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【あし #8】コロプラ所属のパラカヌーアスリート

今井 航一さん


 『コロプラ』という会社をご存じだろうか? スマートフォンゲームのほか、XR、メタバース、ブロックチェーンゲームの開発・運営を手掛けるエンターテインメント会社だ。 ゲーム好きであれば知らない人はいないだろう。他方で、同社が、「人々を楽しませ、心を動かすスポーツは、エンターテインメントそのものである」として、 パラアスリート選手を多く採用していることはあまり知られていないかもしれない。

 今井さんは、パラカヌー選手として同社に所属し、「片下肢に中等度の運動障害、片足と足首に重度の障害、または手足の欠損がある」クラスの日本代表として、東京2020パラリンピックにも出場した。


 2001年に大きな事故に遭い、筋肉や皮膚の移植を行うも、片足は足首が曲がらず正座ができない状態に。それから10年以上経ち、小走りできるまでに回復していたその足が腫れ始め、2013年に癌の告知を受けて切断に至った。それまでも片足が「重くてしんどい」と思っていたから「足がなくなって新しい体になる」程度に捉えた。実際に不便は多いけれど、「これぐらいだったらそこそこ動けるし、階段の上り下りもできる。苦労と感じたことはないですよ。」ときっぱり仰った。


 自分の身体よりも、「好きになってしまった」パラカヌーをどうにかしたい。

 奥様が昔カヌーをやっていた関係で初めて漕いだのは、2018年。リオ2016パラリンピックでパラカヌーが正式種目となっていたこのタイミングで、第6話でご紹介した『一般社団法人日本障害者カヌー協会』事務局長である上岡さんに出会う。これは、「2年後の東京2020パラリンピックを目指すタイミングだと勝手に思い込んで、最初からどうにかして出ようと目標を立てて」、見事に出場を叶えた。

 「マイナースポーツなのによく採用してくれた」と感謝する所属先の『コロプラ』には、「これだけ短期間で結果を出された点は注目している」と言ってもらった。その後も、例え思うような結果が出ない時でも選手として頑張る姿勢を評価してもらい、「競技に集中させてもらって、ありがたい。」と話された。

 他方で、これは“良い”例外かもしれない。結果重視も含めて「パラアスリートの雇用への考え方は、企業によって色々なスタンスがあっていいと思うが、まず雇用してくれる企業の絶対数が少ない」のが現状だ。こうした流れが大きくなるとともに、できるだけ長く競技できる環境も揃ったら嬉しいと、パラアスリート業界全体を思うように今井さんは話してくれた。

 パラカヌー選手の競技環境が厳しいのは、雇用だけではない。

 まずカヌーに乗って漕ぐには、左右の両足で前に蹴り込むようにして進んでいく必要がある。そのため、それができない部分は、漕いでいるうちに体がズレてこないよう、しっかりと艇のシートに固定するための器具が必要になる。それが「障害が重くなるほど高い精密度が要求され、費用が高くなってしまう」。障害者スポーツ協会の補助もあるが、シートを作るのに80-90万円もする場合もあるそうで「個人の持ち出しはどうしても大きい」。今井さんも地元の機械メーカーに製作協力を仰いで何とかしているのが現状だ。

 次に乗るにも、他のパラスポーツのように体育館に集合すればできるものでもない。カヌーをできる場所かつバリアフリーであることで「どうしても制限がかかって、(パラスポーツをしてみようという気持ちの)ふるいにかけられてしまう」。

 さらに乗れても、「指導者も少ない」。コーチ業に専念できる人間が少なく、且つ限られた指導者が全国バラバラで練習する選手を回っていくにも限界がある。そのため、どうしても代表メンバー主体の指導になってしまい、結果的に裾野の拡大や後進の育成に“つながらない”。

 企業によるアスリート雇用の広がりももちろん大切だが、それをその選手の代で途絶えてしまっては持続性がない。今井さんは「他の競技団体も共通する課題」と前置きした上で、そこから抜け出すには「コーチ雇用」という広がりも欲しいと話された。今井さんご自身も今後は「普及活動に力を入れるとともに、若い世代の選手にテクニックや経験を伝えて、彼らの世代で表彰台に立てるように支援する役回りを考えている」。

 今井さんが度々繰り返したのは、「まずカヌーに一緒に乗ってほしい」という言葉だった。それだけでいいから、それだけで魅力はわかってもらえるから、そしたら「関わりの糸口も見つかるはず」。マイナースポーツで、水辺に行くのも大変かもしれない。でも、最初のきっかけさえあれば自信がある。そんな風に見えた。まずカヌーに乗るだけなら、誰もが応援できるはずだ。



▷ 一般社団法人日本障害者カヌー協会


▷コロプラ




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