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かっこいいビール会社をつくるために、B Corpについて調べてみた

企業やブランドに対して「かっこいい」と感じるポイントを考えてみると、いろいろと挙げられます。

高品質な商品、隅々まで設計されたサービス体験、イケてるデザイン、働く方々の温度感の伝わるひととなり、スタッフの成長の補助線になるような社内制度、などなど。

人によってそのポイントは異なりますが、僕個人的には、上記に加えて「社会(ヒト)や環境への配慮」も大きな要素です。

「社会的・環境的責任」を高い水準で果たしているかどうか?です。

抽象的な概念なので、身近なビールブランドで例をあげると…


どれだけおいしいビールをつくっていても、組織のトップが人種差別的な思想を持ち、公に発言しているようなブランドのビールは買いませんし、たとえ品質・デザイン性ともに高くとも、環境への配慮の点で誠意に欠けたブランドをかっこいいとは思いません。

一方で、新工場を再生可能エネルギーで動かすプロジェクトを立ち上げた静岡県のマイクロブルワリーや、早々にカーボンネガティブを達成したイギリスのブランドなどは、いちビール好きとして応援したいと強く思います。
また、「現時点でできていないこと」をきちんと「できていない」と認識・公表し、その上で「いつまでにどうやって改善していくか」を具体的に提示しているアメリカのブランドは、ブルワリー(醸造所)を立ち上げる身としてめちゃくちゃ尊敬します。


今日はそんな、自分自身が「かっこいい…!」と思えるブランドを自分でもつくるために、とある「認証」について調べてみました。


まずは自己紹介を

僕のnoteを読むのはこの記事が初めて、という方もいらっしゃるかと思うので、本題に入る前に簡単に自己紹介をさせてください。

髙羽 開(@kaitakaba)といいます。
現在、高知県日高村を拠点に『hanasaka』というビールブランドとブルワリー(醸造所)の立ち上げを行っています。

また、「ビールづくりの環境負荷」を入り口に「気候変動」や「サステナビリティ」に関心を持ち始め、起業準備の傍らで国際環境NGO『350.org』が主催する「気候変動基礎クラス」で講師をしたりもしています。

今日のテーマである「B Corp」という認証も、1年ちょっと前に「サステナブルな企業活動」についてリサーチをしていたときに知りました。


世界に拡がる「B Corp」とは?

https://www.simplybusiness.co.uk/knowledge/articles/2022/03/what-is-a-b-corporation/

Bコーポレーション(以下、B Corp)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?

もしかするとまだ馴染みのない言葉かもしれない、「B Corp」。
簡単に言うと、「社会的・環境的責任を高い水準で果たしている企業に対して付与される『世界標準の認証制度』」のことです。

公式サイトに書かれている、B Corpの概要は以下とおり。

B Corp Certification is a designation that a business is meeting high standards of verified performance, accountability, and transparency on factors from employee benefits and charitable giving to supply chain practices and input materials.
Bコープ認証は、「従業員の福利厚生」「慈善事業への寄付」から「サプライチェーンの慣行」や「原料投入」に至る要素において、その会社が、パフォーマンス、説明責任、透明性の点で高水準を達していることを示すものである。
https://www.bcorporation.net/en-us/certification

運営しているのは、『B Lab(ビー ラボ)』というNPO(非営利組織)。
ビジネスにおける『成功』を再定義する」ことを目標に、2006年からアメリカのペンシルバニア州で活動を開始しました。

自社や株主の利益を最大化することばかりを「成功」と見なすのではなく、"すべての人々・コミュニティ・地球の利益(公益)を追求すること"、"地球の未来を考え世界に広がる社会課題の解決に寄与すること"こそ、「成功」とすべきではないのか?

