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暗黒停滞都市「モスクワ」を舞台に大人のジブリが炸裂する!ワイドスクリーン・ブラックマジックパンク小説「巨匠とマルガリータ」で翔べ!



今回は紹介だけです。早速いってみましょう。


「(前略)ニュースを伝える女のアナウンサーときたら、地名の発音もきまってはっきりしないですからね。おまけに、三人に一人はいささか舌足らずなんだが、まるでわざわざそういうのを選りすぐったみたいだ。この地球儀のほうがずっと便利ですよ(後略)」

__悪魔がグーグルアースを前に語るメディア評(本文308頁)__


「巨匠とマルガリータ」 ミハイル・ブルガーコフ (著), 中田恭 (翻訳)(Amazon)



大変だ!現代グラフィックノベルの最高峰がロシアから攻めてきたぞ!


(あらすじ)ビッグブラザーの支配により社会の硬直化を余儀なくされた1930年代の暗黒停滞メガロシティ「モスクワ」。そこに悪魔が率いる危険な黒魔術テロ集団現る!悪魔やその手下に接触したがために次々と発狂しAsylum送りになり、あるいはMIA扱いとなる哀れなモスクワ市民の群!勇気ある詩人がセクション8に志願しヴィジランテ活動を行うも全くの無力!魔術テロの暴威はとどまるところを知らずモスクワ全域を飲み込む!悪魔たちの恐るべき目的とは!?続々と送り込まれる被害者でアーカムはもう満杯だ!ブッダよ、ここはゴッサムシティですか!?だが、モスクワが絶望に包まれんとするまさにその時、一筋の希望の光が差す!見よ!月光に映える、ほうきに跨り夜空を舞う誇り高きその姿を!彼女こそは、悪魔との危険な取引により魔女のパワーを我が物としたわれらがヒロイン、マルガリータ(年齢的に合法)である!いや、ほんとうは見ちゃだめだ!あなたも紳士なら、じろじろ見るのは禁止だ!いずれにせよ、マルガリータは愛する「巨匠」を救出せんとの決意を胸に秘め、ただひとり、悪魔とその手下が待ち受ける闇の只中に飛び込む!フランチャイズ数千年の歴史を誇る超人気ヴィラン「悪魔」とニューヒロインとの対決の行方に、セクハラにならない程度で刮目せよ!ヒロインそして「巨匠」の戦いを見た、全世界にその名をとどろかせる最強ヒーローの選択や如何に!?そして、マルガリータたちが戦いの果てにたどり着く意外な真実……あなたは、きっと涙する……


私は別に冗談を言ってるつもりは毛頭ありません。これは本当にこういうデタラメを極めたお話です。仮にこれを高尚な文学作品だと勘違いしていたのであれば、それは業界のやつらがブンガクがどうとか執筆の背景がこうとかの下らない能書きを垂れて偉そうに見せかけるためか、そうでなければパルプとハードコアの力を隠そうとしているために生じた誤解です。ネット上の書評とかも無視していいです。どいつもこいつも頭良くみせかけたいだけだから、これが違法スレスレの高純度パルプだっていう肝心のポイントを紹介してないんです。

これだけデタラメな小説を翻訳した人間がどんな人間なのかと思ってカバー折り曲げの部分を確認すると、なんと1935年生まれと書いてある。つまり80歳を超えてこんな小説を必死になって翻訳しているのであり、明らかにヤバいテクノです。つまり、そのような訳者によって翻訳されていることから、この小説は極上のパルプであると断言できます。逆噴射聡一郎先生が既に、ヤバいテクノのジジイが書いたものは極上のパルプであることを完全に証明しているからです。


だから、「巨匠とマルガリータ」が、ミラー/ムーア以降の現代グラフィックノベルの潮流に連なる作品だということをまず理解してください。文字で書かれた作品でもグラフィックノベルだということは次の登場人物紹介を読んでいただければ一発で分かるはずです。



登場人物紹介!

