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【め #29】想いを大切に、人の言うことを聞くな

中村 猛さん(後編)


前編から続く)


 目の前に何があるのかを、形、大きさ、距離を音響と振動が伝える」ことで、「視覚に代わる新しい知覚」を与える次世代型感覚デバイス「SYNCREO(シンクレオ)」。

 それを開発するRaise the Flag社を創業した中村さんのもとには、「視覚障害者の未来を変える」世界を信じて、人もお金も少しずつ集まっていった。もちろん「今年にはベータ版を発表し来年には量産目途を付ける」状況で、さらにメンバーも資金も必要になる。ただ、根底では、「計算とかではなく、同じ場所を見てくれる人」と一緒にやりたい。

 「全盲や視力のない方の単独行動を可能にする製品は未だにない」。でも、「あっちこっちで、色んな言語で、チャレンジしていた痕跡はすぐに見つかる」。それでも製品にならなかった理由は、資金面や部品調達、テクノロジーが追い付いてなかったから。でも「それができるところに今いるんです」。小さなコンピュータが出てきて、SDGsが評価されるようになって昔のように市場が狭いだけでは終わらなくなった時代。だからこそ、「すべてにおいて、運に恵まれている」と中村さんは話す。成功する人はよく「運」という言葉を使う。



 以前、ベンチャーキャピタルの担当者に「障害の中でも、特に視覚障害は市場が狭く、それに何十万円も払える人のパイは更に小さい」と言われたことがある。中村さんがその人に「ベンチャーキャピタリストとして、何が喜びですか?」と聞き返すと、「GAFAを作りたい」と返ってきた。例えば、Appleは最初、クラスに1人しかいないようなオタクのために作られた。Facebookは最初、大学内の女子の写真と評価を書きたかっただけ。「最初は何だってすごく狭いもの」でも、いかにそこから広い世界を見据えるかが大事だ。

 中村さんのデバイスが狙うイメージは、「標準アプリが入ったスマホ」。現在提供するソリューションに関するSDK(ソフトウェア開発キット)をオープンにすることで、「いま考えつかない課題や解決方法を、世界中のエンジニアが取り組んでくれるプラットフォーム環境を目指す」。そうして、「より多くの人に届き、またそれが改善され、さらに売買されれば、市場はもっともっと大きくなる」。


現在製作中のβ版デザイン


 「会社が儲かるうんぬんではなく、製品が広がってほしい」。製品の開発を続けるためにはある程度儲ける必要はあるが、個人として「儲けるモチベーションは強くない」。

 夢を聞けば、「じいさんでリタイアしたら船で釣りに出てさばいて食べたいとか、その程度ですよ。」と笑って答えてくれた。現在取り組むデバイスに、私利私欲は感じられない。


 最後に、今回の弊社の取組は、身体の不自由を解決することに挑戦する起業家を増やそうとするものだ。その話をすると、「起業しろしろと言っても、大もとになる想いなしに金だけ求めても、儲かりそうな分野に行くことにしかならない。すなわちそこにはライバルもめちゃくちゃ多い。」と話してくれた。

 これから起業を考える人たちへのメッセージも聞くと、「そんなことをやってもとか、そりゃもうからないよとか、人の言うこと聞かなくていいと言いたい。」と返ってきた。

 中村さんと同じように、かつては自分に縁遠かった障害のある人の話を見聞きし、そこに想いを感じて旗を立て、そして周囲の評価軸をものともせずに自分軸を貫く。そんな起業家が一人でも生まれてほしいし、この中村さんのストーリーや弊社の取り組みがそのきっかけになったら、そんなに嬉しいことはない。




▷ SYNCREO(シンクレオ)

https://rtf.co.jp/syncreo/




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