見出し画像

音なる遊び場:空間に溶け込む “いい音” を求めて。:Pure Wine Bar Enfer 楢本さん

今回からスタートした新連載【音なる遊び場】
いい音のなる空間に、少し大人になった気分で遊びに行きたくなる。
そんなストーリーをお届け。
今回は、音への並ならぬ愛を持つ別府出身の店主が作り出した『Pure Wine Bar Enfer』。日本最古の木造アーケード 竹瓦小路にある、どこかディープさを感じるこの場所で ”空間に溶け込むいい音”の源泉を探った。
(取材・文=多久島皓太 写真=深川謙蔵 )

青春時代の思い出をこの場所で再現

別府駅から徒歩8分。別府温泉のシンボル的存在でもある竹瓦温泉や温泉保養文化が色濃く残るこのエリアに位置する日本最古の木造アーケード竹瓦小路。ここに、10年前から今も変わらず愛される音と自然派ワインの名店『Pure Wine Bar Enfer』(アンフェ)がある。
手作りの間接照明で薄暗く照らされた店内は、大小さまざまなワイングラスが吊るされ、店主お気に入りのレコードが並ぶ。

画像3

「この店は、僕が青春時代を過ごした下北沢の場末感を表現したくて。別府に帰ってきてふと歩いたこの通りで、ここだ!と直感で決めました」
『Pure Wine Bar Enfer』という店名の通り、楢本さん自らが厳選した自然派ワインのみを提供するお店だが、ワインはもちろんこのディープな空間にはいい音を楽しんでもらうためのこだわりが溢れ出るほど詰まっている。
「基本的に、内装は音の反響をなるべく防ぐために漆喰やウッドにこだわってます。前の店を作った時も音重視でした。日本人は漆喰に色を塗るなんてことはしないけど、前の店作りを手伝ってもらったハーフの友人フィルがやっているのを見て今回の店作りにも生かしました。彼の非日本人的な感性に感銘を受けて、日本の良さを出すというよりはアバンギャルド(芸術的な試み)を取り入れた店になってます。」

画像3

別府出身の店主楢本司さん、実はEnferをオープンするまでは東京の三軒茶屋で11年間飲食店を営んでいた。
「東京でお店をしていた時は別府に戻るつもりはなかったんだけど、2011年の東日本大震災を経験して、あの時の悲惨な状況が別府に帰る一つの理由になりました。周りの友人たちも続々と地元に帰っていって。その時に自分も別府に戻ろうかなと思って帰ってきました。」
未曾有の出来事を気に、地元別府に帰ってきた楢本さん。
当時は別府で店を構えることもあまり考えていなかったようだが、「東京で感じた別府にはないものを作り出したい。東京で見つけた自分が好きなワインや音を楽しめる空間を作りたい。」という思いから2011年 Enferが誕生した。

こだわりが詰まったホビールーム

「ここでかける音楽は、客層や雰囲気によって変えるというより本当にその時の気分で僕がかけたいものをかけています。その時その時でジャズをかけるときもあればロックやクラシックなんて時も。『お店で流す』という感覚ではなく自分の部屋で流す 感覚に近いですね。」
まさに ”ホビールーム <趣味の部屋>” とも言えるこの空間で、楢本さんの言葉に大きく頷いてしまうほど納得できる所以は、選び抜かれた機材たちにある。

画像9

「昔から、音響機材には強いこだわりを持っています。店で使用している機材は全ていろんなものを比較して、今の自分が“いい音” と思えるものだけを使用しています。機材選びはスペックから入るのもわかりますが、僕の場合は自分の耳。いくら数値やデータといったスペックの部分が良くても、感じ方が悪いと関係なくなってしまいますよね。自分の耳が心地よく感じる音だけを頼りにして集めています。」

画像4

そうはいっても、長年同じ機材を使用していると少し物足りなさを感じ始める時もあるようで、常に試行錯誤を欠かさない。
「機材はしょっちゅう自分でいじっています。ネットから得た情報で試してみたいものが見つかるとすぐに買ってしまうんです。最近だと、LUXKIT A3500っていうパワーアンプの真空管とかもよくいじってます。レコードプレーヤーはTHORENS TD325でカートリッジはSHURE V15 typeⅣ、プリアンプはCOUNTERPOINT SA-3.1。機材の話をするとキリがないですね。(笑)でもいろんな機材をベストな状態で生かすために、一番重要なのは電源。機材に合わせて、安定した電力を供給できる電源部には特にこだわっています。細かい部分を変えるだけで、音に大きく左右するのって面白いですよ。」

