コナンがおれにサブテクストをおしえてくれる
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コナンがおれにサブテクストをおしえてくれる

TheBottle



はいどうもー。さっそくだけど、みんなコナンはもう観た? 実は俺は最近になってようやく観た。前々から面白いっていう評判は聞いてたけど、まあ面白いって分かってるやつならわざわざ観る必要ないかなみたいな妙な心理が働いて最近まで観なかった。それが最近になって偶然Netflixでコナンを観れることを知ったんで、空いた時間で試しに観始めたら、これがもう面白いどころじゃない。圧倒的に凄い。凄すぎる。面白すぎて俺は頭に来た。何で誰も俺に「コナンは面白い」じゃなくて「コナンは超凄い傑作だ」って正確に教えてくれなかったんだよ! はっきり言って、ダントツで圧倒的第一位の、ジブリ史上最高傑作じゃねえか! あ、念のため断っとくけど、俺が言ってるのは『未来少年コナン』のことだ。



「コナンはスタジオジブリ制作じゃないよw」みたいなことを偉そうに言ってくるメニアック野郎はとっとと失せろ。どこからどう観てもコナンが隅々までジブリが詰まったジブリ100%なのは一目瞭然だ。ただスタジオジブリで制作されたってだけでジブリを名乗る二流のジブリはコナンの足下にも及ばない。最近ちょこちょこ作られてるようなクローンジブリなんかは言うまでも無し。コナンが繰り出すあまりにも巨大なジブリにすっかりうちのめされた俺は、このテキストを書かざるを得なくなってしまった。

まだ観たことないやつは今すぐ観ろ。Netflix以外でもAmazonプライムとかでも観れるようだ。まあ正直、最初の数話はちょっと退屈する部分もある。展開がスローテンポで派手さもないし、やっぱりこれは低年齢層向けの番組なんだなって思ったりもする。ところがだ、第5話あたりでシリアスな展開を迎えると、そこからがもう止まらない。興奮とスリルとサスペンスの連続だ。続きを早く観たくて観たくて仕方がない状態になり、用事やらなんやらで続きが観れないと禁断症状まで発症する。ヒロインのラナを救うためにリミッターを外して超人的どころか超人そのものにコナンが覚醒すると、それまで文字通り全く観たことがない(他のジブリ作品にはコナンみたいな人外のアクション超人が主人公として出てこないから当然だ)、新鮮な驚きに満ちあふれる常識を越えたジブリアクションが次々と繰り出されるので、凄まじいジブリにただただ圧倒されるほかない。ここ数年はマーベルやDCのヒーロー映画がやたらと公開されてて俺も大体観てるけど、俺は自信を持って断言する。コナンより凄いアクションを繰り出す映画は、マーベルにもDCにも存在しない。スーパーマンが空を飛ぼうとスパイダーマンがスイングしようと何しようと、コナンのアクションにはまるで歯が立たない。

凄いのは当然アクションだけじゃない。人物描写が圧倒的にジブリ。ストーリーが展開するにつれ、最初はラナを救いたいっていう個人的動機でデタラメに破天荒なジブリを繰り出して活躍していた野生児コナンもやがて、様々な出会いを経て少しずつ、少しずつ変わっていくし、コナンに関わった人々もまた、コナンの影響で否応なく変貌を遂げてゆく。見た目とかではなく内面がだ。その微妙な変化の積み重ねの丁寧さが、もう究極的にジブリ過ぎて言葉もない。そうした登場人物たちの変化を経て、のこされ島から船出したコナンの旅路は、最終的に人類の命運を左右する壮大なオデッセイへと変貌する。そして物語を最後まで観る誰もが、コナンが人類の希望を象徴する英雄であることを微塵も疑わなくなる。完璧だ。あまりにも完璧なストーリー展開だ。完璧すぎてぐうの音も出ない。ケチの付け所が何一つない。人類史上最高のアニメだ。いやアニメだけに限らず人類が生み出した物語の最高峰だ。ホメロスと並び称されてしかるべき現代のマスターピースだ。至高の傑作だ。全人類が今すぐ観るべきだ。

