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New Zealandがくれた宝もの 5 Witikaw Pool ウイティカウプール

 翌朝も小雨が降り続いていた。
7時にグラハムが車で、私たちのロッジまで迎えに来てくれた。
今日は、魚を釣るには、朝マズメがチャンスが大きいという、ウィティカウプールに連れて行ってくれることになった。
ブレイカウェイプールを通りすぎ、更に進むとブループールに出た。
そこには車が10台程駐車できるスペースがあり、そこから先へは歩きとなる。

 川沿いの小道を15分ほど歩いて行くと、サンドプールがあり、その先に私たちの目指すウィティカウプールがあった。
このプールは全体にフラットで川幅いっぱいに流れ、大きな底石がゴロゴロしていた。
その石の影に、辺りが静かになる夜から朝にかけてトラウトが休むというのである。
河原がないので、立込みながら釣りあがることになる。
すぐに場あれしてしまう、朝一番しか釣れないポイントなのだ。

 釣り人はすでに3人いた。
このプールに一番乗りした釣り人は、もうプールの上流部を流していた。
流れの脇の草むらには、見事な魚体の50cmほどのレインボウが、ごろんと2本横になっていた。
トンガリロリバーでは、一日3尾までキープしてもよいことになっている。
 私たちは、3人目の釣り人がもう少し上流に移動するまで石にこしかけ、様子をみることにした。
先頭の人が魚をストライクし、二番目に入った人もつづいてストライクした。
難無く二人ともレインボウをキャッチすると、一番乗りの釣り人は草の上に転がしてあった2尾をぶらさげ、帰っていった。

 一人抜けたので、一番下流にシンイチから入った。
ここは水深が浅いので、目印の浮きであるインジケーターからフライまでのティペットの長さを短めにとった。
それでもブレイカウェイで15フィートだったものを約半分にした。
重りのニンフもやや軽めにした。

 プールの向こう岸は断崖絶壁で、無数の鳥の巣穴が開いていた。
そこから鳥たちが、チチチと鳴きながら飛び立っていく。
シンイチにつづいて私、グラハムと流れに立込んだ。
このところの雨で増水しているせいもあり、私などは体が軽いので、ちょっと深みに入ると流されてしまいそうだ。
グラハムに助けてもらいながら、上流側に移動していった。

 やはり、何人もがキャストしていると、魚が気配を感じて散ってしまうようだ。
結局、一番乗りの釣り人が3尾、二番目が1尾キャッチしただけだった。
グラハムが、「もうすこし、朝早く出かけたほうがいい」と、言っていた訳はこういうことだったのである。

 ウィティカウプールの更に上流、フェンスプールに向かった。
川沿いの小道を3人で歩いていく。
道の両脇は、背の高いブラックベリーの枝や木々に覆われていて辺りの様子はわからない。
道を知らないで歩くとちょっと不安になる程だ。
 グラハムはさっさと歩く。
とてもリタイアした60近いオジさんとは思えない。
確かに、欧米ではリタイアする時期は日本に比べ早いと聞く。
しかし、それにしてもこんなに若々しく、悠々自的に暮らしている人が世の中にいるとは。

 さっさと歩いていたかと思うと、グラハムは落ちていたリーダーをすっと拾ってクルクルと丸め、ベストのポケットに収めた。
そういえばニュージーランドに来てから、釣り場でゴミを見かけないことに気づいた。
ジュースの空カンなどもってのほか、ティペットやリーダーなども落ちていない。
ブループールのパーキングスペースには、公衆トイレがひとつ建っているが、驚くことに中は清潔で、落書きひとつされていないのだ。
魚はなかなか釣れないけれど、ここに来て学ぶことが多かった。

 釣りのレギュレーションにしても、ニュージーランドではかなり徹底されているようだ。
タウポエリアでの1ヵ月の釣りのライセンスがN.Z.$30.50-、日本円でおよそ2,000円前後。
これ一枚でレイクタウポをはじめ、周辺の何本もの川の釣りができる。
しかし、ライセンスを持っていないと、監視員であるレンジャーにタックルを没収されてしまうこともあるそうだ。
自動車もタックルの一部とみなされると聞いたので、かなり厳しい罰則だ。
私たちは結局、滞在中レンジャーに会うことはなかったが、釣りのマナーに関しては、驚くべき高い水準である。

 トンガリロリバーの、一年を通して釣りができるエリアでは最上流部にあたる、フェンスプールに出た。
釣り人は誰もいない。
開けた流れに、一箇所深みがあった。
 グラハムはゆっくりと、ひとつひとつの底石を足で確かめながら、川を渡り、深みの際まで行った。
グラハムはいつも慎重だ。
私など、つい調子にのってキャストしながら川の中を移動すると、よく転ぶ。
打ちどころが悪ければ、いくら若くても非常に危険なのだ。

 私たちもグラハムにつづいた。
「やってみれば。」と、グラハムに勧められ、ニンフを流しはじめた。
グラハムもちょっと流してみるがアタリなし。
石の上に腰掛けると、両手で川の水をすくって飲んだ。
もうここより上流に人家はない。川には天然のおいしい水が流れているのだ。
それからグラハムは、タバコに火をつけ、ゆっくりと吸った。
私たちといえば、まだ懲りずにニンフを流しつづけていた。

 雨が強くなってきた。ここらで一旦引き上げることにした。

6. Heavy Weighted Nymphへつづく

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