ヴィランチーム

悪魔        聖書レーベルの押しも押されぬ一番人気のヴィラン。黒魔術テロ集団のボスとして謎の目的に邁進する。だがボスなので自分ではあんまり行動せず、専ら後述の手下たちを実行犯として操る役どころ。それでもヒロインとの対決ではばっちり決めるし、ボスらしい懐の深さと貫禄を見せつけて読者を魅了する。ちなみに、あまりの人気のため、レーベルやユニバースを超えて様々な作品に仮名を変えつつ客演することでも有名であり、日本では、永井豪による「デビルマン」及びその他の作品に飛鳥了として登場する。海外作品では、「カラマーゾフの兄弟」の中盤のポイントで短い出演ながらも印象的な演技で一気に物語をジェットコースターノベルの方向に蹴落とし読者を驚愕させるほか、スティーブン・キングの複数の作品に登場する「ランドル・フラッグ」が特に有名。織田信長をはじめとする熱心なフォロワーを全世界に生み出した。

コローヴィエフ   別名「ファゴット」とも。しょぼくれた外見に胡乱な言動で、初登場時はおよそ重要キャラには見えないが、実はヴィランチームの魔術担当者。彼と出会った不幸なモスクワ市民は、彼と妙にかみ合わない会話を続けるうちにけむに巻かれ、いつのまにか発狂必至のシチュエーションにはまり込むというのが第一部のテンプレ展開である。その隠された真の姿とは……

         たまにオッサンに変身するが、大抵はどっからどう見ても、やたらにどでかいだけでただの黒猫。やることといえば酒を喰らうかツマミを喰らうか、そうでなければコローヴィエフやそのへんにいる市民を相手にオフビートな漫談をするだけ。だが、擬人化要素ゼロの最高ケモ度の黒猫が平然とそういう振る舞いに及ぶので、哀れなモスクワ市民はその光景を見ただけでSAN値が一気に削られる。作者の猫愛ゆえに、猫に危害を加えようとする輩は手ひどいしっぺ返しをくらうというのが全編を通じてのテンプレ展開である。作者のケモノ愛と猫愛がパンパンに詰め込まれて巨大化したキャラと言えるだろう。長靴をはいた猫のことを、自ら長靴を履いてケモ度を落とすことを理由に軽蔑している。

アザゼロ      堕天使。出演作品によってアザエルとかアザゼルとかの表記ゆれが多い。つまり、彼自身を主役にしたスピンオフマンガが日本で連載されるほどの人気キャラがここでも登場だ。拳銃の名手であり、ヴィランチームでは荒事担当なので、黒魔術テロがメインの第一部では影が薄いが、第二部に入るとヒロインとの初交渉を担当するなど、一気に存在感が増す。ルパンで言えば次元とか五右衛門ポジションのキャラである。

ヘルラ       悪魔っ娘だ。やったぜ。お色気担当で、登場シーンほぼすべてを通じて、全裸か、さもなければ全裸エプロンという恰好である。だが、やることは大したことがないため、ヒロインの本格登場以降は完全に添え物扱いとなり、読者が気づかないうちにいつのまにか物語から消えている。不二子ちゃんポジションだったはずなのに、作者のヒロイン愛の割りを食った、ヴィランチームでは最も扱いが不憫なキャラ。読者の支持も薄い。


ヒーローチーム

マルガリータ    本作が初登場となるスーパーヒロイン。物語後半にあたる第二部は、その大半を彼女の大活躍が占める。グラフィックノベルはアメコミの発展形態であるため、魔女のスーパーパワーに目覚める前から、絶対善と絶対悪の対立構造というアメコミのテンプレに巻き込まれ、パワーを得るや、たちまちヴィランチームとの戦いに臨むことになる。今作だけで大人気となったが、後述の理由で、彼女を主役としたシリーズが作られることはなかった。繰り返すが年齢的に合法だ。だが、彼女の真の武器はスーパーパワーではなかった……ちなみに、血統の秘密と隠された真名がある。彼女の血統の話を忘れたころに真名がサラリと明かされた瞬間、ちょっと事情に通じている読者であれば、彼女が本作のヒロインとなる必然性を悟るとともに、彼女がヤバいたぐいの英霊としてFGOとかに追加される可能性を理解して戦慄するだろう。備えろ。