いや一つケチの付け所というかわかんないところがあった。いい年したおっさんのダイス船長が、明らかにまだ子供のラナに対して露骨に色目を使う理由がさっぱりわかんない。そういえばガキのころにラピュタ観たときも、タイガーモス号のやつらが子供のシータに色目を使う理由がわからなくてガキながらに疑問に思った。駿の性癖って言ってしまえばそれだけなんだと俺もある程度成長してからは理解するようにはなったけど、今回改めて考えたけど、駿の性癖みたいなメタのレイヤーの理由を作中の登場人物に当てはめても、やっぱり登場人物の行動として合理性みたいなのを欠いてて、結果色々と齟齬を来す部分が出てくるんで説明がつかない。

まあそういう数少ない欠点を除けば、コナンは観たことがないやつは今すぐ大急ぎで観るべき傑作なんで観てください。正直観る前はコナンを舐めてた俺は完全に反省してコナンから学ぶことにした。特に俺が凄いと思ったのは、セリフが超少ないところ。なのに登場人物たちの内面の部分が完全に伝わってくる。さっきも言ったけど、コナンをはじめとする登場人物たちはストーリー展開の中で誰もが大小の変化を遂げる。その中でも、最初は宿敵として登場するものの最終的には味方どころか正統派ジブリヒロインへと変貌を遂げるモンスリーという登場人物に関しての描写はとりわけ圧倒的だ。そういった、登場人物で最も大きな変化を遂げるモンスリーですら、そのへんの大きな内面の変化すらセリフ抜きで観る者に100パー伝わるんで、俺はその凄すぎるジブリを目撃して呆然とした。どのくらい凄いのかというと、コナンとモンスリーの最終対決でモンスリーが敗北を喫し、同時にモンスリーの内面に決定的な変化が生じるっていうシーンでどんなことが行われるのかというと、なんとコナンとモンスリーが数秒間無言でにらみ合うだけなんですよ。それだけでも対決を通じてモンスリーの内面に生じる膨大な諸々が伝わってくる。それを理解した瞬間、俺は度肝を抜かれた。

んで、茫然自失から回復して学ぼうと思った俺は早速ロバート・マッキー大先生の著書を取り出して復習した。俺は今回、ロバート・マッキー大先生が俺にやれと命じることをやる。すなわちサブテクストの分析だ。



サブテクストっていうのは要するに、見えたり聞こえたりする表面的な登場人物の言動の裏側にある、時に表面的な言動とはその内容が乖離したり矛盾してたりさえする、直接描写されない、目に見えないレイヤーで繰り広げられるアクション・リアクションのことだ。つまりさっき例に挙げたコナンとモンスリーが無言で睨み合うシーンでも、サブテクストのレベルでコナンとモンスリートの間にアクション・リアクションが交わされてるんじゃないかと俺は考えた。

んじゃ実際にやってみましょー。あ、サブテクストでもサブテキストでも表記はどっちでもいいように俺は思うけど、ロバート・マッキー大先生の本では「サブテクスト」表記なのでそれに従ってます。


あらすじ


例のコナンとモンスリーの直接対決があるのは第19話の『大津波』。ストーリーの中盤から終盤への橋渡しとなる『ハイハーバー編』のクライマックにあたります。

第19話開始時点の状況はざっとこう。「太陽エネルギー」と呼ばれる超科学技術復活のための秘密を握るがゆえに科学都市「インダストリア」に拉致監禁されていたヒロインのラナを救い出したコナンとその一行が紆余曲折の末ラナの故郷である平和な農村「ハイハーバー」にたどり着いて新たな生活を送っていたところに、執拗にラナを付け狙うインダストリアから軍隊がやってきてハイハーバーを占領する。軍を率いるのは、第一話でラナをさらった上にコナンの唯一の家族である「おじい」の死の原因を作った宿敵、モンスリー。

