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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (65) Twinings, Strand

日本にいた頃に観たテレビのCMで、記憶の片隅にずっと残っているCMがあった。
人々が行きかう通り、そして、大きな建物の間に挟まれた、間口の狭いショップが映し出される。
それは、英国紅茶の老舗ブランド、"Twinings" のCM。
地下鉄の Circle Line と District Line の 駅、Temple から Arundel Street を通って Strand へ向かって徒歩約5分、the Royal Courts of Justice の向かいにTwinings のロンドン本店はある。

17世紀、英国で主に飲まれていたのは、coffee、ale、gin だった。 
エールやジンは、朝食時にも飲まれていたという。
朝食にエールを飲むことを嫌った Tea Merchant の Thomas Twining は、1706年、ロンドンの Strand にあった a coffeehouse "Tom's" を買収し、良質の紅茶の販売を始める。
当時はコーヒーの全盛時、遠く中国から輸入される紅茶の茶葉には重税が課せられており、高価な飲み物だったが、Tom's の紅茶は評判になった。
この成功を機に、1717年、 Thomas Twining は、英国で初めての紅茶専門店 "the Golden Lyon" を開いた。 これが、現在の "Twinings" の前身となる。

コーヒーは、17世紀、the Ottoman Empire (オスマン帝国) の侵攻によってヨーロッパにもたらされた。
コーヒーを楽しむだけでなく、社交の場ともなっているコーヒーハウスは、瞬く間に人気となり、ヨーロッパ各地へと広まっていく。
英国では、1650年、Oxford でユダヤ人によって最初のコーヒーハウスが開店され、1652年、ロンドンで最初のコーヒーハウスが the City の 25区の一つCornhill の St. Michael's Alley に開店された。
1739年までには、ロンドンには550件ものコーヒーハウスがあったといわれ、それぞれの店には職業や趣味・嗜好によって集まってくる客層にも特色があった。

コーヒーハウスは、客同士で世間話や情報交換がされる社交場ともなっていたが、後にビジネスへと進展していったものもあった。
Edward Lloyd が開いたコーヒーハウスには、多くの商人や船主、船員たちが集まって船舶情報の交換をしていたが、後に、店は船舶保険業務を取り扱う "Lloyd's of London" となった。
物品を売買する部屋を併設していたコーヒーハウスは、後のオークション・ハウス "Sotheby's" や "Christie's" を生み出し、また、富裕層が集まって社交クラブへと進展していった店もあった。

Thomas Twining の紅茶専門店 "the Golden Lyon" では、厳選された茶葉の量り売りを行なった。 女人禁制だったコーヒーハウスに対し、ティーショップは女性の出入りも自由にし、後に女性たちの間で紅茶を楽しむことが人気となっていく。
1784年、4代目 Richard Twining は紅茶税の減税を英国政府に働きかけ、紅茶の普及に尽力する。 これにより、紅茶は庶民の間にも広まっていった。

1830年以降、"the East India Company" によってインド紅茶が輸入されるようになる。
1837年、Queen Victoria から "a Royal Warrant" (英国王室御用達)を賜わる。
1880年代、高級ホテルがアフタヌーン・ティーを始めると、アフタヌーン・ティーを楽しむマナーも大切な要素になってきた。

1910年、保管性・運搬性に優れた缶入りの紅茶を製品化、その後、1965年、ティーバッグ入りの紅茶を量産化し、普及する。
1972年、"the Queen's Award for Export" を得た。

店の正面玄関 "TWININGS" の屋号の上には "the Royal Warrant"、その両側にチャイナマンの像、その上には黄金のライオン像が見える。 
店の中に入ると、細長い店内の両側の棚には、紅茶やビスケットなどが所狭しと並べられている。
“Tea & Coffee Merchant” と看板にあるように、店ではコーヒーも売られていて、創業時の伝統が残っている。

細長い店内を進んでいくと、奥に小さな博物館 "the Twinings Strand Shop Museum" がある。
そこでは、Twinings の沿革、茶葉取引の台帳、茶葉栽培絵図、紅茶をイギリスまで運んだ高速船の図、年代物の紅茶のパッケージ、象牙とべっ甲を施した贅を尽くした tea caddy などが展示され、英国の紅茶貿易の歴史を知ることができる。
博物館は店の会議室も兼ねているので、ミーティングが行なわれる時には閉館となる。

さて、ショップに戻って、何を買って帰ろうかと、棚を見まわす。 
人気の "English Breakfast" か the Georgian prime minister の名を付けた bergamot flavour の "Earl Grey"、あれこれと悩んだ末、これまでに飲んだことがない "Irish Breakfast" を購入。
"Twinings" は、デパートのフード・ホール、スーパーマーケットや食料品店でも見かけるけれど、他社の紅茶の中にあって、ひときわ歴史や伝統、ステイタスを醸し出しているよう。

Twinings 紅茶の日本への輸出は、1906年に開始された。1965年には片岡物産が日本総代理店となり、2007年には、片岡物産との合弁会社トワイニング・ジャパン株式会社が設立された。

1964年、Twinings は、Associated British Foods の傘下に入ったが、現在も Twining 家によって運営されている。
かつて、ブレンド紅茶 "Earl Grey" の元祖に関して、Tea Merchant "Jackson's of Piccadilly" と争議があったが、今は、Jackson's of Piccadilly は Twinings のグループにあるというのも興味深いものだ。

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