【Colabo事件③】引き続き、監査結果報告書に関する補足のようなもの(その2)
今回は、前回の内容が膨らみ過ぎて書き切れなかった事項の続きです。
前回及び前々回は、こちらです。
なお、引き続きの大反響に加えて、サポートまで下さった方までおられました。
遅ればせながら、御礼申し上げます。
前回記事の概要
初めに、途中で途切れてしまった前回記事の流れをおさらいしてみます。
具体的な考察については、前回記事をご覧ください。
既読の方は、次章まで読み飛ばして頂いても構いません。
いわゆる「(表3)問題」について
前回記事では、監査結果報告書に「本事業(東京都から委託された支援事業)の実施に必要な経費」という名目で、経費の明細を示した表が新たに登場しました。
この表に記載されている経費が果たして正しい内容なのか、はたまたColabo側が故意に(表3)のベースとなる会計帳簿を隠蔽し(つまり裏帳簿?)事実と異なる決算報告したのではないか、との論争が新たに噴出し、監査結果報告書において当該表が(表3)という見出しが付されていたことにちなんで、「(表3)問題」とも呼ばれています。
もともとColaboは支援事業について実績額=都から予め前払いで支払われた予算の精算であり、予算が超過した場合は超過分を含めた全額を報告する義務までは負っていませんでした。そのため、おそらく(表3)はColabo内部で記録・保管されていた正式な会計データに基づくものであり、決して「裏帳簿」のような類でないものと推察されます。
指摘された会計上の問題点
しかしながら、不正会計だとする暇空茜氏の主張を退けながらも、「不適切な点がある」及び「妥当性が疑われる」として問題点をいくつか指摘し、支援事業を管轄する東京都社会福祉保健局に、2月28日までに再調査及び調査結果の報告を行うよう勧告しています。
そのため、2月28日以降に明らかとなる再調査の内容次第によっては、最終的に確定する経費の金額は(表3)に記載されたものから更に変動することは間違いありません。
かつ、経費として報告したものが当初の予算よりも過大であれば、差額は都に返金しなければなりません。
監査の対象年度であった令和3年度だけでなく過年度分も再調査の範囲に含まれているため、調査結果によっては多額の返金義務が生じることもあり得ます。
監査結果報告書において「不適切な点があるもの」として挙げられているのは以下の項目です。
人件費(法定福利費・税理士報酬等を含む)の会計区分ごとの按分が不適切であり、その結果として支援事業以外に係る費用が混入している。
手取額で計上したことによる、人件費のうち源泉徴収等部分の計上漏れ
領収書として疑義が生じるような領収書や、そもそも領収書が示されていない費用
事業計画書の内訳を事業実績額に転記したと思しき結果、記載内容と実際の支出とで乖離が生じている
アウトリーチ支援に関する実施状況が契約内容に比べて曖昧で、実態が把握できない
上記とは節を区切って、「妥当性が疑われるもの」として、「一回当たりの支出が比較的高額なレストランでの食事代やホテルの宿泊代」「食事代とは理解しがたい物品の購入代」「都外遠隔地での宿泊代」などが指摘されています。
前回では「不適切な点があるもの」のうち1.及び2.を取り上げたところで想定以上に分量が増えたため、記事を区切ることとしました。
本稿では上記の「不適切な点があるもの」5項及び「妥当性が疑われるもの」を総称して「指摘事項」とした上で、以下のカテゴリーに整理しながら検証していきます。
A:明らかに経費として認める余地がないもの
B:瑕疵ないし問題はあるが認める余地があるもの
C:軽微な瑕疵あるいは実質的に瑕疵と言えないもの
D:本来経費にすべきもののうち計上漏れ
指摘事項の検証(前回続き)
3.領収書の不備について
初めに、改めて監査結果報告書における当該指摘事項の文面を振り返ってみましょう。
一般論として、経費の精算や決算の根拠として、領収書その他証憑類を提出したり保管したりすることは常識中の常識であることは言うまでもありません。
にもかかわらず領収書に不備があったり領収書そのものを欠いていたりするのは、確かに著しい管理上の欠陥とも言えるかも知れません。
もっとも、領収書の不備がどの程度かまでは、監査結果報告書上は明らかにはされていません。
会計帳簿に記録されている取引のうち数件程度で漏れていたのか、金額的にも重要な取引でことごとく一般常識に照らして適正な領収書が控えられていなかったのかでは、意味は全く異なります。
あくまで推測に過ぎませんが、例えば賃借しているシェルターの家賃や高額な備品の代金など、正当な理由もなしに金額的にも質的にも事業の根幹に関わる重要な支出で多数の不備があったならば、業務管理体制の著しい欠陥として監査結果報告書で指摘されていたのではないでしょうか。
そう考えると、百万単位で大きく影響する可能性は低いと考えられます。
領収書としての疑義あるいは領収書の漏れの理由としては、例えば以下のケースが考えられます。
領収書の入手を失念していた
入手した領収書を紛失した
