となってしまいます。
となると、整合しないのは他の理由がありそうです。
そこで、以下の仮説を立ててみます。
人件費は源泉徴収後の金額のまま
法定福利費(各種保険)が折半されておらず、納付額全額が費用計上されている
簡略化のため労働保険を割愛すると、あるべき法定福利費は
この数値から人件費を逆算すると、
その結果、人件費と各種保険の推定値及び過少計上額は以下の通りとなります。
法定福利費/人件費の割合が高いほど「過少計上額」は小さくなりますので、以上の仮説に立った場合はさらに最低でも1百万円以上の経費の過少計上(=計上が漏れた源泉徴収等相当分)があると推察されます。
ちなみに、「過少計上額」が最大となる場合、すなわち、法定福利費/人件費の割合が10%の場合ですと人件費=19,000千円となりますので、
推定過少計上額の幅が1百万円~7百万円と極めて大きいですが、こうして見ると前述の仮説
人件費は源泉徴収後の金額のまま
法定福利費(各種保険)が折半されておらず、納付額全額が費用計上されている
が正しいとすると、源泉徴収等の計上漏れによる影響も決して無視できないものと考えられます。
(繰り返しますが、これも仮説に過ぎません)
もっとも、前節の人件費の計上区分誤りによって過少計上分は減殺されてしまうので、人件費以外の影響を反映するとトータルではどうなるか判断は出来ません。
本来は3.以降の考察もしたいところでしたが、2.の源泉徴収等による影響の考察が想定以上に膨大になってしまったため、記事を分けて続けたいと思います。
1/15更に追記
続けてですみません。
少し重要な個所を見落としていました。
「不適切な点があるもの」のうち、(人件費、法定福利費について)の箇所ですが、「按分の考え方に基づき按分すべき法定福利費、税理士報酬等については按分せず全額計上しており不適切である。(監査結果報告書P.22より)」と明記されており、法定福利費も税理士報酬と同様に事業区分ごとに按分されず全額が計上されていることに気づいていませんでした。
ここで再度、Colabo令和3年度の決算報告と比較すると、
もっとも、(表3)に記載されている法定福利費(各種保険)が3,601千円なので25万円も合計額を超過しているのが気になるところですが、概ね総額と整合しているので、指摘事項を裏付けるものと見ることができます。
前項では「法定福利費が従業員負担分・企業負担分で按分されていない」という仮説に基づいていたので、もし仮に適切な按分割合が50%であれば、上記の数値と同じような結論になります。
これについては結局按分割合が大きく影響するので、別途検証いきたいと思います。
追記
1/14訂正
「2.源泉徴収等の計上漏れ」に関する考察において、人件費の「推定値」が本来13,000千円であるところ、誤って14,000千円と記載していました。
それにより、影響額も1百万円下方修正となります。
大変お恥ずかしい誤りです。
お詫び申し上げます。
これに併せて、新たに推定値の最大値も追加しました。
両者を踏まえながら、全体での影響を引き続き考察して参りたいと思います。
1/15追記
上のパラグラフを確認ください。
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