インダストリアの狙いはラナを再度手中に収めることもさることながら、ハイハーバーの豊富な食料をインダストリアに持ち帰ることにもある。作中で20年前に起こった最終戦争のせいで世界中の陸地のほとんどが海中に没した中、人類が居住する数少ない地となったハイハーバーとインダストリアだが、その状況は対照的だ。住民が自ら育てた農作物で作ったジブリめしを食って暮らす理想郷のごときハイハーバーに対し、戦前の科学技術を使って横暴に振る舞うインダストリアの内情ときたら、威張ってるくせに実は原子炉も燃え尽きる寸前、あらゆる資源が枯渇して住民は食うや食わずの有様だ。しかも、最近になって頻発する地震は近い将来の破滅的な地殻変動を予感させる。原子炉に変わるエネルギー源として太陽エネルギーを復活させることは急務。そんな事情があるために、なけなしの貴重な軍事力を動員して、これまた貴重な砲艦(ガンボート)に乗って遠路はるばるハイハーバーにやってきたのだ。大した人数の兵ではないものの、ガンボートからの艦砲射撃で住民を脅して抑えつけようという魂胆だ。

そうした中、第18話では、コナンたちは進駐軍の生命線であるガンボートを直接叩くという戦略を採用し、見事に成功させる。コナンの活躍の結果ガンボートは大破着底、コナンは当たり前のように沈みゆくガンボートから囚われのラナを救い出す。モンスリーとインダストリアの兵士たちはお先真っ暗という状況で第19話が始まる。

ガンボートを失ってハイハーバーから引き上げることすら不可能になり、兵士たちが数にまさる住民の反乱の可能性に怯える状況でもなお、モンスリーは策を示して部下たちを叱咤激励する。ハイハーバーの海岸には偶然、コナンたちが乗ってきた大型船「バラクーダ号」が座礁している(ちなみに、何話か前で無意味に起きたように見えたバラクーダ号の座礁が実は伏線だったという処理の仕方に俺は心底感心した)。そのバラクーダ号を使える状態にしてインダストリアとの間の移動連絡手段にしようというのだ。モンスリーは部下に命じて、強制労働に使う住民たちを海岸に集めさせる。

だがモンスリーの内心は複雑だ。20代後半で行政局次長に抜擢され、ラスボスである行政局長レプカの右腕として辣腕を振う彼女であっても重圧から逃れられない。今の状況は王手詰みの目前、その場しのぎの悪あがきのために住民に対する高圧的態度をエスカレートさせてしまっていることを、内心では自覚しているのだ。自分はどこまで職務に忠実であるべきなのか。幸福に暮らしていたハイハーバーの住民をインダストリアの都合で苦しめることにどれだけの正当性があるのか。加えて、コナンの存在。いかなる困難をもものともしないコナンの活躍を繰り返し目撃したことで、モンスリーですら、コナンに対する憎しみが益々募るどころか、逆にコナンへの共感を禁じ得なくなっているのだ。穏やかな日差し降り注ぐ庭で一人物思いに沈む彼女の前に突然コナンが現われた時には、ガンボート沈没に伴ってインダストリア側には生死不明の状態だったラナをコナンが救出していたことを知って、感謝の言葉を口にするほどだ。「ホントに貴方って子は……! でも、手加減はしないわ」

深刻なジレンマから目を背けるかのようにモンスリーは職務に没頭する。なぜか都合良く海岸線から潮が引いているためにバラクーダ号の修理は順調に進むが、ガンボートの次はバラクーダ号を爆破してやろうと現場に潜入していたコナンは異変を察する。爆破作業を中断してバラクーダ号のマストのてっぺんに昇り沖合に目を向けたコナンが目にしたのは、見渡す限り潮が引いた砂浜、そして遠くから迫り来る水の壁だ。コナンはすぐさま、眼下の砂浜にいる住民と兵士に大声で呼びかける。「みんな逃げろ! 津波だ!」

案の定、下から返ってくるのは返事代わりの銃の乱射。コナンが得意の連続ジブリ回避で銃弾を避ける中、何故かモンスリーは兵士たちを制止する。「お待ち!」



サブテクストの津波がおれを襲った


さて、ここからがクライマックスシーンだ。まずは素の脚本の形式で文字おこししてみる。




モンスリーは兵士たちの先頭に立ち、はるか上方のコナンに大声で呼びかける。

モンスリー

コナン! 蜂の巣にならないうちに降伏なさい!


コナンは引き続き兵士たちに大声で呼びかける。

コナン

みんな聞いて! 津波がこっちへ向かってるんだ!

