見出し画像

【こえ #45】耳鼻咽喉科での発見の遅れが悔やまれる

熊本 満男さん


 喉が痛い。誰しも日常で体験することだ。当然、誰しも自宅や職場の近くの耳鼻咽喉科に行って、調べてもらう。

 熊本さんも喉の痛みを感じて、そのように行動した。でも、カメラを入れても異常はなく、処方された薬を飲んでも痛みが治まらない。大病院に向かい、レントゲンを撮ると「腫瘍がある」と言われ、カメラを鼻から入れてみると、検査の2週間後には『食道がん』を宣告された。喉の痛みの原因は、「喉の下の方にあった」。その間でさえ、(腫瘍は)だんだん大きくなって、食べ物がのどを通らなくなった。それほどまでに進行は早く、「すぐに見つかっていればよかった」と熊本さんは悔まれた。

 これまでに癌を患って声帯を摘出した方に数多くお話をお聞きしてきたが、このような早期発見が遅れたケースを繰り返し聞くことがとても辛い。


 熊本さんが医師から「(腫瘍は)手術だと完全に取れるが、声帯も摘出することで声を失う。一方で、放射線治療や抗がん剤治療だと(腫瘍は)残る可能性がある。一度決めたら後戻りはできない。」と言われ、最終的には、手術して安心したいと、「声よりも命を選んだ」。

 今から4年前、喉頭(空気の通り道であり声帯を振動させて声を出す働きもする)や食道(食べ物の通り道)の一部を摘出する手術を行い、また切除した食道の一部に対して小腸の一部を採取して補う形で移植する空腸移植再建手術も行った。


 私たちは通常、空気の通り道である「気管」と食べ物の通り道である「食道」が途中までつながっている。しかし、癌をきっかけに喉頭(声帯)摘出手術を受けた方は、首に永久気管孔を造設する(穴が開く)ことで新たな「気管」をつくり、そこを通じて呼吸することになる。すなわち「空気」の通り道と「食べ物」の通り道は完全に分かれることになる。

 その状況で声を取り戻す方法としては、以下の3つがある。

  1. 「食道」に空気を取り込み、喉を手で押さえるなどで空気を逆流させ、食道入口部の粘膜を新たな声帯として振動させ発声する『食道発声』

  2. 電気の振動を発生させる器具を喉に当て、口の中にその振動を響かせ、口(舌や唇、歯など)を動かすことで言葉にする『電気式人工喉頭(EL)』

  3. 手術により新たな「気管」と「食道」とをつなぐ器具を挿入するとともに、気管孔を器具で塞ぐことで肺の空気を食道に導き、声を出す『シャント発声』


 熊本さんは術後、愛知県で声帯を摘出し声を失った人に対して発声訓練を通じて社会復帰を支援する『愛友会』に参加した。当初は、②の『電気式人工喉頭(EL)』を練習してみるも、うまくできなかった。次に、①の『食道発声』に取り組んでみたが、前述した空腸移植手術のせいか「空気をうまく取り込んで逆流させることができなかった」。

 そのため、『愛友会』に③『シャント発声』の方がおられたこともあり、「思い切って」医師に③のための手術を申し出る。医師によれば「手術をしても話せる人と話せない人がいる」とのことだったが、口の動かし方などを訓練し、今や「ここまで話せることは珍しい」ほどにうまく話せるようになった。


 そんな声を取り戻した熊本さんでも、改めて「耳鼻科で発見が遅れたことが悔やまれる」と振り返った。医師を批判したいわけではない。「耳鼻科の先生にもこうした病気の可能性や当事者の経験を共有して差し上げる機会があればいいんじゃないか」と優しく話された。

 当事者の経験は、次に当事者になる方々にとってとても有益だ。そのために、こうした発信を続けてきた。熊本さんはそれに加えて、そうした当事者の経験は、その方々に対峙する医師などの支援者にとっても有益になる可能性を示唆してくれた。



▷ 愛友会



⭐ ファン登録のお願い ⭐

 Inclusive Hubの取り組みにご共感いただけましたら、ぜひファン登録をいただけますと幸いです。

 このような障害のある方やご家族、その課題解決に既に取り組んでいる研究開発者にインタビューし記事を配信する「メディア」から始まり、実際に当事者やご家族とその課題解決に取り組む研究開発者が知り合う「ミートアップ」の実施や、継続して共に考える「コミュニティ」の内容報告などの情報提供をさせていただきます。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?