【蔵出し記事④】水谷建設の元社長が「自分の判断で」1億円を拠出する事は可能か?
こんにちは。
前回に続き、蔵出し記事です。
今回の内容及び肩書等は全て投稿当時(2011年5月5日)のものです。
テーマは「会計」ですが、厳密に言うと会計よりも会社法に関係する話です。
このテーマも多少遅れた感があるのですが、ちょうどニュースになったのが残業続きのまっただ中でしたので、ご容赦下さい(^^;ゞ
さて、小沢一郎元秘書である石川智裕・大久保隆両氏に対する裁判の中、水谷建設の川村尚元社長が後半で「大久保氏に要求されて1億円を渡した」という爆弾発言(?)が物議をかもした事は、今更説明するまでもないと思います。
(注:2022年現在リンク切れ)
参考:http://mainichi.jp/select/seiji/news/20110427dde041010081000c.html
しかしこの手の「暴露」は以前あるニュース番組が匿名によって報じていたこともあり個人的には何の新鮮味も感じなかったのですが、それ以上に監査現場の経験からして僕は強い違和感を覚えました。
川村元社長によると、「自らの判断で」要求に応じ5千万円を2回に分けて、紙袋で受け渡したとそうです。
ここで僕の頭に真っ先によぎったのは、「稟議書」あるいは「取締役会議事録」でした。
そもそも取締役会を設置している株式会社(一応水谷建設も取締役会設置会社である旨、公式HPで明示しています)においては、以下に示す通り多額の支出を行うにあたって取締役会の承認を得なければならず、社長と言えども例外ではありません。
もし川村氏が「ワンマン社長」であれば、自分の独断で1億円を支払って取締役会が事後承諾するという手法も考えうるでしょうが、後述の石川氏のブログにある通り、とてもそのような権限の持ち主には見えません。
つまり、普通の会社であれば億単位の支出にあたっては、稟議あるいは取締役会によって組織内部の承認を経ているのが当然であって、それは稟議書ないし取締役会議事録と言う形で証跡が残されるのが必ず会社に保管されているはずなのです。
いわば、仮にこうした証跡があれば「違法献金の動かぬ証拠」となる一方、逆に証拠となる稟議書も議事録、あるいは他の取締役の証言も無い場合は、取締役会に無断で会社の財産を毀損したとして川村氏自身が会社法第362条4項1号に違反してしまったことを自ら証明してしまうという、どちらに転んでも「黒」にしかならない極めて不合理な発言と言わざるを得ません。
そしていずれにしても、会社法の定める株主代表訴訟、あるいは債権者などによる第三者責任追及の要件を満たすには十分です。
もう一つ腑に落ちないのは、検察側が川村氏の信憑性にそこまで自信をもっているのなら、なぜ水谷建設の取締役会議事録や稟議書その他の内部資料を提示したり、川村氏以外の水谷建設側の証人を立てないのかと言う事です。
彼らが取り調べに当たって、これらの情報を調べていないはずがありません。
検察がまさか会社法を失念していたとは思えないので、これは検察が会社経営の実務に明るくない事も考えられるのですが、おそらく文書での証拠を見つけられなかったか、水谷建設自体のガバナンスが杜撰で議事録等が十分に整理されていなかったのでしょう。
いずれにしても、検察としては川村氏の証言に頼らざるを得ないのが現状ではないのでしょう。
しかし不思議な事に、当の検察が川村氏の会社法違反(の可能性)について追及している様子は見られませんし、今のところ株主や債権者が川村氏への責任追及への動きを見せているというわけでもなさそうです。
あるいは、帳簿を操作したり証拠となる資料を隠蔽していて、検察も証拠を発見できなかったという見方もあるでしょう。
いわば、粉飾決算によって1億円の支出をごまかしたというシナリオです。
しかし僕個人としては、会社の規模からして完璧に隠蔽するのは現実的に不可能だと思います。
以下の公式HPの「企業概要」にあるように、資本金1億45百万円、直近の売上高が397億円。
http://www.mizuken.co.jp/
非上場会社なので具体的な財務諸表の数値はわかりませんが、業界平均である
8.総資産回転率(売上高÷総資産。資本からどれだけ多くの売上を得たかを示す指標)=1.36
9.自己資本回転率(売上高÷自己資本)=6.73
(注:2022年現在リンク切れ)
(出典:http://www.wjcs.net/shihyo/img/keieishihyo.pdf 49(表示上は41)ページ参照)
から自己資本や負債も含めた総資産を算出しても、それぞれ59億円及び291億円。
当然、いずれも全額が現金あるいは預金として残っているわけではないので、規模に照らして1億円はとてもポンと出せるような額とは言えません。
そのような金額を交際費などに分けて帳面をごまかしても、毎月の経費の推移を費目別に調べたり前年度との比較をしたりすれば、必ずどこかが不自然に飛び出てしまい、粉飾は簡単にバレてしまいます。
まして、現金の支出を伴っている訳ですから、帳簿がインチキでも預金口座を見れば不審な動きはすぐわかるでしょう。
たとえばカネボウなどのように上場企業が赤字を隠すために巧妙な粉飾決算を行い続けて来たケースはありますが、倒産寸前で銀行から融資を得るために利益を継続的に過大計上でもしていない限り、非上場企業の水谷建設にそこまで高度な粉飾決算のテクニックやノウハウがあったとは、正直考えられませんし、あったとしても経理責任者が事件の当事者となっている以上、検察も経理責任者を取り調べ、証人として出廷させれば良いだけの事です。
ゆえに、会計帳簿を見れば1億円の支出の有無に関する証拠を見つけ出す事は十分可能であり、帳簿そのものを完全に隠蔽・破棄しない限り水谷建設側が完全に証拠隠滅を図れる可能性は非常に低いと、僕は考えます。
以上を勘案すると、川村氏の「1億円を手渡した」という証言は、非常に信憑性が乏しいと言わざるを得ません。
この点について、冒頭の石川智裕議員は自身のブログで、以下のように述べています。
(太字は僕自身によるものです)
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