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【こころ #18】母と娘の関係における精神的な難しさ

N さん


 Nさんのお話をお聞きして、Nさんのお母様にお会いして、お母様からNさんはどう見えていたのか聞いてみたくなった。

 Nさんは中学時代の成績はトップクラスだったが、高校で私立の進学校に進むと成績について「頑張ってもこの程度、、、でももっと頑張らないと」という葛藤が始まり、さらにお母様からも厳しく言われたことも影響してか、最終的に「家にひきこもるようになって逃避した」。出席日数がギリギリになる中で、学校側も協力してくれて「卒業するも、最下位だった」。

 「高校を辞めたかったが、そのことへもプレッシャーを受けた。大学にも行きたくなかった」が、お母様からどこでもいいからと言われ、高校時代に美術部で絵を描くのが好きだったから美大に進んだ。友人にも恵まれ、自由な環境で「自分に合ったことをできて楽しく」、うつ病っぽさも消えていった。

 しかし、大学を卒業して就職するよりは純粋に好きな作品を作り続けたかったが、在学中に「きちんとデッサンの勉強をせずにきた、絵が下手、何を表現したいのか」など悪い評価を受ける。就職活動の頃に「学校や電車の中で笑われる声がする」という幻聴が聞こえるようになり、結果的に就職活動をせずに再び「ひきこもった」。


 卒業した後に派遣職として働いてみるも、「ストレスで感情のコントロールができなくなったり、接客にクレームが入ったり、遅刻もあり、退職勧奨を受けた」。それでも母校に求人を求めに行ったところ、カウンセリングを受けるよう勧められ、初めて『統合失調症』の診断を受けた。そんな病気だったとは「それまで気付かなかった」。

 ただ、「とにかく働きたかった」ので、学校のように通いながら就職に向けたサポートを受けることができる『就労移行支援事業所』を紹介してもらい、通う。しかし、先の診断に基づいて処方を受けた「薬を飲み始めてからおかしくなった」。「生活のリズムができずに、寝たきり、(朝起きて事業所に)向かうことができてもすぐに疲れてしまう」日々だった。ちなみに、専門家曰くは、当時処方された薬を服用していながら起きて向かっていただけですごいのだそう。


 その後にたどり着いた就労先が、障害のある方がフレンチを中心とした洋食レストラン運営に携わる就労継続支援B型事業所※『アンシェーヌ藍』だった。その後、同事業所を運営する『社会福祉法人 藍』が運営するグループホームにも入居する。別の病院に通院して薬の処方も変わったことも手伝い、徐々に回復していく。

 昔からお母様の物言いに「傷つきやすかった」。薬が合わずに情緒不安定になってしまう頃は、交際相手とのやり取りに「落ち込みやすかった」。そんな時でもグループホームの職員の方々が「(自分の)背景を知って、(感情を)補正してくれた」。そうした過程を経て、1年程前から一人暮らしを始めることもできた。


 Nさんは、お母様と距離を置いて暮らすようになってむしろ「家族の大切さに気付いた」。一人で暮らしてみて「お母さん強いなと実感した」。Nさんのお母様は、ご自身で会社を経営しながら、シングルマザーとして娘3人を育て上げられた。

 「昔は、こんな子供を傷つける(ようなことを言う)母は嫌いだった」。でも、今は「お母さんも傷つきやすい人で、でも強がっている人」だと感じるようになった。最近はNさんからお母様に「大丈夫だよ」と声をかけるようにもなったそう。

 Nさんはこの先の夢として、「家庭を持ちたい、結婚して子供を育てたい。」と話された。最も印象的な言葉は、「母のようになりたい」だった。


 誠に勝手な推測だが、きっとお母様はご自身のご苦労を振り返って、娘であるNさんに色んなものを伝えたかったのではないか。故に言葉が厳しくなることもあったのではないか。例えそれがスムーズに伝わらず時に双方に誤解をもたらしたとしても、結果的にお互いを理解し合い始めるに至ったのではないか。

 そう言ったらうまくまとめ過ぎだろうか。でも、冒頭で申し上げた通り、Nさんのお母様にお会いして、お母様からNさんはどう見えていたのか聞いてみたくなった。それだけ素敵な母娘関係ではなかったかを確認するために。


※就労継続支援B型事業所
障害のある方が、一般企業に就職することに対して不安があったり、就職することが困難だったりする場合に、雇用契約を結ばずに生産活動などの就労訓練を行うことができる事業所



▷ 社会福祉法人 藍



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