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【みみ #12 / め #16】実のある障害者支援に邁進する研究者

米村 俊一さん


 米村さんは、芝浦工業大学で『コンピュータ・メディエーテッド・コミュニケーション(CMC)』を教えておられる。CMCとは何か。

 研究室のホームページによれば、「コンピュータを、情報伝達チャネルの一部として介在させることで、より高度な支援(話者の相互理解を助ける)を実現するための研究分野」と説明があり、例示として「対話相手の聴覚能力が低下しているなら音声をテキストや手話といったメディアに変換する」と書かれている。なるほど必ずしも障害を対象にした研究分野ではないが、コンピュータが障害者のコミュケーションを補完する余地は大きそうだ。

 米村さんが補足してくれた。「コンピュータ・ネットワークを介したコミュニケーションをうまくするには、工学系だけではなく、コミュニケーションする人間そのものを知らないといけない」。その中でも「障害者支援は、人間を理解しないとできない最右翼」と教えてくれた。


 どういうことか。例えば、聴覚障害者にコンピュータを介して情報を届けようとしたとき、“日本語のテロップを流せばいい”と発想しがちだ。しかし、「小さい頃から耳が不自由であるために日本語の獲得過程が阻害されて手話をネイティブに使ってきた人にとって、日本語は文字ベースだけの“第二言語”」と米村さんに指摘を受けた。

 逆に、我々が第二言語をいきなりテロップに流されて、そうスムーズに理解できるだろうか?聴覚障害者の場合、特に災害など緊急対応時の情報伝達が課題とされることが多い。地震や津波などの緊急事態で慌てると人間の認知能力は下がると言われるが、そんな中で第二言語のテロップが流れても、情報獲得や判断のミスにつながる可能性は容易に想像がつくだろう。

 そのため、米村さんが聴覚障害者に研究実験に協力してもらう際は、文字ベースの日本語ではなく、必ず手話通訳者を介して会話するのだそう。正確性を徹底している。


 その流れで、米村さんから手話について教わった。日本で使われる手話には、3種類ある。(1)ろう者にとっての第一言語である『日本手話』。これは日本語と文法が違い、助詞がない。(2)逆に日本語と同じ文法で助詞も指文字という手話で表現する『日本語対応手話』。事故や病気など中途で聴覚障害になった人が使用するケースが多い。(3)ろう者と聞こえる聴者とのコミュニケーションで使われる『中間型手話』。

 さらに「20代後半から30代はそれらが混じった手話を使ったり、東京と九州で単語の手話表現も違ったりする」そうで、手話同士の初めての会話では、相手がどういった手話なのか探り合いなのだそう。他方で、手話は「辛い、超辛いといった“程度”を、言語ではなく表情で表現する」。そのため、例えば、一般的に英語という“言葉”を知らなければ英米人と意思疎通できないが、米国手話も“程度”は表情で表現する共通点があるため、「違う言語でも1時間ぐらいするとわかるようになる」そうだ。純粋に、面白い。


 そんな風に米村さんが“障害をもっとわかってほしい”と熱く語る理由がある。それは、障害者の課題解決により多くの人、特に具体的なソリューションを考えられる“エンジニア”に関心を持ってほしいからだ。

 「エンジニアの方って、この人が困っているとわかれば何とかしてあげようとする良心を持った人が多いと思っているんです」と真面目に話しながらも、他方で、障害のある“人間”を知らずに、“きっとこうだろう”という思い込みで何かを開発しても的外れになってしまう。だから、「(良心あるエンジニアに)まず正しい情報を伝えることが大事」と考えている。


 例えば、視覚障害者が料理をする際の課題を考えるとどうか。まず“包丁が危ない”と思ってしまうのではないか。実際に料理している場面を見せてもらうと、スムーズに包丁を使い、むしろ「包丁で切った切りくずがどこにあるか、鍋がどれぐらいの熱さかわかることが助かる」のだそう。

 例えば、納豆や豆腐の賞味期限を視覚障害者はどう確認するか。スマホで画像認識しようとしても、デザインされたフォントはスマホでも読めなかったり、裏面には文字がびっしり記載されすぎて情報過多になったり、対象が瓶であれば曲面で読めないなど、「リアリティのある困りごとは溢れていて、本人さえも気付いていないこともある」。


 米村さんの研究室では、こうした困りごとのデータベースをどのように揃えて、且つどういった情報の見せ方が“それを解決しようとする”エンジニアの共感をもたらすか、学生が主導となって研究を始めている。困りごとを集めるにも、既に幅広く把握している行政や、実際の生活現場の中での課題発見に協力してくれる障害当事者の存在が欠かせない。そうした協力を広く求めている。

 近年、年齢・性別・障害の有無によらず誰にも使いやすい『ユニバーサルデザイン』という言葉をよく聞くようになったが、リアルな課題や生活現場を知らずに取り組むのはもってのほかだ。それを単なるスローガンで終わらせず、「研究とかでもなく、純粋に実のあるサポートのために何をするか」、それが米村さんの想いだ。



▷ 研究室のホームページ




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