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【め #33】当事者と約束した以上、やり抜きたいが、、

小西祐一、藤山悠史さん


 私のオフィスの最寄り駅である東京都メトロ四ツ谷駅でいつも、視覚障害用の点状ブロックの“違和感”に目が留まる。QRコードシールが貼りつけられているのだ。

 アプリで起動したiPhoneのカメラで読み取ると、目的地と使用者の現在位置に基づき、移動経路が自動で計算され、音声ガイドが自動で生成される。カーナビならぬ、視覚障害者ナビ。その名も『shikAI(シカイ)』という移動支援アプリだ。

 毎日QRコードが目に留まる私は、このアプリ自体は知っていた。今回それを開発した小西さんと藤山さんとお話しする中で見えてきたのは、このインフラを維持するための苦悩と、それでも諦めない素顔だった。



 『shikAI(シカイ)』を手掛けるLiNKX社の本業は金融系や製薬系のシステム開発であり、開発のきっかけは必ずしも社会貢献ではなかった。

 「画像認識系AIが進展し、自動運転の未来も近づいているんじゃないか」と世の中の期待が高まる頃だった。「自動運転ができるなら、駅構内における視覚障害者の移動支援もできるんじゃない?」と誘いを受けて、東京メトロのアクセラレータープログラムに応募してみると、見事に採択される。

 実験環境として用意されたのは、「社内研修用の、乗客がいない本物の駅」。無線技術を試すも上手くいかない中で、「スマホを手に持って移動すると、、、そのカメラは下に向いている、、、その下では点字ブロックを歩いている、、、」。その後、本物の辰巳駅でも実証実験が行われ、「導かれるように、現在のソリューションにたどり着いていった」。

 今や、冒頭でご紹介したQRコードシールが点状ブロックに貼りつけられている駅は、東京メトロの8路線にも広がっている。


 しかし、だ。少し想像すればわかるが、視覚障害者にとって「乗換の多い大手町駅に導入されて喜ばれているが、東京メトロだけでは嬉しくない」。乗換の多い駅は大手町だけではない。渋谷や新宿で別の鉄道事業者に乗り換えるとすれば、どうすればいいのか。

 一方で、どの駅にも「点字ブロックは見事に敷かれている」のだ。点字ブロックメーカーは敷設すれば終わり、自治体なのか鉄道事業者なのかメンテナンスもなされる。

 しかし、QRコードはそうはいかない。『shikAI(シカイ)』は、それを使い続けられるよう「スタンダードで再利用可能なQRコードを選定している」が、iPhoneで使い続けられるようにするには「アプリを更新し続けないと、ゴミになってしまう」。自治体や独立行政法人でも担ってくれない限り、Li NKX社の負担であり続けるのだ。

 たった1枚のQRコードシールを貼られる側と貼る側の差は紙一重どころではない。


 その解決に向けて、小西さんや藤山さんが手をこまねいてきたわけではない。

 QRコードシールの敷設をお願いすれば、「バリアフリー整備ガイドラインに載っているか?」と問われ、もう一方にガイドラインに載せてほしいと頼みに行けば「どれぐらい広がっているのか?」という板挟みに合う。

 来年開催される大阪万博もダイバーシティが採用されやすいだろうと、「寄附金を使ってタダでやりますと言って」、入り組む鉄道事業者、地元自治体、当事者団体を回ったが、なかなかイニシアティブをとってもらえず、まとまっていかない。


 実は、小西さんは、Li NKX社が立ち上げ3社目となるシリアル・アントレプレナー(連続起業家)だ。しかし、上記を背景に、小西さんは『shikAI(シカイ)』という事業を、「普通のプロダクトと比べると、ステークホルダーが多く、時間軸もかかる。しんどい上に儲からない」と正直に表現した。将来、「会社が上場してパブリックカンパニーになるとすれば、創業者がやりたいだけでは通用しなくなる」。

 それでも、だ。『shikAI(シカイ)』という事業を「実験し開発していく過程で累計数百人の当事者の方々に関与してもらった。目的地にたどり着けることを目撃し、もっと広げてほしいという声ももらった」と話す小西さんが続けた言葉が忘れられない。「当事者と約束した以上、やり抜かないといけない」。


 小西さんは、自分のことを「“ソーシャル”・アントレプレナー(社会起業家)ではない」と言った。あくまで営利企業として儲けるために起業した、と言うように。

 でも、その小西さんから、こんな言葉が漏れる。「渋谷・新宿・池袋のどこかにでも入れば大きいですよね」「大阪は昔から地下街がたくさんあるから、視覚障害者にとって安全だし、点字ブロックもある。あそこが自由に歩いて遊べる環境にしたいよね」「晴眼者は駅の構内を歩くのにお金を払わず、目にする広告からお金が生まれている。同じようにshikAI(シカイ)を使って当事者からではなく広告からお金を生めないか」


 これでも、これまで成功を収めてきた起業家を社会起業家たらしめない理由を、起業家本人やその会社の問題だけに収斂させるのだろうか。社会起業家を生み出す背景は、文字通り「社会」にあるのではないか。私たちも含めて、ステークホルダー一人ひとりが、『shikAI(シカイ)』を通じて試されている。

 このインフラの普及のために私たちも尽力するし、読んで頂いた方に尽力してほしい。



▷ shikAI




ここまで読んでくださった皆さまに‥


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