だから水が引いたんだ! 高いところに逃げるんだ!

急げ! 早く!


モンスリーの顔に困惑の表情が浮かぶ。住民たちに動揺が走り、にわかに浮き足だった兵士たちが逃げだそうとする。だがモンスリーは決然と拳銃を抜き宙に向けて発砲した後、銃口を背後の部下たちに向ける。

モンスリー

逃げる者は射殺します!


モンスリーは険しい表情のまま、再び頭上のコナンに呼びかける。

モンスリー

コナン! そんな嘘を私が信じると思うの?


コナンは真剣な面持ちで、すぐさま滑車を使ってマストから砂浜に降り立つ。そして毅然とした足取りでモンスリーに向かって歩み始める。見守る住民や兵士たちの間に困惑のざわめきが広がる。モンスリーは無言で拳銃をコナンに向ける。コナンは止まることなく進み、やがてモンスリーのすぐ目の前にいたる。周囲の者らは今や固唾をのんで二人を見守り、静寂がその場を支配する。

コナンは表情を変えぬまま、無言でモンスリーを見つめる。モンスリーもまたコナンを睨み返す。コナンは動じることなくモンスリーを見つめ続ける。

数秒間の沈黙の後、突如としてモンスリーは目を見開く。こわばっていた表情が崩れ、モンスリーは呆然とつぶやく。

モンスリー

本当なのね、コナン……


コナンは無言で小さく頷く。それを見て、モンスリーの顔から気力が失せる。そしてコナンに銃口を向ける腕が力なく垂れ下がり、モンスリーは棒立ちとなる。コナンはモンスリーの脇を素通りして再び大声で呼びかける。

コナン

みんな逃げろ! 急いで!


兵士も住民も皆、悲鳴を上げて逃げ出す。相棒のジムシィと互いの無事を喜び合ったコナンは再び走り出そうとするが、ふと振り返ると、モンスリーが先程の場所から一歩も動かず、ただ立ち尽くしている。その先には迫り来る大波。コナンは迷うことなく踵を返し、モンスリーに向かって駆け出す……



……というかんじで、コナンとモンスリーの最終対決はほんとにこれだけで終わる。ほんとに無言で数秒睨み合うだけ。それだけでモンスリーは自ら敗北を悟るとともに、予想外の敗北に直面して虚脱する。なのに視聴者は「なんで睨み合っただけでモンスリーが負けたの?」みたいな疑問を感じることなく、モンスリーが敗北に至った経緯を自然なものとして受け止める。なんでだ? 何が視聴者の無意識に働きかけてるんだ? そのへんの分析のために、サブテクストのレイヤーを分析しなきゃならない

ということで次のステップは、サブテクスト、すなわち表面的な言動が実際に意味するところを抽出することだ。ロバート・マッキー大先生はサブテクストのアクション・リアクションをなるべく簡潔にまとめろと教えるので、それに従ってサブテクストを太字で脚本に書き込んでみる。



モンスリーは兵士たちの先頭に立ち、はるか上方のコナンに大声で呼びかける。

モンスリー

コナン! 蜂の巣にならないうちに降伏なさい!

モンスリーのアクション:助命の意思を伝える

コナンは引き続き兵士たちに大声で呼びかける。

コナン

みんな聞いて! 津波がこっちへ向かってるんだ!

だから水が引いたんだ! 高いところに逃げるんだ!

急げ! 早く!

コナンのリアクション:モンスリーの申し出を無視する

モンスリーの顔に困惑の表情が浮かぶ。住民たちに動揺が走り、にわかに浮き足だった兵士たちが逃げだそうとする。だがモンスリーは決然と拳銃を抜き宙に向けて発砲した後、銃口を背後の部下たちに向ける。

モンスリー

逃げる者は射殺します!


モンスリーは険しい表情のまま、再び頭上のコナンに呼びかける。

モンスリー

コナン! そんな嘘を私が信じると思うの?

