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【め #31】何としても日本発の障害者支援技術を世界へ

高木 啓伸さん(後編)


前編から続く)


 高木さんが取り組む、視覚障害者の移動を支援する自律型ナビゲーションロボット『AIスーツケース』が、日本科学未来館で常設運用されている理由は、色々なデータの取得以外に、もう一つある。


 多くの人に体験してもらうことで、「将来こういう技術が出てきても怖がらないで、暖かく見守ってほしい」というメッセージだ。いつの時代も、新しい技術様式が出てくれば、その受け入れには論争が起きるものだ。

 実際、AIスーツケース利用時の白杖の有無についても「視覚障害者の中でも意見が分かれている」。白杖の代わりにAIスーツケースを持つことで「視覚障害者と気付かれずに街を歩くことができる」ことに価値を見出す人もいれば、AIスーツケースを使いながら白杖も持つことで「視覚障害者であると周囲に気づいてもらい安心して歩くことができる」と感じる人もいる。

 現在の道路交通法では、視覚障害者が単独で公道を通行する時は白杖を携えるか盲導犬を連れていなければならない。視覚に障害のある状態での歩行は非常に困難で、周囲の支援が必要なため、明示することで適切に支援を受けられるようにする、という前提に立っている。しかし、AIスーツケースのような、目的地まで迷うことなく安全に誘導する新しい技術の登場は、それを社会が受け入れるか否かと相まって、法律の前提にも影響を及ぼす。



 もちろん、これから解決しなければならない課題は山積みだ。

 技術面では、屋外での実証も始めているが、「不揃いなタイルの凹凸や、歩道と車道の間の小さな段差」など、移動を妨げる別の技術課題も出てくる。

 社会実装のための事業モデルもめどが立っていない。現在は、「コストよりも安全性最優先で、精度の高いセンサを用いている」が、最終的な事業化には、「安全性を下げずに部品価格を下げるチャレンジ」を乗り越えなければならない。

 現在ある類似のソリューションである盲導犬を例にとれば、「寄付を中心とした資金で盲導犬協会が盲導犬を育成して、ユーザーは無料で利用できる」という事業モデルが確立されている。AIスーツケースの場合はそうしたモデルもまだ見えていない。


 ただ、そんな中でも、米国では「視覚障害者向けの誘導ロボットを開発するスタートアップが出てきた。現在資金調達をしているようだ。」障害者の権利を保障する法律(障害のあるアメリカ人法:ADA法)が整備されていることで「高価な支援機器であっても導入しやすいマーケット基盤がある」ことが背景だ。

 それに比べて日本の環境は厳しい。障害者支援技術分野で、日本発で世界的な製品になったものは非常に少ない。でも、高木さんは、「日本発で頑張って続けていきたい」。米国の車社会と違い、日本は歩く公共空間が大切にされる。そうした「多くの人が歩いている日本でこそ“人混み”の技術を鍛えて、世界に出したい」。



 高木さんは最後に、私の向こう側にいる誰かを想像するかのように、呼びかけた。

 「技術はすべてオープンソースです。興味のあるエンジニアの方は是非参加してほしい。」

 「ベンチャーキャピタルには、こうした少数ながら強いニーズがある分野にも目を向けてほしい。」

 「社会の様々な立場の方々に、こうした分野のビジネスを日本で成立させる方法を考えてほしい。」

 前編の冒頭でご紹介したが、高木さんは、国立の科学館である『日本科学未来館』の副館長を務めておられる。誤解を恐れずに言えば、そうした立場を超えて、純粋に未来をリードしようと、そのために頭を下げているようにも見えた。

 私からも頭を下げたい。心あるエンジニアやベンチャーキャピタル、個人でも企業でも、力を貸してください。


画像提供:日本科学未来館



▷ AIスーツケース




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