支払う相手から領収書を入手することが事実上困難
適正な領収書の記載事項(金額・相手先・日付・摘要)について知識が共有されていない
領収書に必要な金額や日付などが取引の性質上困難
そもそも領収書やレシートが生じない
1,2は明らかに管理業務の問題ですが、わざわざ冒頭に入れている「本事業の特性上やむを得ない事由がある」には当てはまりません。
「本業の特性」を考察すると、考え得るのは以下のような性質でしょうか。
DV加害者などにプライバシーが漏洩するのを恐れて、取引先が住所や名称を記載した領収書を出さない(家賃、シェルター関連費用)→3
事務局で記録すべき事項が十分共有されておらず、記載に不備が生じる(支援者に直接支給または支援者が支払った支出を精算?)→4
寄付された物品を支援事業で費消した場合→5
アウトリーチ活動の合間などに自動販売機で購入した飲料代→6
シェルターの家賃及び関連費用は金額的にインパクトが大きいと考えられますが、監査結果報告書上でも支援活動の実態に問題がない旨が記載されているので、費用の実在性という点に鑑みるとシェルター家賃が丸々「領収書がない」ことを理由に全額否認するには無理がありそうです。
また、(実際にこのような形で費用が発生しているかどうかまで詳細は未確認ですが)支援者に何らかの名目で現金などを直接支給したり、支援者が一旦負担した支出を支援費や運営費としてColabo側が負担・精算したりする場合に支援者本人より領収書を書いてもらう際に、職員や支援者の知識不足から金額以外の記載が曖昧だったりすることも想定しえます。
税務実務上の話ですが、架空の領収書を防ぐ趣旨から、領収書には支払った相手方の氏名だけでなく、本人にコンタクト可能な住所及び電話番号も記載すべきとされています。
当然ながら、着の身着のままで逃げ出してきたような少女たちにとっては何を書けば良いのかという話になりますし、そもそも携帯電話だってColabo側に預けたりすることもあれば、何よりも所在地がばれるのが怖いわけですから、ばれないと分かっても書けるものではないでしょう。
そう考えると、経費の実在性を担保する代替的な方法を定めるしかありませんし、これを理由に全額否認するのも酷な話です。ただ、それを悪用して本来の趣旨から外れた支出を防ぐためにも、あるいはColabo側に初めから悪用する意図が無いとしても無用の疑念を持たせないためにも、一定の歯止めをかけるための内部統制は欠かせません。
金銭だけでなく食品や化粧品・生理用品なども寄付で受け入れていますが、もしこれを支援事業の一環として活用する場合、受け入れた寄付を収益として一旦計上した上で使用した部分を費用処理していく流れになると考えられます。
(必ずしも初めから支援事業の収益としてではなく、Colaboの自主事業会計で一旦収益計上してから支援事業の会計に振り替えているのが大部分と思われます)
小売店の在庫管理を想像すればお分かりの通り、POSシステムでもない限りどの物品をいつどのぐらいしようしたか、そもそも物品の金額はいくらなのかを日頃から個別に管理することは、ただでさえ多忙な業務の中ではとても出来ることではありません。
ましてや支援者がカップラーメン1個食べる度に領収書を切らせるのも、あまりに非現実的です。
一般企業の実務のように実地棚卸により費用(実際に費消した金額)を確定させる方法で経理処理するのが落としどころと考えられますが、委託契約あるいは現行の会計制度の未整備によるのかも知れません。
職員がアウトリーチ活動などで外回りを行うときにお茶や缶コーヒーなどを自動販売機で購入して経費としたケースも考えられます。
これも業務の性質上、やむを得ない支出とみなすことができます。
全額否認はちょっと酷かもしれませんが、せめて領収書に代わる日付や代金の記録と内部での承認は最低でも必要でしょう。
もっとも、年間で合計しても金額としては決して多額なものとは考えられません。
以上をまとめると、前述した費用のカテゴリーごとに分類すると、
A:明らかに経費として認める余地がないもの→該当なし
B:瑕疵ないし問題はあるが認める余地があるもの→支援者への給付費用、寄付されされた物品の費消、自販機で購入した飲料代(記録なし)
C:軽微な瑕疵あるいは実質的に瑕疵と言えないもの→シェルター家賃及び関連費用、自販機で購入した飲料代(記録あれば)
D:本来経費にすべきもののうち計上漏れ→該当なし
となります。
Bにカテゴライズされた項目は性質に照らして、主に「事務所・居場所運営費」「給食費」「消耗品費」に該当すると思われます。
(表3)によると令和3年度においていずれも2百万円以上が計上されており、どこまで計上が認められるかによって相当程度の影響が生じえますが、人件費と違って事業区分の問題も指摘されておらず、また当然ながら領収書の不備のない費用も含まれているので、合算して百万単位で否認されたりする可能性は個人的にちょっと考えにくいです。
4.記載内容の不整合
同様に、監査結果報告書における当該指摘事項を振り返ってみましょう。
これは一体、何を表しているのでしょうか?
