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【みみ #16 / め #23 / こころ #32】当事者でも当事者家族でも支援者でもある

喜島 隆大さん


 『APD』や『LiD』という言葉をご存じだろうか?『Auditory Processing Disorder(聴覚情報処理障害)』と『Listening Difficulties(聞き取り困難)』の略称で、「聞こえている」のに「聞き取れない」「聞き間違いが多い」など、音声を言葉として聞き取るのが困難な症状を指す。喜島さんが創設した『APD/LiD当事者会APS」に参加して、その言葉を初めて知った。APSはAPD Peer Supportの略で、「仲間同士の支えあい」を意味している。2018年6月に喜島さんが始めた当事者会の仲間は、今や1800人にも及び、そのコミュニティはAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究にも活用された。


 ご自身も『APD』の当事者だが、最初からその言葉を知っていたわけではなかった。そこに至る経緯は、少し遡る。


 20歳の頃、喜島さんの脳に腫瘍が見つかった。小さい頃からあったようで、3-4cmと大きくなっていた。腫瘍の場所は、様々なホルモンをコントロールして生体機能の維持を司る下垂体。

 腫瘍が大きくなっていく中で、下垂体の上方にある視神経を圧迫し、視力・視野障害が起きていた。「右眼の視界はまだらで、左目は半盲。バイクが好きだったけれど免許は返納しました。」と症状を教えてくれた。腫瘍は下垂体そのものにも影響するため、ホルモン分泌の低下や過剰で、倦怠感や疲労感、尿崩症といった体の機能不全も出ていた。

 幼少期から目が見えづらいとかトイレが近いといったことがあったが、「それまで病院に行っても、原因は不明だった」。しかし、22歳になって初めて得られた診断は、『下垂体機能低下症』という難病。日本国内では2万人弱の患者数がいるとも言われるが、喜島さんのように発覚しないままに“隠れた”患者数はさらにいるとも言われている。


 無事腫瘍は摘出されたが、下垂体機能低下症の患者会で出会った発達障害のある看護師さんから「あんた発達障害じゃないの」と言われて、発達障害“グレーゾーン”の当事者や支援者が集まる交流会に顔を出す。「みんな同世代で活動していて、それが本になったり、シンポジウムを開いたり、面白かった」。

 そんな機会を通じて初めて耳にしたのが『APD』という言葉だった。「子供の頃から、先生の言っている教科書のページについていけなかったり、先生が伝えた次に行くべき場所を把握できてなかったり」。その時は「天然ボケみたいな感じだったのが、思い当たる節があった」。

 さらにそんな時に目にしたのが、あるソーシャルワーカーのブログ。「ソーシャルワーカーがソーシャルアクションしてないじゃないか!というメッセージに刺激を受けた」。当時、『APD』当事者が集まる会はなかったから「やってみた」。そこから「ゆるくやってた」結果が、6年で1800人のコミュニティになった。ソーシャルアクションした結果、ものすごい成果が生まれた。


 実は喜島さんは、生まれ育ったご家庭で、家族の精神疾患など厳しい環境を経験している。その後にご自身の難病が発覚したことは、前述の通りだ。それを経た大学卒業後、回復期のリハビリテーション病院で勤務する傍ら夜間通学で精神保健福祉士の資格を取得し、知り合いの紹介で精神障害者のグループホームに勤め、そうした中で当事者の支えるになるコミュニティを立ち上げてきた。コミュニティの取り組みは完全にボランタリーで、儲けはない。それどころか、色んな地域で同じ動きを広めてほしいと、支援までしている。

 即ち、喜島さんは当事者であり、当事者家族でもあり、それらを支える環境をつくる支援者の役割も担ってきた。本当に色んな視点をもっている。こんな経験をもつ人こそ、障害のある世界に新しいサービスや製品を生み出す原動力になるのではないか。喜島さんは、そう思えて仕方ない人である。



▷ APD/LiD当事者会APS




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