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私の英国物語 Broadhurst Gardens NW6 (28) The National Gallery

冬休みが始まって、Andrea、Inken、Kathrin の3人はドイツへと帰っていった。 目覚まし時計もしばらくの間お休み。 いつもより遅い朝食をとりながら、この長い休暇中に何をしようかと考えた。
そして、これまで機会あれば訪れていた the Tate Gallery (現 Tate Britain) に比べ、足早に観て回っただけだった the National Gallery を究めることにした。
ウエスト・ハムステッドからナショナル・ギャラリーへは、139番のバスで乗り換え無しで行ける。

ダブル・デッカーの2階席に座って、ショッピング街の華やかなクリスマスのディスプレイを楽しんでいると、やがてトラファルガー・スクエアの大きなクリスマス・ツリーが見えてきた。
ナショナル・ギャラリー前でバスを降りる。

The National Gallery は、John Julius Angerstein から買い上げたコレクションをもとに創設された。
ロシア生まれで、15歳の時に父方の英国へ渡った John Julius Angerstein は、Lloy’s のエージェントを生業とし、美術活動の支援者及び絵画のコレクターであった。
英国絵画発展のためヨーロッパ諸国の絵画に接する機会が必要だと、政府は国立美術館の設立を目指すも、資金や国内外の事情で何度もコレクションの購入機会を逃していた。
アンガースタインの死後、彼の素晴らしいコレクション38点は、国立美術館の主要展示とするべく、政府によって購入される。
そして、1824年5月10日、the National Gallery は、St James's Square の向かい、100 Pall Mall (SW1) のアンガースタインのタウン・ハウスで開館された。

1826年、Sir George Howland Beaumont, 7th Baronet によって絵画のコレクション16点が寄贈され、1831年には画商で絵画コレクターの William Holwell Carr から35点の絵画が寄贈された。
The National Gallery は、人気を博し、頻繁に混雑するようになり、アンガースタインのタウン・ハウスからの移転が急務となってきた。
移転場所の候補となった Trafalgar Square は、1820年代、King George IV が 建築家の John Nash を起用して、王室の厩舎があった地域を再開発した場所である。
富裕層が多く住むウェスト・エンドと庶民派のロンドン東部との中間にあたり、階級層に関係なく誰もが優れた絵画に接することができる場所として最適な場所であった。
1832年、建築家 William Wilkins による新しい美術館の建設が始まる。そして、1838年、The National Gallery は、Trafalgar Square へと移転。

その後もコレクションは寄贈や購入で増えていき、収蔵、展示スペースが手狭になっていくことが問題となってくる。
この問題は、1897年、Millbank (SW1) にナショナル・ギャラリーの分館として the National Gallery of British Art (現 Tate Britain) を創設することに繋がっていく。
時代を経るうちに建物は少しずつ拡張されたが、トラファルガー広場に面するコリント様式のファサードは当初のまま残されている。

創設当初、わずか38点だった所蔵絵画も、今は、2,300点以上にもおよぶコレクションとなっている。 所蔵作品の点数では、ルーヴル美術館やメトロポリタン美術館などの巨大コレクションにかなわないものの、作品の質の高さではひけを取らないといわれ、イタリア、オランダなどの外国絵画のコレクション、特にイタリア・ルネサンス、フランドル派、オランダ派などが充実している。
フェルメールの本物とされる作品は世界でわずか32~37点とされるが、その中の2点はナショナル・ギャラリーに収蔵されており、ゴッホが描いた 11点の "Sunflowers" の作品で花瓶とともに描かれた作品7点のうちの1点を観ることができる。

エントランス・ホールのインフォーメーション・デスクで Floor plan をもらう。 館内は、Sainsbury Wing (1260年~1510年)、West Wing (1510年~1600年)、North Wing (1600年~1700年)、East Wing (1700年~1920年) の4つの年代に分類されている。 Sainsbury Wing は独立した建物で、メイン・フロアと直結されている。

毎日4、5時間ほどかけて、フロアからフロアへとゆっくり絵画を鑑賞する。
図録や本では感じられない、絵画のサイズや絵の緻密な超絶技巧、絵筆のタッチ、絵の具の盛り上がりなどをじっくり見ていく。疲れた時には、館内のカフェで一休み。
タイトルに加えて、絵画の解説が書かれてある作品もあり、特に宗教が題材の絵画には、場面の解説がある。 わからない単語は、持参の小さい辞書で確認したり、メモをして後で家で確認したりした。
今は、スマートフォンで検索できるので便利になったと思う。

2週間ほど通って、Leonardo da Vinci、Sandro Botticelli、Caravaggio、Diego Velázquez、Raphael、Pieter Bruegel the Elder、Peter Paul Rubens、Rembrandt、Anthony van Dyck、Johannes Vermeer、Paul Cézanne、Claude Monet、Vincent van Gogh、Pablo Picasso、Joseph M. W. Turner、Thomas Gainsborough、John Constable 他、錚々たる画家の作品を堪能することができた。 
これもナショナル・ギャラリーの入場料が無料であるおかげである。
(特別企画展を除く)
ナショナル・ギャラリーは、維持管理費用の一部が寄付で賄われてるため、寄付を募る箱が入り口ほか数カ所に設けられている。館内のカフェを利用したり、ミュージアム・ショップでポストカードやグッズを購入することでも貢献できるのは嬉しい。



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