見出し画像

【め #3】視界は常に真っ白い状態だ…

小川 敏一さん


 小川さんは先天性の弱視で、右目は小学校の頃に失明した。濃淡の差はあれど視界は常に真っ白い状態だ。

 左目は「弱視故のちょっとした不注意だったのか」、36歳の時にロッカーに目をぶつけたことで目の強膜(眼球の外側をつくるいわゆる「しろ目」)が破裂した。角膜移植で一時持ち直すも結局、左目も失明した。視界の色は「(右目同様に)真っ白な時もあれば、真っ黄色だったり赤みがかったりする時もあり」、失明した当初はあった明暗やシルエットは今や失われた。


 小川さんは小中学校までは普通校に通っていたが、先天性白内障の後に続発性緑内障(注1)を発症していたこともあり、高校から盲学校(注2)に通われた。「失明しても何とかなるように」白杖(注3)の訓練はもちろん、卒業時には音声でのPC操作もマスターされて、社会福祉法人日本視覚障害者団体連合で働き始めた。

注1:緑内障とは、ゆっくりと視野が狭まっていき、視野が欠如した部分がぼやけていく、酷くなると失明に至ることもある病気
注2:盲学校は、従来「養護学校」「ろう学校」と区分してそう呼ばれていたが、現在はその区分はなくなり「特別支援学校」と呼ばれている
注3:白杖(はくじょう)とは、視覚障害者が歩行の際に前方の路面を触擦するのに使用する白い杖のこと

 

 現在の日常生活でのテクノロジー利用をお聞きすると、第1話の吉泉さん同様の課題感が見えてきた。

 まずは移動。晴眼者と同じように「電車の時刻にはYahoo時刻表アプリを使う」し、目的地の方角と距離を教えてくれるアプリ『Blind Square』も使ったことがある。最近では、進路上の障害物や目標物も検出してくれる『Eye Navi』なども出てきているそう。

 ただ、「あるのとないのとでは全然違うが、道順だと直接マップを見れないので、本当に正しいか確認できない」ことや、GPSの10m前後の誤差も気になるそう。

 さらに、建物に入った後だ。「大きな商業施設であれば、以前は受付でコンシェルジュに依頼するといったことができたが、コロナ禍の影響なのか、現在は予約制だったり簡単にマンパワーの支援を得ることが難しくなった」と教えてくれた。


 音声読み上げ機能が使えない課題も見えてくる。PDF書類を開いても「埋め込みフォントを抽出できないケースがある」。Webサイトをのぞいても「例えば「次へ」と書いてあるボタン表示をそのまま「ボタン」と読み上げてしまう」など、画像の代わりとなるテキスト情報(alt属性)が付けられていないなどだ。

 新しいサービスほどそういったWebサイトに出くわし、同じサービスでもWeb以上にアプリが「ビジュアルに頼っているせいか、不備を顕著に感じる」そうで、「大企業でさえも開発者にそういったリテラシーがない可能性もあるのではないか」と指摘された。


 音声読み上げ機能が働いたとしても、その先にも課題はある。

 最近、身分証明書のなりすましを防ぐために身分証明書の写真だけでなく厚みの判定を行うケースを経験された方もおられるだろう。実際には、身分証明書に対してスマホのアプリ画面内に表示されたガイド枠にはまるようにスマホをかざすのだが、お気づきになっただろうか。視覚障害のある方にとってそもそも「枠に入っているかどうかを確認するのが難しい」。

 今や日常使いとなったQRコードでも同じことが起こる。「とりあえずスマホをかざしてみて、当たれば」といった状態だ。「QRコードの場所が右下に統一されたり、そこに切れ目が入っていたり、透明なテープがあったり」といった工夫が欲しい。

 最近広がるクレジットカードのタッチ決済も、低額であれば場所を誘導してもらうだけだが、「高額になれば暗証番号も求められる」。その先には、視覚障害者が見えない「タッチパネルが待っていて、さらにテンキー配列がランダムに変わるケースさえある。でも店員に番号を伝えるわけにもいかない」。


 最後に、小川さんは「視覚障害者だけのためにやっていただく必要はないですが、誰でも使えることが大事で、それがユニバーサルデザインであってほしい」とおっしゃった。どんどん便利にするのもテクノロジーだが、それで不利が出る部分をフォローするのもテクノロジーの役割だろう。


▷ 日本視覚障害者団体連合


▷ Blind Square


▷ Eye Navi


⭐ コミュニティメンバー大募集

 Inclusive Hubでは高齢・障害分野の課題を正しく捉え、その課題解決に取り組むための当事者及び研究者や開発者などの支援者、取り組みにご共感いただいた応援者からなるコミュニティを運営しており、ご参加いただける方を募集しています。


Inclusive Hub とは

▷  公式ライン
▷  X (Twitter)
▷  Inclusive Hub


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?