モンスリーのアクション:挑発する

コナンは真剣な面持ちで、すぐさま滑車を使ってマストから砂浜に降り立つ。そして毅然とした足取りでモンスリーに向かって歩み始める。コナンのリアクション:モンスリーの挑発を無視する 見守る住民や兵士たちの間に困惑のざわめきが広がる。モンスリーは無言で拳銃をコナンに向ける。モンスリーのアクション:警告する コナンは止まることなく進み、やがてモンスリーのすぐ目の前にいたる。コナンのリアクション:モンスリーの警告を無視する 周囲の者らは今や固唾をのんで二人を見守り、静寂がその場を支配する。

コナンは表情を変えぬまま、無言でモンスリーを見つめる。コナンのアクション:真実を伝える モンスリーもまたコナンを睨み返す。モンスリーのリアクション:抵抗する コナンは動じることなくモンスリーを見つめ続ける。コナンのリアクション:モンスリーの抵抗を無視する

数秒間の沈黙の後、突如としてモンスリーは目を見開く。モンスリーのリアクション:疑問を抱く こわばっていた表情が崩れ、モンスリーは呆然とつぶやく。

モンスリー

本当なのね、コナン……

モンスリーのアクション:答えを求める

コナンは無言で小さく頷く。コナンのリアクション:モンスリーに答えて真実を告げる それを見て、モンスリーの顔から気力が失せる。そしてコナンに銃口を向ける腕が力なく垂れ下がり、モンスリーは棒立ちとなる。コナンはモンスリーの脇を素通りして再び大声で呼びかける。

コナン

みんな逃げろ! 急いで!


兵士も住民も皆、悲鳴を上げて逃げ出す。相棒のジムシィと互いの無事を喜び合ったコナンは再び走り出そうとするが、ふと振り返ると、モンスリーが先程の場所から一歩も動かず、ただ立ち尽くしている。その先には迫り来る大波。コナンは迷うことなく踵を返し、モンスリーに向かって駆け出す……



……んで、これで何が分かるのか。サブテクストのレイヤーにおけるアクション・リアクションの応酬を抜き出すとこうなる。


モンスリーのアクション:助命の意思を伝える/コナンのリアクション:モンスリーの申し出を無視する

モンスリーのアクション:挑発する/コナンのリアクション:モンスリーの挑発を無視する

モンスリーのアクション:警告する/コナンのリアクション:モンスリーの警告を無視する

コナンのアクション:真実を伝える/モンスリーのリアクション:抵抗する

コナンの(リアクションに対するさらなる)リアクション:モンスリーの抵抗を無視する/モンスリーの(さらなる)リアクション:疑問を抱く

モンスリーのアクション:答えを求める/コナンのリアクション:モンスリーに答えて真実を告げる


こうしてみれば一目瞭然、このシーンのコナンとモンスリーとのやりとりは実は全然噛み合ってない。最後の最後にコナンがモンスリーに答えて小さく頷くところ以外、徹頭徹尾、何かがずれているんですよ。そのことこそが、このシーンを支える超絶的な技巧の最大のポイントになってるんです。具体的には、無意識に視聴者をモンスリーが抱くのと同じ疑問に向けて誘導して、そしてモンスリーがその疑問の答えを知ることを通じて視聴者に真実が伝わるっていう複雑な仕掛けになってるんですよ。

どういうことか。まず、このシーンのコナンの真意は一体何なのか、っていう点が説明を一切省かれてて、実は視聴者にもコナンの真意が何なのかがすぐには分からないように意図的に作られてる。コナンは黙ったきりで一体何がしたいんだ? そういや、さっきモンスリーが一人で庭のベンチに腰掛けてうなだれてるところに急にコナンが現われたシーンでもコナンはずっと黙って突っ立っててたけど、あれも一体なにがしたかったんだ?

