見出し画像

【め #32】「世の中にないもの」を生み出す軌跡

徳田 良平さん


 「世の中にないものを、自分でつくって、世の中に広がって、電車で履いている人を見つけるって、“筋が通る”。『あしらせ』は世の中にないもの。」

 徳田さんは、スマートフォンアプリと靴につける振動インターフェースで視覚障害者の歩行をナビゲーションする『あしらせ』を開発・販売する株式会社Ashiraseを、第19話及び第20話でご紹介した千野さんと共同創業した。


 同社は、日本を代表する自動車メーカーであるHondaの新事業創出プログラム「IGNITION(イグニッション)」発のベンチャー企業第1号。徳田さんと千野さんの出会いは、Honda内で放課後活動的にモノづくりをするサークルだった。

 徳田さんは、「家電が生命感をもって動き出したら面白い」と、ロボット掃除機が人を認識してインタラクションしたり、電気スタンドが音楽にノッてくれるアイデアを練った。その傍らで千野さんは、『あしらせ』の原形として、メトロノームのような振動するものをサンダルに埋め込んでいた。「お互いに変な奴だ」と思いながらも、パーソナルに寄り添うプロダクト志向は通底していた。

 そうした出会いから、もう一人の共同創業者である田中さんも含めて「3人で土日や深夜にちまちま集まって議論して新しいものを模索していくことが面白かった」。『あしらせ』の原形も、視覚障害者と実証実験をしていく中で、振動を通じて曲がり角や道筋を伝えて実際にコンビニまで行けるなど「具体的な価値が見えてきた」。

 当事者からも「コンビニに行けたら次は海を目指したい」といった声も上がり、徳田さんも「手助けしたい想い」が募る。Honda内で1~2年続ける中で製品プロトタイプも生まれ、「サイドプロジェクトでは限界がある」と、株式会社Ashiraseを起業するに至った。


 徳田さんは、スタートアップの醍醐味であり且つ苦しみとして、「その人にとってどれだけ刺さるか、0から1をつくるところ。」と教えてくれた。既に大きい会社のように今までの文脈や製品をアップデートするのではない。『あしらせ』の場合も、視覚障害者特有の難しさに加えて、振動インターフェースにも無限の選択肢がある中で、たどり着いたのが「足に付けるという、今までにない要素」だった。

 そこから地道に課題を潰してきたが、欲を言えば、パンプスに付けたい女性のニーズには応えられないなど、「全てのユーザーに刺さるものにはなっていない」。しかし、「今の現時点ではベストの解はここだ」と信じられるまでに、作り込んできた。


 しかし、ここから「1000人なりに届けられるようにするには、次のステップが必要」。コストも品質もロジスティクスも、さらにその中で次の技術的な挑戦もしなければならない。徳田さんは、「スタートアップでハードウェアをやること自体、頭おかしいですよ」と苦笑いされた。

 例えば、人材。「出荷の時点で製品は100%でないといけず、そこに最大のリソースが必要なのに、そこに人がいない」。

 さらには、現場のモノづくりの知見。それが「転がってなさすぎる」。なかなか協力してくれるメーカーや加工技術屋さんと出会えず、HPからも自ら飛び込むなど、苦労して知見の網を広げていった。今お世話になる加工機のメーカーの方が片目が不自由でおられたことで熱意が伝わるなどの「運や縁にも恵まれた」。

 他にも、「金型に1000万円もかかるなんて、起業するまで知らなかった」。近年ではスタートアップ向けの補助金も多くなってきたが、そうしたお金は研究開発要素には落ちても金型には落ちない、試作用途の金型費用に使えたケースも量産用途には移転できないなど、補助金のルールの壁にも阻まれてきた。


 それでも、徳田さんは、「自分で得た知見のすべてを、全身全霊でかける対象が見つかって、それが製品として結実する」ことにひた走っている。

 冒頭で「世の中にないものを、自分でつくって、世の中に広がって、電車で履いている人を見つけるって、“筋が通る”」という徳田さんの言葉を紹介したが、徳田さんは、最後まで“筋を通す”つもりだ。

 こんな“筋を通す”起業家は、純粋にカッコいい。そして、その姿に憧れて同じように“筋を通す”起業家が生まれていってほしい。そのためにも『あしらせ』には必ず成功してほしいし、力添えできることは何でもしたい。



▷ あしらせ




⭐ ファン登録のお願い ⭐

 Inclusive Hubの取り組みにご共感いただけましたら、ぜひファン登録をいただけますと幸いです。

 このような障害のある方やご家族、その課題解決に既に取り組んでいる研究開発者にインタビューし記事を配信する「メディア」から始まり、実際に当事者やご家族とその課題解決に取り組む研究開発者が知り合う「ミートアップ」の実施や、継続して共に考える「コミュニティ」の内容報告などの情報提供をさせていただきます。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?