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【こえ #29】声を失うことにもポジティブに「命をもらったんだから」と笑顔で…

金安 泰子さん


 金安さんは、2015年に喉頭がんの手術で喉頭(声帯)を摘出された。「しょうがないじゃない、なるようにしかならないんだから」と声を失うことにもそんなに悩まずポジティブに「命をもらったんだから」と笑顔で当時を振り返られた。


 前回”声を失って#28”でご紹介した小林美智恵さんの回でも触れたが、声帯を摘出した方が声を取り戻す方法として、1️⃣口や鼻から食道内に空気を取り込み、その空気をうまく逆流させながら、食道入口部の粘膜のヒダを新声門として声帯の代わりに振動させて音声を発する「食道発声」や、2️⃣あご下周辺に当てた振動を⼝の中へ響かせ、⼝や⾆の動きで振動⾳を⾔葉にして発声することを補助する器具「電気式人工喉頭(EL)」を使う方法などがある。


 金安さんは、最初は1️⃣の「食道発声」に1年ほど取り組んだ。しかし、食道まで空気を取り込んだつもりでもその空気をうまく使えずに母音が出せない「誤発声」を何度も指摘される。「自分では「あいうえお」と言えているように思った」けれど、1️⃣の「食道発声」を諦めた。今では2️⃣の「電気式人工喉頭(EL)」を使いこなしておられる。


 「電気式人工喉頭(EL)」使用時の課題として、よく言われるのは次の3つだ。
1)ELを通じて出る声がロボットのような声になってしまう
2)同様に声に抑揚がつかない
3)ELを持ちあご下周辺に押し当てるため片手が常に塞がる

 金安さんに、一番解決してほしい課題を聞いたところ、3)を解決する「ハンズフリー」という回答が返ってきた。

 最近開発されているハンズフリーの「電気式人工喉頭(EL)」(電制コムテック社Syrinx)をご紹介すると、「試してみたい!首に巻き付けて音がうまく出るならいいね。首にかかる重さは気になるけれど。」と答えてくれた。現在使用している従来の片手で持つ「電気式人工喉頭(EL)」も持ち続けると重く感じ始めてしまうそうだ。

 最新の「電気式人工喉頭(EL)」の開発者の方は、電制コムテック社は25歳の女性で、Syrinxは東大の大学院生なんですよとお伝えすると、「そんな若い方が研究されているなんて未来は明るいですね」と、その日一番の笑顔になられた。


 現在、金安さんは、千葉県で喉頭がんや下咽頭・食道がんなどで声帯を失くされた方々が発声を習得する『京葉喉友会』の「電気式人工喉頭(EL)」クラスの指導員をされている。「(習得に時間がかかる「食道発声」に対して)とにかく早く話したい、その後に食道発声に取り組みたい」といった生徒さんや、「食道発声」は腹式呼吸でお腹の筋力を要するため高齢になると難しくなるケースもあるそうで、逆に「食道発声」を習得した後に「電気式人工喉頭(EL)」に取り組まれるケースも出てくるだろうと教えてくれた。


 お話をお聞きした後に近くのドトール・コーヒーに立ち寄ると、前回”声を失って#28”でご紹介した小林美智恵さんと金安さんが、「食道発声」と「電気式人工喉頭(EL)」で楽しく会話しながらランチをされていた。

 例え声が大きく出なくても、例え声がロボットのようでも、お二人はめちゃくちゃ楽しそうだった。


▷ 京葉喉友会


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