巨匠        本名は全編を通じて明らかにされない。無名の小説家にしてマルガリータの想い人であり、彼女との禁断の愛(断っておくがヒロインの年齢は関係ない)がもたらした悲劇が、物語の全ての始まりとなっている。自らの作品を貶すメディアを当初は一笑に付していたが、メディアがスクラムを組んでのバッシングは止むことなく、健やかで鋭敏な知性を持つ彼ですら、ついには心を病んで、ヒロインを愛するがゆえにヒロインの元を去る。現代のタルサ・ドゥームや昨今のネットのひどい状況を作者が暗に批判するために登場させたことが見え見えのキャラである。活躍シーンは終盤しかなく、ほとんどマクガフィンの如き扱いにも見えるが、ヒロインに真の勝利をもたらす愛は、彼がその源なのだ。ヒロインにとって彼は「巨匠」だからだ。だから、彼は決めるところでキメて、物語に決着をつける。原稿は燃えない。

あの男       あの男。全世界でその名を知らぬものがいないほどの、スーパースターの代名詞そのものの、あいつだ。実際出番は少ない。だが、物語の主な舞台となる暗黒停滞都市「モスクワ」では彼のヒーロー活動はビッグブラザーにより明確な弾圧の対象となっている。これが本作の設定のミソとなっている。


所属不明

ジョニデ      ジャック・スパロウめいた男。役名は別にちゃんとあるが、序盤でちょっと登場したきりそのまま物語から姿を消したかのように見せかけて終盤で再登場し読者をビビらせる役回りである。おまけにそもそも作中で実際に登場してるのか妄想上の存在にすぎないのかすら曖昧にされる。やってることも、よく考えるとヴィランチームに勝るとも劣らない不可思議現象スレスレである。なので、特に名前を覚えておく必要はない。ある意味本作で最も謎めいた存在。ヴィランたちの同族なのか、はたまた、物語の外からヴィランの悪事を相対化する者なのか。その正体についての解釈は読者の間で分かれるだろう。


どうですか?ここまで読んでAmazonや書店で行為したくなった人は今すぐしてください。そうでない人のために、私はとことん紹介します。




物語の飛翔を体験するためにも、暗黒停滞都市「モスクワ」を侮るな!


私に続け、読者よ!この世には真実で永遠に不滅の恋など存在しない、などと語ったのは一体誰なのか?そんな嘘つきの忌まわしい舌なんか断ち切られるがいいのだ。私に続け、私の読者よ、脇目もふらずにひたすら先を読み続けてください。そうすれば、そのような恋をごらんに入れましょう。

__第二部が始まったとたんにテンションが上がりまくった地の文さんによるMC(本文259頁)__


物語がとにかく面白くなるのは第2部。地の文さんも興奮を隠そうともしてません。なんか語尾とかが崩れてる。訳者は明らかにテクノです。黒魔術テロ集団の一人が、巨匠の消息をエサに、ヒロインであるマルガリータを秘密のイベントに誘う。彼女は危険を承知で挑戦を受けるとともに、半ば強引に魔女パワーをもたらす悪魔ガジェットを入手。そして魔女のパワーを我が物としたわれらがヒロインは……明らかにジブリで見たことがあるムーブを次々と繰り出すんです