このB Labの理念に賛同する企業は世界で増え続けており、2022年5月時点で世界70ヶ国以上・150を超える産業で5,000社以上の企業がこの認証を取得しています。2020年末で2700社ほどだったことを考えると、認証を受けた企業はこの1年半でおよそ2倍となり、国際的なムーブメントとなりつつあると言えます。

その5,000社の中には、アウトドアブランドの『Patagonia(パタゴニア)』や、アイスクリームの『Ben&Jelly's(ベン&ジェリーズ)』、シューズブランドの『Allbirds(オールバーズ)』、食品メーカーの『Danone(ダノン)』といった日本でも馴染み深い企業も名を連ねています。

ビール業界でも少しずつ取得企業が増えており、『Brewdog(ブリュードッグ)』や『New Belgium Brewing(ニューベルジャンブルーイング)』『North Coast Brewing(ノースコーストブリューイング)』『The Alchemist(ジ アルケミスト)』など55社(※)がB Corpの仲間入りを果たしています。
(※ B Corp取得企業を検索できる「Find a B Corp」ページ内で「beer」もしくは「brewery」と検索してヒットした企業数です)


世界と異なる日本の潮流

https://www.triplepundit.com/story/2014/whats-difference-between-certified-b-corps-and-benefit-corps/41336

一方日本はというと、2022年3月時点でB Corp取得企業は以下の11社。ビール会社で取得しているところは、規模の大小に関わらずまだ一社もいません。

株式会社シルクウェーブ産業
石井造園株式会社
フリージアハウス株式会社
日産通信株式会社
株式会社泪橋ラボ
ダノン・ジャパン株式会社
株式会社エコリング
合同会社レドリボング
株式会社シグマクシス・ホールディングス
合同会社mayunowa
株式会社オシンテック
(認証取得順)

世界規模で見ると、B Corpと認定されている企業全体のおよそ0.2%に過ぎず、欧米はもちろん、台湾・中国・シンガポールなどアジア圏内でB Corp取得に積極的な国と比べても、その数はかなり少ないです。

他国と比べて日本の認証取得企業が少ない理由はというと、B Corpの公式サイトや申請ページに日本語表記がないことに加え、認証のプロセスを日本語で説明した情報がまだ少ないからだと言われています。
(そもそもの企業・生活者のエシカル経営・消費に対する認識・意識の違いが前提としてあるかと思いますが)

そんな中、日本でもこの状況を前進させようとする動きは出てきていて、古本の買取・販売(ほかいろいろ)を手掛ける『バリューブックス』が、コンテンツプロダクション『黒鳥社』や『パタゴニア』と手を組み、B Corpの入門書ともいわれる「The B Corp Handbook」の翻訳プロジェクトを昨年行いました。(2022年5月現在、プロジェクトの進捗に関する情報はネット上では見つけられませんでした)

ほかにも、『BeTheChangeJapan(ビー ザ チェンジ ジャパン)』というB Corpの取得サポートを行ったり、B Corpの情報をまとめたメディア運営を行っているコンサルティング会社も出てきています。

また、上にも記した『バリューブックス』に加え、アパレルブランド『CFCL』、パンと日用品のお店『わざわざ』といった企業・ブランドもB Corp取得の手続きを進めているor取得を目指していることを公表しています。
(この3社は僕が個人的に知っているだけなので、実際はもっとたくさんいるはずです)

このように、B Corpは世界で大きなムーブメントとなっており、日本においても、(少しずつではありますが)認証を取得する企業が増え、その認知度を高めようとする動きも出てきています。


どうやって取得し、取るとどうなる?

https://fairware.com/certified-b-corporations-leading-b-corps-share-the-benefits/

B Corpの認証取得のためには、以下のようなステップを踏むことになります。

①BIAを受ける

まずは、「B Impact Assessment(B インパクト アセスメント)」略して「BIA」と呼ばれるアセスメント(評価・調査)を受けるところから始まります。

BIAの内容は、従業員や地域社会、環境、顧客といったステークホルダーに与えるインパクト(影響)を測る質問が約200問あります。回答自体は無料で、Web上で行うことができます。会社の規模、業種、国、回答内容によって200の質問内容は多少異なり、200点中80点を超えると次のステップに進むことができます。

②法的な要件を満たす

BIA回答後、会社運営のルールをまとめた「会社定款」や、会社の仕組みそのものをB Corpの理念に沿うように変更する期間が設けられます。

③追加資料の提出や調査を受ける

次に、B Labのスタッフとオンラインで面談を行い、アセスメントを正しく理解できているか確認をします(場合によって点数が修正されます)。このタイミングで、自社のビジネスモデルに関する追加資料の提出や、B Labによる企業の調査(公表資料・ニュース・ネット検索など)が行われます。

④認証取得

最後に、B corpの宣言書への署名・契約書の作成・売上高に応じた認定料の支払いを行い、取得完了となります。

(認定料は、毎年支払う必要があり、更新は3年ごとです。更新するときは再度BIAで80点以上のスコアを取得し、必要に応じて追加資料を提出する必要があります)

https://bcorpcommunity.com/faq

では、B Corpを取ることは企業にとってどんなメリットがあるのでしょうか?