ここで暇空氏による監査請求を振り返ってみましょう。
これまで何度か触れたように、Colaboにおいては複数の会計区分が設定されいます。
であれば支援事業における車両関連費はColabo全体における車両関連費の一部を構成するはずにも関わらず、支援事業における内訳の一部を合算しただけで40万円(しかも精算額として報告された「実績額」は1百万円を超えている)にも関わらず、Colabo全体で見ると車両関連費は20万円強に過ぎません。
確かにその差は一体何なのか、実体のない支出を故意に水増し請求しているのではないか?という主張も道理がありそうに見えます。
これに対する監査結果は、以下の通りです。
タイヤ及びドライブレコーダーに関しては実際に発生した費用であることが確認されたことが窺えます。
したがって、少なくとも暇空氏が主張するような架空請求が成り立つとは読めません。
しかしこれでは、支援事業の車両関連費が1百万円以上であるのに対しColabo全体では20万円でしかないことの説明がつきません。
差額の80万円は一体何なのでしょう?
これも推測ですが、都への報告では車両関連費に含まれていた支出(タイヤ、ドライブレコーダー等)がColabo全体の会計ソフトでは、消耗品費などの車両関連費以外の別の勘定科目として処理されていたのかも知れません。
その一方で、「事業実績額の内訳」が計画上の内容及び金額をそのままトレースしてしまったことで、実際の内容(本来は他の勘定科目の内訳として記載すべきものも含む)との不一致をもたらしてしまったことも推測できます。
これはどう解釈すべきなのでしょうか?
支援事業における経費に含めるべきものではないエラーとして処理すべきものなのでしょうか?
経費の区分を細分化しているのは、異なる事業体同士あるいは同じ事業体の異なる事業年度同士の比較を可能にし、両者の特性の違いを把握できるようにするためです。
例えば従業員の給与が事業体や年度によっては消耗品費や水道光熱費に含められていたり、同じ給与でも月や支払う従業員によって用いられる勘定科目がバラバラだったりすると、この前提が成り立ちません。
その一方で、同じ文房具の購入でも事業体によっては「消耗品費」を用いることもあれば、「事務用品費」だったり、はたまた「雑費」だったりすることもあります。
どれが正しくてどれが誤りと断言することもできません。
備品と人件費のように性質の全く異なる費用を混同することは論外ですが、そうでない限り、実務の観点からすると一概に言えなかったりするケースも間々あるのです。
そう考えると、ドライブレコーダー等の購入代金が「車両関連費」なのか「消耗品費」なのかが瑕疵とも言いづらいし、実際に監査委員から指摘を受けたのであれば指摘通りに勘定科目を訂正すれば済む話のはずです。
また、冒頭にあるように「購入していない備品」も含めて「事業実績額の内訳」とあるので、経費に関する補足説明に過ぎず(表3)に記載されてた各経費の金額そのものに直接影響するとも読み取れません。
以上をまとめると、当該指摘事項はカテゴリーで言うと【C:軽微な瑕疵あるいは実質的に瑕疵と言えないもの】と解するのが自然であり、購入の実態がある限り費用全体が否認される余地は少ないと考えられます。
一方で、以下のような指摘があります。
そして「5 結論」では
前述したように支援事業と法人全体とで異なる勘定科目が適用されていると推測されるように、同じ性質の取引であっても勘定科目が異なったりと会計処理に一貫性を欠いていると解することもできます。
もっとも、この責を全てColaboに負わせるのも酷とも言えて、行政側が適用すべき勘定科目のルールについて整備していれば、初めからこのような問題は生じなかったと解することもできるでしょう。
5.アウトリーチ支援の履行確認
アウトリーチ支援については、以下のように指摘されています。
確かに活動実態を把握する上では十分とは言い切れず、これだけを見ると、今までの指摘事項と違って経費の金額に直接影響するようにも見えません。
なおかつ、具体的にどの勘定科目に影響するのかも明確にされていません。
もっとも、これまでの指摘事項に比べ、具体的にどの勘定科目に影響するかまでは明記されていませんし、指摘内容も漠然としたままで何をどう修正あるいは今後注意すれば良いのかまでは不明瞭なままです。
考えられるとしたら、当該項目自体が特定の勘定科目に影響するというよりも、1.における人件費の按分基準あるいは前述のアウトリーチ活動中の飲料代等だと思います。
実際にアウトリーチ活動の裏付けを証明できなければ、その活動中に買った缶コーヒーの費用性についても証明はできないでしょう。
他方で、これまでのアウトリーチ活動そのものまでを全否定しているわけではなく、どの程度活動し何人に声をかけたか、あるいは延べ何時間活動したかで、支援事業への経費の按分割合も影響することは十分想定されます。
これまでの指摘と違い会計処理そのものではないのですが、この処理次第によって会計記録に影響が出うるという観点から、敢えて列挙したのかも知れません。
金額的な影響を具体的に示すことは困難ですが、事業活動の実体性を具体的な指標をもって示すことが出来ることは活動実態を裏付けるうえでも不可欠ですし、より具体的に活動していることを示すことで、費用が発生していることの裏付けにもつながります。
残すところは「妥当性が疑われる費用」及び総括ですが、一旦ここで区切らせて頂きたいと思います。
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