ほうきに乗って空を飛び、賑やかなモスクワの街路を漂ってネオン看板にごっつんこ(その直後看板に八つ当たりして破壊)したと思えば、ほうきを急上昇させて街の灯りを背景に夜の平野を見下ろして南に向かう。完全に例のあれです。作者は少しはジブリの影響を隠せ。かとおもいきや、モスクワの街で偶然嫌いなやつが住んでるマンションを発見し、直ちに躊躇なく激しい怒りのままにストーリー上何の必要もない大破壊を敢行して、その直後にいきなり平静にもどって、ちいさな坊やを寝かしつけたりする。お前はナウシカか。いい加減にしろ。それと、言い忘れてたけど、こういったシークエンスを全部全裸で行う。その後もお話が終わるまでこいつは全裸か、全裸でなければ全裸マントを貫きます。しかも魔女パワーのせいですごい若返ってる。こいつ、魔女パワーを手に入れて自由になったとたん、服を着るってことに対してすらなんなすごいムカつきをおぼえて反抗するんですよ。お前それじゃ全年齢向けの作品とか出せないだろ。反省しろ。キャラデザは絶対鶴田謙二とかだ。

ここまで読んだあなたは、さっきまでの態度を突然翻し、仕事や学校の予定をやにわにぶちって電器店に直行しVRヘッドセットとともに本書を購入して自宅に大急ぎで飛び込み、すぐさまVR環境で本書を再生にかけ、第一部は全部スキップして第二部から再生し、上記のシークエンスを思うさまいろいろな角度から眺めて一時停止と巻き戻しを繰り返したい衝動に駆られたかもしれないが、悪いこと言わないからVRヘッドセットはとりあえず外して私のアドバイスを聞いてください。まず、マルガリータならギリギリ合法だと思います。ギリギリ。ですが、マルガリータの悪魔ガジェットをこっそり使ってマルガリータと同じ魔女パワーを手に入れた侍女が追ってくるんですよ。いやお前若返る必要ないだろ!乗り物がまた輪をかけてひでえ!層に届くあからさまなムーブ!私にはこれ以上の説明はできぬ!表現次第ではまじでリアルで逮捕される!そのことが分かったら、VR環境で再生するのは直ちに中止してください!あなたがそういう趣味なのは分かってますけど、そうまでして逮捕されたいんですか!?だから、ちゃんと落ち着いて、第一部から読書してください。

そうして、私のアドバイスをここまで聞いて、ようやくあなたは本書を最初から読み始めても、多分数ページでウンザリして投げ出すだろう。その気持ちは分かる。なんか読みにくい覚えにくい名前の上に意味不明のややこしい肩書や役職をつけた地味なオッサンが出てきては、悪魔の一味とまどろっこしい会話をする。ここで私がアドバイスをしよう。なんかややこしいと思ったら、ややこしい人名とかは全然覚えなくていい。なぜなら、めんどくさくてややこしい体験をこそ、作者は読者にさせたがっているからだ。つまり、暗黒停滞都市「モスクワ」でのディスコミュニケーション体験だ。その鬱屈をボコボコにぶっ飛ばしまくる第二部の爽快感のために必要なストレスなのだ。

ここで、本作の舞台である暗黒停滞都市「モスクワ」について確認しておきましょう。今作の設定では、ビッグブラザーがモスクワを支配するためにとった手段が、わけのわからないなんとか委員会とか何とか協会とかに加えてこれに付随する意味不明の役職といったものを、やたらめったら際限なく作って、市民が生活の上で何をするにもいちいち訳の分からん委員会やら責任者やらの許可やら届け出やらを要求するという、意図的かつ積極的かつ極端な官僚制の肥大化を通じた社会の停滞と硬直化というものです。こんな不便なシステムを押し付けられる市民はたまったもんじゃないですが、ビッグブラザーの類は古今東西、とにかく支配ができれば満足で社会自体がどうなろうと割とどうでもいいと思ってるので、こういうことはちょくちょく起こります。

こんな暗黒停滞都市に暮らすとなると、市民たちにとっての常識や思考の様式は、「モスクワ」という特殊環境での生存のためにチューニングされた傍から見れば奇妙なものになります。電話とかで問い合わせるだけでも一苦労ということが日常茶飯事のディスコミュニケーションに満ちたディストピア。だから、モスクワの外からやってきた人間は、市民のやってることを見るだけでどうにも調子が狂ってストレスを感じる。それは悪魔にとっても、読者であるあなたにとってもです。悪魔一行の魔術テロを見ても、市民たちが発狂する原因の半分は、金があっても新しい靴一つ必要な時に手に入れられないという暗黒停滞状況にあることが分かるはずです。