画像6

Enferではアメリカ製品を多く使用しており、当時のアメリカで聴かれていた音を最大限に実現することを目指している。また、より音のノイズを軽減させ本来の音質に近づけるために電源部分のアースケーブル仮想アースを自作するというオーディオマニアっぷり。

画像7

「音へのこだわりには手間がつきものですが、その手間でさえも最高に楽しいし妥協できない。それが趣味というものですね。」
これらの機材から生成されるいい音の出口となるスピーカーは、高校時代からずっと使用しているというお気に入りの「JBL LE8T アルニコ」。店の入り口に一台、入口から向かって一番奥の壁際にもう一台の計二台設置されている。

画像6

「お客さんの席を挟むようにスピーカーを配置することで、音に包まれるような感覚を存分に味わってもらえます。」
実際、楢本さんがかけてくださるお気に入りの一枚に身を委ねると、本当にスピーカーから流れているのかと疑ってしまうほど音自体の包容力を存分に感じることができた。

別府でしか体現できないお店づくり

「別府は都会と比べて、お店自体の競争意識が少ないと思います。家賃などの固定費が低いぶん、それぞれの良さを存分に尖らせる部分に投資ができて、それがそれぞれの"いい意味でのクセ"に繋がっている。周りの店舗も尖ったものをへし折ったり、丸めようとする働きかけをしないので魅力あるこの街でしかできない店作りをしています。」
別府出身の楢本さんが、一度故郷を離れたからこそわかる別府の魅力。
そんなEnferには、連日多くの地元民や学生が集まってくる。
「この店の何を最大の売りにするのかを考えたときに、やはり空間の雰囲気であると感じました。体に優しい自然派のワインも心地よい音も、その空間によっては感じ方も変わってきます。椅子の座り心地や店内の明るさも空間の一つ。長時間座っても疲れないイームズ社の椅子だったり、ゆったり音を楽しむのに最適な間接照明、遊び心を出したワインのコルクで敷き詰められたカウンター。その全てが、”いい音”を楽しむために必要不可欠なんです。
ワインや料理、お店の作り、こだわりの詰まった機材、そして店主楢本さんの人柄。風情漂う湯の街で、いい音の鳴る空間を作り出す要素の全てが詰まった素敵な”音の源泉”がそこにはあった。

画像1

店主の楢本さんお気に入りの1枚は、Elephant and a barbar。藤谷一郎氏、栗原健氏、Jazztronikの野崎良太氏が参加するアンビエントジャズの1枚。こだわり抜かれたEnferの音環境でぜひ一度聴いて頂きたい。

『Pure Wine Bar Enfer』
住所:〒874-0944 大分県別府市元町15−5
営業時間:19:00~ミッドナイト(混雑状況による)
電話:090-8404-5989
【今回ご紹介した機材まとめ】
THORENS TD325(レコードプレーヤー)
SHURE V15 typeⅣ(カートリッジ)
LUXKIT A3500(パワーアンプ)
COUNTERPOINT SA-3.1(プリアンプ)
JBL LE8T アルニコ(スピーカー)

画像8

多久島皓太 / ライター
1998年生まれ大阪出身の23歳
the HELLには開店当初から通っており、当マガジンの趣旨やオーナーの想いに共感しライターとして参加。現在起業準備中で日々の苦悩や葛藤、また趣味であるサッカーに関してなどSNSを通して幅広く発信している。
英国の伝説的ロックバンド oasisの大ファン
Twitter / note
深川謙蔵 / the HELL オーナー, the HELL MAGAZINE編集長
1990年佐賀県生まれ。立命館アジア太平洋大学卒。卒業後は株式会社オプトに入社し、新卒採用担当として勤務。2019年3月から別府に移住し、「遊びの入り口」をコンセプトにしたレコードバーthe HELLを開業。コロナ禍では、別府の風景を販売するチャリティの企画や、複数の飲食店と協力して朝ごはんを提供するイベントを運営。2021年5月より、「街の人が、街の人に学ぶ『湯の町サロン』」を主宰。
Twitter / Instagram

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?