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【こころ #27】「戻れる場所」があるから一歩ずつ進める

O さん


 東京都では、知的障害者(児)が各種のサービス(手当、制度等)を受けるために、知能測定値、社会性、日常の基本生活などを、年齢に応じて総合的に判断し、1度(最重度)、2度(重度)、3度(中度)、4度(軽度)に区分される。Oさんは、4度に当たる。


 「画伯」と呼ばれるOさんは、素敵なアニメの模写の数々を示し、それこそキャラクターのように目を輝かせながら話してくれた。

 「小さい頃から絵を描くのが好きで、先生とかに教わったわけではなく、自分で練習してきました。レベルの高い人に絵のタッチとか聞いたり真剣に勉強したい気もする。いつかオリジナルを描いてみたいが、まだ“自分の絵”が見つからない」。夢を語る素敵な女性だ。

 ちょっと小声になったと思ったら、「担当には内緒なんですけど、いつか自分のオリジナルの絵を売って担当を驚かせたい」とニヤッとした。


 「担当」とは、『社会福祉法人 大田幸陽会』の就労移行支援事業所『さわやかワークセンター』で自身の成長を見守ってくれた職員の方を指す。Oさんは高校を卒業して入所し、そこで2年間を過ごした。

 Oさんは振り返って言う。「担当がいつでも相談してねと言ってくれて、心がオープンになる。話ができて、一緒に喜んでくれる」。Oさんが安心して「通える場所」と表現した事業所で、就労に向けて多くの経験を積んだ。

 事業所が運営する大田区役所1階のカフェでは、お客様へのご挨拶、水出し、席の番号を確認しての丁寧な配膳などに取り組んだ。「就職する上で良い経験になった」。

 公園清掃を通じて掃除のテクニックも学んだ。「きれいになった公園を見て“ありがとう”と言われることが嬉しかった」。

 スムーズに就労に移行する訓練として、面接の練習や1分間スピーチも訓練した。「(時間を)過ぎちゃうこともほぼだけど。」とはにかんだ。

 担当の方と、科学の手順をすごろくのようなロードマップ風に伝えることで人気の漫画『ドクターストーン』になぞらえ、自分の目標に向けたロードマップも作成した。最終目標は「一人暮らしをしたい」、そのために「お金を稼ぎたい」。そこに向けて簡単な目標から少しずつ進んでいけるように担当の方が一緒に考えてくれた。それを「つまづいたら見直す」日々を送った。


 その結果、Oさんは2年前にこの事業所を卒業し、現在はデニッシュ食パンで有名なベーカリーで、パンの包装や、ラスクやマドレーヌなどお菓子作りの補助などの仕事をしている。実家から離れてグループホームにも住み、「毎日、お弁当も作っている」。一人暮らしに向けたロードマップを着実に進んでいる。

 卒業から2年経っても、仕事が休みの日には「1か月に1回は顔を出す」。Oさんにとっては引き続き「通える場所」であり、いつでも「戻れる場所」なのだろう。


 最後に、何か力になれないかと思い、「私の似顔絵をオリジナルで描いてくれたら、最初の購入客になりますよ」と伝えた。そんなことしかできないが、とにかく応援したくなる、そんな素敵な女性だった。


▷ 社会福祉法人 大田幸陽会


▷ さわやかワークセンター



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