つまり、あなたが第一部を読んでいて感じるストレスは、実は、あなたとスーパーヴィランである悪魔が共有している感情なのです。ですから、潔く、市民の側に感情移入するのはやめて、意味不明の役職とかは読み飛ばして、コローヴィエフと猫が鮮やかな協力プレーで市民の群れを裸に引ん剝くのに拍手喝采するくらいのテンションで読んでいけば、だんだんと楽しくなってくるはずです。

そうして、どうにか苦労して最初の章を読み終えたあなたは、次の章に突入したところで途轍もないアンブッシュに遭遇して驚愕するでしょう。なにしろ、いきなり平然と時をさかのぼって「あの男」を登場させたうえ、ヒーローのお約束として絶対言っちゃだめなセリフを世界観ぶち壊しにする勢いでがんがん「あの男」に言わせる。ここで、あなたは、あらためて、先ほど私が指摘した、本作が現代グラフィックノベルの潮流に連なるものであるという点を実感するでしょう。ガース・エニス(HITMAN、THE BOYSはいずれもアメコミ世界でチンピラやヤクザもんが狩撫麻礼ムーブを乱発するという面白いにきまってる作品だから読んでください。ちなみに、業界のやつらが、犬溶接マンとかでバズろうとする前にきちんと作品の根本的な魅力を言語化して発信するという努力をしないせいで、私が読むのがつい最近になってしまった。業界の奴らは反省しろ)もかくやのヒーロー像破壊ぶり。それでも「あの男」は依然としてヒーローであることには変わりなく、変化が起こるのは、表面的なヒーローとヴィランの対立構造。そして、この世界における本当の対立構造が明かされる……というか、作者は絶対ガース・エニスとか愛読してる。



悪魔の舞踏会への招待状をゲットしろ!そして全裸ヒロインが繰り出すカラテを目撃しろ!


そうです。悪魔とマルガリータは、一見、ヴィランとヒロインの対立構造の中にあると見えて、実際には、どっちも暗黒停滞都市の抑圧にムカついてて黒魔術で打破しようとしてるという点で共通してるのです。だからヴィランとヒロインが果たして対立するのか、それとも和解するのか、それはヒロインが悪魔の軍門に降り闇に囚われることを意味するのではないか?……そういう部分が第二部を通じた緊張感を生み出します。

さあ、ついに迎える大舞踏会……これはあれです。本作をジブリだと思って油断してたら今敏です。ビビってください。ヒロインは相変わらず全裸。何が起こるのかはあなた自身で目撃して、ベスターそこのけで展開するデタラメなヴィジョンに思いっきり酔ってください。

そして訪れる悪魔とマルガリータの対決の瞬間。一触即発のアトモスフィアが満ちる中、悪魔の落とし穴がそこかしこに空いてる危険なバトルフィールドで、はたしてヒロインはいかなるカラテを繰り出すのか……それが明らかになったとき、その余りに意外な選択に、あなたは一瞬呆然自失し、やがて、その意味を理解して涙するはずです。

あとは大団円に向けて物語は一直線に突き進むだけ。行きがけの駄賃とばかりにモスクワを炎上させる猫たち。巨匠とマルガリータの、最後の選択と旅立ち、解放される「物語」、そして月光……Moon Light……つまり「ムーンライト」です。いや、冗談ではなくて本当です。暗黒停滞都市「モスクワ」を舞台として、「ムーンライト」と同じく救済の物語を展開する、それが「巨匠とマルガリータ」です。

