【日本経済新聞要約・考察】第12回 FRB低格付け債で二重のリスク、前代未聞の金融緩和
※本要約・考察は2020年4月10日の日経新聞の記事をもとに書いております。
〈要約〉
中央銀行による自国国債の買い入れは、カナダやオーストラリアに広がり、新興国中銀も社債などの資産購入に向けて動き出している。
9日の米社債市場では、低価格付債の価格が急反発した。「ダブルB」まで対象として組み込んだ社債購入策により、低格付け債に投資する上場投資信託(ETF)は価格が7%上昇した。
中央銀行は企業金融に踏み込むことは従来ない。リーマンショック時には償還期間の短いコマーシャルペーパーの購入に留まっていたが、今回は償還期間が最大5年と長く、低格付け債でもあるため二重のリスクを取りに動いた。
「無制限」の量的緩和策により、FRBの総資産は6兆ドルを突破した。米連邦政府は年1兆ドルの財政赤字を抱え、米議会が決めた2兆ドルの景気対策も資金供給は事実上中銀が担う。
IMFは9日には世界各国の財政出動が8兆ドルに達すると分析し、世界の国内総生産(GDP)の9%分に相当するその巨額の財政出動は中銀マネーで支えざるをえない。
新興国でもこの非伝統的な資産購入は行われている。しかし、不良債権比率の高いインドのような国はリスクが一段と高まる。中銀が損失を出せば、国の通貨の信認が揺らぐからだ。政策当局に時間の猶予がない中、リスクを分散する細心の制度設計が不可欠となってくる。
〈考察〉
今回のFRBに関する記事では「矛盾市場」と「金(ゴールド)」について着目することにした。
1. 「ダウ平均株価と矛盾市場」
現在のダウ平均株価は実体経済を表してはいない。
“The Index was created by Charles Dow in 1896 to serve as a proxy for the broader U.S. economy”(Investopediaより)
米経済の一つの指標として設計されたダウ平均株価は現在上昇トレンド真っ只中だ。米国の75%がロックダウン状態にある(BBCより)中で、製造業や飲食などは打撃を受けている。米国経済の8.1%は鉄工業により支えられており、11%は製造業が支えとなっている(Deloitteより)。これらの産業が機能していない状態で、アメリカGDPは30%以上のマイナス成長となると予想されている。
一方で、現在のダウ平均株価は23,719.37。コロナショック前の高値は29,568.57と、20%の下落となっている。もしダウ平均株価が米経済のProxyとなっているのであれば、予想と現実が異なっている。
その背景には、歴史的な財政政策に市場参加者の目が向いているから、なのではないかと考えている。コロナショックの不安が米国ではかき消され、金融政策、財政政策がいかに実体経済に影響を与えるかを予測する状態になっているようにも見える。
ニューヨークでの死者数が100人単位となっている中でもダウ平均株価は続伸を続けている。非常事態宣言は発令された3月でもダウ平均株価は財政政策への期待値から高騰した。非常事態で実体経済に影響が明らかであり、死者も続出している中で株価が続伸するのは「矛盾市場」なのではないかと考えている。
矛盾をさせるほどのマネーが市場に流入する中で、バブルも起きかねない。非常事態宣言の撤回や企業の業績改善、ロックダウンの解除に合わせて株価が下落するのも視野に今後の一ヶ月間は下手に動けない状態なのではないだろうか。
2. 「金(ゴールド)」
安全資産の王様の金は1700の大台を突破し、1750を超えた。リスク回避的な投資家はゴールドを保有し、一難さるのを待っているのだろう。
不況が始まることに備え、投資家も金の購入を勧めている観測もある。従来逆相関にある株価と金は今週共に伸びるという現象が起き、市場に流れ込むマネーが増えていると考えられる。
そして、リスク回避思考の人々の避難場所となっている金はコロナが経済に与える影響やニュースに敏感である。
8日には、米国の新規失業保険申請件数が300万人を超える観測から買いが集中した同時に、FRBが低価格債の購入に打ち出すとの発表を受け、金は高値を更新した。
各国の緩和策や財政出動で流入しているマネーが増えていく中で、今後の景気後退懸念や低金利状態から金に流れる資金も増えると考えられ、今後さらなる輝きを見せる可能性はある。