B Corpの公式サイトや、B Corpの情報をまとめたサイトを見てみるとたくさんメリットが書かれていましたが、以下の3点に集約されるように思います。

a. 第三者による社会的・環境的責任の達成認定

「そりゃそうだ」という感じですが、何よりもこれです。

「SDGs」や「サステナビリティ」が声高に叫ばれる現代。あらゆる企業が「環境にやさしい」「エコ」「エシカル」「グリーン」といった言葉で自社のサービスや商品を形容します。

しかし、これらの言葉は極めて曖昧で、"本当に社会・環境にいいのか"検証していない企業も多くいるのが現状です。

また、「グリーンウォッシュ」という言葉がしばしば使われることからもわかるように、「エコ」を謳う企業が、実は「環境にやさしい」のはごくごく一面的であったり、さらにはそもそも環境に優しい活動を本当はしていなかったりするケースもあります。
(ここでは環境面を例にあげていますが、従業員・顧客・地域社会への責任といった社会面でも同様のことが言えます)

このような「本当にエシカルかどうか見分けることが困難な時代」において、信頼性の高い第三者機関から認証を受けていることは企業のサービス・商品・発言に「根拠と説得力」を与えます。

b. さまざまなステークホルダーからの支持を得られる

また、この認証を取得することは、「企業が社会的責任を全うしているかどうか」に興味関心を持つさまざまな人からの支持を得ることにつながります。

その「さまざまな人」が、「生活者(消費者)」の場合はサービス・商品を選ぶ一因になりますし、「従業員」の場合は働きがいの根拠となり得ます。ほかにも「就職・転職活動をしている人」にとっては、企業の理念や姿勢に共感し入社を志すポイントとなり、「投資家」にとってはお金を出す後押しになり得ます。

さらには「取引先」でも同じことが言えて、「一緒に仕事をするなら、"社会や地球環境をより良くしたい"という強い思いを共にしている企業が良い」と考える取引先にとっては、B Corpがパスポートの役割を果たします。

これは、B Corpが「企業同士のコミュニティ」として設計されていることからも言えて、認証を取得することがコミュニティへの参加権にもなっています。脱炭素や水不足、人権問題といったグローバルイシューに立ち向かう、理念を中心に集まった企業とB Corpを通じてつながることができ、情報交換や協業のきっかけとしても機能しているのです。

c. 自社の歩む道しるべにする

B Corpが第三者の非営利団体による認証であることは、「自社を客観的に認識すること」にも役立てることができます。

「社会的責任」「環境的責任」とひと口にで言っても、その「責任」を構成する要素はさまざまです。1つの企業だけであらゆる責任すべてを果たすことはもちろんできませんが、BIAを受ける過程で自社の強みと弱みを客観的に認識し、進む方向性を確認することはできます。

自分たちの尺度だけではこぼれ落ちてしまう視点の補填」という意味でも、B Corpは作用するのです。


B Corp取得を前提にブランドをつくっていく

B Corpは、(そうあって然るべきですが)どうやら取得のハードルもかなり高いそうです。ただ、今日あげたような情報から考えると、『hanasaka』(立ち上げ中のビールブランド)として取得を目指さない理由はありません。

会社やブランドを一度形作ってからB Corpの取得へと舵を切るよりは、はじめから目指していたほうが良さそうです。

もし取得が難しそうでも、hanasakaとして取得を目指す過程をnoteに詳細に記すことや、「何がどう難しいのか」を知ることは、日本の(クラフト)ビール業界の現状を把握する上でもきっと有益なはずです。

「開業何年後までに取得を目指す」といった具体的な目標を掲げるにはまだ情報が足りませんが、これからリサーチをしていくなかで少しずつB Corp取得のハードルの高さや距離感も学んでいきます。

ひとまず次の記事では、BIAのページを熟読してみて、できれば200ある質問をすべて日本語訳してみようと思います。

同じ理念を持つほかの企業やブランドさんにとって、少しでもお役立てになれば嬉しいです。


最後に

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

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