んで、この対決シーンでもコナンはだんまりを決め込む。モンスリーのアクションはことごとく無視されるという、モンスリーからすれば予想外の連続です。だが部下を前にして、モンスリーのほうが「コナン、一体何がしたいの」などと聞くことは出来ない。そんなことを聞く暇があったらさっさとコナンを射殺しろと言われるのがオチだ。この噛み合わないシチュエーションの原因は分からぬものの、かたくなに対決の姿勢だけは維持したまま、モンスリーは目の前のコナンに向けた銃のトリガーを引くこともなく、コナンと無言でにらみ合う……

……と、このタイミングでモンスリーは重大な疑念に思い当たるわけです。モンスリーの認識を根底から覆すことになりかねない疑念。それは、このシチュエーションを「対決」だと認識しているのは自分だけなのではないかという疑念です。もしも、コナンのほうではちっとも「対決」だと思っていないとすれば……答えはひとつ。コナンはモンスリーを敵だと思っていない。

つまりさっきからの噛み合わないシチュエーションの原因は、全部モンスリーの勘違いによる一人相撲ということになる。宿敵であるはずの、憎まれて当然のモンスリーに対し、あろうことか、コナンはさっきからずっと信頼のメッセージを送り続けていて、そして今、銃口を前にしてもなお、変わらぬ信頼をモンスリーに寄せている。それが真相なのだとすれば……

……内心に湧き上がる困惑に耐えかねたモンスリーは、ついに呆然と呟きを漏らす。

「本当なのね、コナン……」

コナンは、ただ小さく頷いた……



……と、こうしてモンスリーは真実に打ちのめされる。モンスリーをそれまで支えてきた価値観を根底から揺さぶる圧倒的な真実だ。そして、その真実そのものが今まさに、文字通りの大津波となって迫っているのだ。モンスリーは逃げることすらできずに茫然自失する。

そして視聴者もまた、モンスリーの姿を通して真実を悟るとともに、いきなりモンスリーが虚脱状態になったことさえ当然のことと受け止める。敵味方で区別する思考と価値観に囚われたモンスリーに対し、コナンは敵味方の区別なぞ全く念頭になく、ただ人々を救おうとしていただけだった。さっきの庭のシーンでもだ。それだけの単純な話なのだ。だがその単純な話がモンスリーにも(そして視聴者にも)理解されず、その真実が理解された時、モンスリーの認識と価値観を根底から揺さぶった。

こうしてクライマックスを通じ、ついにコナンの真の姿が視聴者にも明らかとなった。真実の体現者にして救世主だ。もはや視聴者は、コナンが人類を救うための最後の戦いに自らの意思で赴くことであろうことを微塵も疑わない。物語のスタートの時点では野生児だったコナンに生じた、ストーリーの進展に伴う小さな内面の変化の積み重ねは、ついにコナンをここまで変えていたのだ。それが全く不自然に感じられないのは、ひとえに物語全体を通したストーリーテリングの巧みさゆえだ。全く、なんとずば抜けたストーリーテリングだ。俺はそれを理解して、とてつもない衝撃を受けた。


次回予告


こんなふうにですよ、サブテクストのレイヤーまでしっかり考慮した上でシーンを組み立てることができれば、ただ無言でにらみ合うシーンを通じてですら、視聴者は巨大な感情の波を手に取るように感じることができる。モンスリーを襲った感情の巨大さはいかばかりか。それが、くどい心理描写も無粋なモノローグも、それどころか会話すら抜きで、細やかな表情の変化をきちんと丁寧に描写することを通じて、ちゃんと視聴者には伝わる。これですよ、俺が観たかったのは。俺驚いたもん。「アニメのキャラクターなのに、ちゃんと真面目で繊細な表情の演技をしてる!」って。なんでこういう技巧がロストテクノロジーになってしまってて、現代に承継されてないんだ。業界のやつらは全員反省しろ。

んで、ここまで考えたところで、俺はこういう技術をどれだけ小説に応用できるか、っていう疑問に行き当たった。常々、パルプのテキストをドリトスみたいに乾かすために心理描写を減らすにはどうしたらいいか、っていう問題が議論されてて、同時に、どのくらい心理描写を減らすべきかも問題になるけど、これは実は問題提起の仕方が間違ってて、実際は、原則、心理描写は一切不要っていうのが正解なんじゃないか? サブテクストがきちんと盛り込まれていれば心理描写抜きで登場人物の感情は読者に伝わるんじゃないか?

これを検証してみたいんだけど、いい加減長くなってきたので、続きはまた次回にします。今度はモンスリーがジブリヒロインに覚醒するシーンを扱おうと思う。

それじゃ、またねー



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