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【こえ #10】コミュニケーションに障害を抱えた方のために第二の声を届けるマウスピース型機器「Voice Retriever」を形にして世に出したのが…

山田 大志さん


  第9話でご紹介した戸原玄さんが発想した、コミュニケーションに障害を抱えた方のために第二の声を届けるマウスピース型機器「Voice Retriever」を形にして世に出したのが戸原先生の下で大学院生として学んだ東京医科歯科大学の山田さんだ。

 実は元々の研究対象は睡眠時無呼吸症候群だった。無呼吸は、寝ている間に筋肉がゆるんで重力が加わり、下あごが後方に下がるなどで気道が圧迫されることで起こる。そのため、下あごを上あごより前方に出した状態に固定するマウスピースがある。マウスピースは矯正や歯ぎしり防止など、歯や口のためだけでなく、「呼吸を助ける」、という「本来歯の役目でない機能を付与できる可能性があることを知っていた」ことが生きた。

 がんを患って喉頭(空気を気管に、飲食物を食道に振り分ける部分)を摘出した方は、そこにある声帯も失う。その声帯の代わりに、マウスピースにアンプとスピーカーを備える機器を思いつく。戸原先生から相談を受けたわずか4日後にはそれを試作し、すぐに特許も出願した。


 その後、クラウドファンディングで資金を集めたことで新聞やテレビでも露出が広がり、自ら宣伝していないにもかかわらずインドネシアなど海外からも問い合わせがあるなど今ではおよそ100人の方が「Voice Retriever」を使っている。

 しかし、口の中だけで装置を完結させることが難しく口元から有線が出ざるを得ない、普段話している声のように抑揚をつけられない、音質をよくないなど改善すべき点は多い。さらに今はアルバイトさんで凌いでいる生産体制も整えないといけない。「どんなエンジニアの方に来て頂いても仕事がある、どんな分野のプロでも手伝ってほしい」そうで、協力して頂ける方を募集中だ。


 「Voice Retriever」を一番使ってくれている40歳の女性は、18歳で疾患を発症し、20年余り人工呼吸器に頼らざるを得ず声を発することができなかった。そうした中で8年前にご結婚されたが、旦那さんの名前を自らの声で呼んだことがなかった、呼べなかった。「Voice Retriever」がその叶わなかった夢を叶えた。「その方が一番使ってくれて一番壊してくれる。その方のおかげでずいぶん頑丈になりましたよ」と話す山田さんの笑顔の向こうにそのご夫妻の笑顔が見える気がした。


 「誤解を恐れずに言えば、歯医者として生きていくことはできる。だからこそ、今は安心してこの機器の開発を続け世の中に広げていくことに挑戦できるんです。背水の陣とは逆かもしれませんね」。


 山田さんと初めて接点をもった日は、山田さんが株式会社東京医歯学総合研究所を設立された日だった。山田さんは本気だ。この新しいチャレンジを応援するしかない。


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