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【こえ #5】国産初の電気式人工喉頭「ユアトーン」を開発した…

須貝 保徳さん


 がんなどで喉頭(声帯)を摘出した方など発声が困難な方のための発声補助具として「電気式人工喉頭(EL)」という製品がある。あご下周辺に当てた振動を口の中へ響かせ、口や舌の動きで振動音を言葉にして発声することができる。

 須貝さんは声を失った方ではない。そんな方のために国産初の電気式人工喉頭「ユアトーン」を開発した電制コムテック社の技術者だ。


 電制コムテック社は、北海道は札幌市の東方にある江別市に本社を構え、創業当初からエネルギーインフラ設備を主な事業とする会社だ。そんな会社がなぜ?

 エネルギーインフラに関係する事業は顧客の仕様に基づく受注生産が基本となっているが、会社としては、それだけではなく、自社で仕様を企画する自社ブランドの製品を持つことも重要であると考えており、エネルギーインフラで培ったエレクトロニクス技術を応用できる自社ブランド製品を世の中に出せないか模索していた。

 そんな折、当時北海道大学の伊福部達先生と地元の工業試験場が喉頭摘出者用の人工喉頭の高度化に取り組んでいる話を耳にする。全く門外漢の分野だったが、社内で培ってきた技術が活用できると踏んだ。


 実は、当時も国内に人工喉頭は存在した。ただ、すべて海外製だった。そのため、製品を修理に出してもなかなか戻ってこない。日々発声したい当事者にとっては切実な問題だった。また、当時の製品はロボットのような一本調子の声しか出なかった。伊福部先生はそうした一本調子の声に抑揚をつけるなどの改善に取り組まれていた。


 しかし、勝手がわからない障害者向けの機器。試作品を作って試してもらうも、初めのうちは散々な結果であったが、地元北海道で喉頭を摘出された方が集まり発声練習に取り組まれている「北鈴会」に足しげく通い使い続けてもらった。「ユーザーさんに試してもらわないと本当の答えは出てこない」から。


 当事者の期待に応えたいという想いに追い風が吹く。国立研究開発法人である「新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)」から開発に補助金が下りた。さらに、この分野では「初の国産」、さらに「北海道の企業」ということで、製品化する前から様々なメディアに取り上げられた。当事者の方から「製品化を心待ちにしています」という手紙も届いた。


 国産初の電気式人工喉頭の開発に着手してから製品化まで実に7年近くを要した。本業の傍らとはいえ「ユアトーン」が世の中に出るまで「思った以上に時間がかかった」。それでも「待ってくれている人がいることが最大のモチベーションだった」。


 須貝さんの取組は続いた。2代目製品は、1代目製品に比べて声に抑揚をつける機能の使い勝手を改善して世に送り出した。ここでも当時ご縁のあった当時宇都宮大学の先生のアイデアを参考に大学の研究成果を積極的に取り入れた。

 その後社内で担当を譲ることになるが、今でも「未だに音質は改善できていない」「片手で保持しなくても使えるものを目指したい」「まだみんながみんな使えるものではない」と情熱は絶えず、後進による更なる製品改善に期待している。

▷ 電制コムテック株式会社(ユアトーン)


▷ 北鈴会


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