ここまで読んで、「『巨匠とマルガリータ』は昔のロシア人が書いたものだよ」とかいった的外れな批判があるかもしれませんが、断言しますけど、間違っているのはそっちです。本作が、ジブリやら今敏やらのジャパニーズアニメや現代グラフィックノベルの直接的な影響下にあることは既に指摘したとおりです。そういった現代のコンテンツの影響を数え上げたらキリがありません。本作に登場する犬の扱いは完全に押井守の影響ですし、架空のディストピア都市としての「モスクワ」の設定は、あからさまな「未来世紀ブラジル」からの引用です。何より、作者がインターネットの問題を風刺するために、1930年代のモスクワに堂々とARデバイスで立体表示されるグーグルアースを登場させます。この記事の冒頭で悪魔によるメディア評を紹介しましたが、それにすぐ続いて同じページでグーグルアースを操作するシークエンスが出てきます。その描写はどう考えても80年前のロシア人が思いつける内容ではないです。そして、ネットが情報の壁をぶち壊して、戦場の死と破壊の光景を世界にさらけ出す。それを作者は描写しているのです。しかも、GTA5で操作キャラを切り替えるときに、ズィンズィンとカメラが天に昇った後、またズィンズィンと切り替え先の自キャラに向かってカメラが降下していくっていうカメラワーク丸パクリのおまけつきです。要するに、今作は80年前にロシア人が書いたとかいうのは、メタフィクショナルな設定上のギミックです。普通そういうのは真に受けないと思うんですけど。もしかして、あなたは、「アラビアの夜の種族」の最後の嘘解説を真に受けて、本当に古川日出夫が英語版から翻訳したとか思い込むタイプの人ですか?いくらなんでも少しは読書リテラシーを身につけるべきです。

ここまで読まなくても、すでにヘッズの皆さんは書店に走ったりAmazonしていることでしょう。問題は業界のやつらです。あなたたちはいい加減に反省して、パルプとハードコアの持つ力を隠そうとするのはやめてください。そんなにパルプとハードコアのことを警戒しなくても、パルプとハードコアで金を儲けつつ社会に貢献することは十分可能です。さっきから現代グラフィックノベルを引き合いに出してますけど、私が調べた限りでは、先に出版された海外における本作のコミック化やバンドデシネ化は、正直大したものではないようです。これがビジネスチャンスというものです。他社に出し抜かれないうちに、鶴田謙二に本作をコミカライズさせなさい。全裸ヒロインと猫が山盛りだから、いくら仕事嫌いなあいつでも喜んで引き受けるはずです。ボリュームは第一部を適当に端折って上下巻400ページくらいのはずです。鶴田謙二でなくても書き下ろしには時間がかかるので、それを見越して、まずはヒロイン大活躍シーンを先にパイロット版として書かせて、それができたら、海外のしかるべき筋に接触して北米及びフランスを中心としたヨーロッパでもほぼ同時に出版できるよう権利関係の調整に入ってください。翻訳は、英語版やフランス語版の原作がもともと出版されてますから、大した手間ではないです。絶対に日本よりも海外で大絶賛・バカ売れのコンテンツです。

そうしてコミカライズで儲けたらアニメ映画化のために出資者を説得するのは簡単です。コミカライズでファンになった世界中の客が絶対観てくれる映画になるので、キャラデザは鶴田謙二が引き継ぐべきです。そして、監督は、絶対に今敏。他の人はあり得ないです。何らかの事情で今敏に頼めない場合でも、金の力でなんとかすべきです。黒魔術はそのためにあるんですから、ちゃんと悪魔に頭を下げて実現するのです。アニメ映画も海外で大絶賛・巨額興収になるのは確実な未来です。日本での円盤売り上げなんぞこの際は無視してトライしてください。

では、最後の曲紹介です。さっき「ブラジル」が出たことですし、ブラジリアンクロスオーバーで飛翔し、なぜか途中でダークなエレクトロに転落したあとまたブラジルで飛ぶ、この曲をお届けしましょう。チェッケラウ!


Flora Purim - Open Your Eyes You Can Fly


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