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2023/9/1 トマス・ゲインズバラ 《庭園の語らい》
夏の間に人生がゴタゴタと急転直下で色々と動いておりまして、のんびり美術について思いを馳せてる時間がとれずにすっかり放置になっていました。
元より夏はかなり苦手で生命活動を維持するのでいっぱいいっぱいなので、展覧会も3本くらいしかいけませんでした。秋また頑張りたい。
そんなわけで今日は落ち着いた感じの作品を紹介します。
![](https://assets.st-note.com/img/1693575600756-f4kK2OhrMU.jpg)
トマス・ゲインズバラ 《庭園の語らい》1740頃 ルーヴル美術館
トマス・ゲインズバラ、ロココ期のイギリスではかなり重要な仕事をしている画家なのだけど、いかんせん知名度が低い。
イギリスは歴史的にあまり芸術分野としての「絵画」がうまく発達せず、王室や貴族たちの肖像画という大変実用的な側面に支えられて作品が残っている。ホルバインなんかも肖像画家として仕事をしているし、世界でも珍しいポートレートミュージアムがあるのもイギリスである。
そんなイギリスが表現としての芸術を獲得して大成するのは水彩画の分野である。イギリスの「芸術」の栄華は19世紀を待たなければならない。
イギリスの水彩画家については以前に紹介しているのでこちらも併せて読んでもらえると嬉しい。
ロココといえばマリー・アントワネットが関連づけられているように本場はフランスである。そんな中イギリス人画家であるトマス・ゲインズバラはロココの様式で作品を多数制作している。今回の《庭園の語らい》もその1つである。
ゲインズバラはイギリスで活動しながらもフランス人画家に弟子入りし、花開いたロココ文化の影響を多大に受けて画家としてのキャリアをスタートした。《庭園の語らい》はその初期の作品で、ロココ色の強いものとなっている。
肖像画に強いイギリスらしく、この作品も肖像画として作成された。モデルもほぼ特定されている。しかし、他のロココの肖像画と大きく違う点がこの作品にはある。それは屋外が舞台となっている点だ。
もちろんロココ期の絵画で屋外を描いているものはたくさんある。ブーシェの《ぶらんこ》、ヴァトーの《シテール島への巡礼》などロココの代表作はいくつも挙げられる。しかしこれらの作品は「肖像画」ではない。
基本ロココの肖像画は屋内で制作されるのだ。「いや、ルブランの描いたマリー・アントワネットの肖像画に屋外が背景のやつがあるじゃん」と言われそうだが、あれは元々モスリンのドレスを着ているアントワネットの肖像画が批判を受けたため書き換えたもので、元のモスリンドレスの肖像画は屋内が背景である。そのため、変更の際に背景も大きく手が加えられたと考えられる。
その点この夫婦の肖像画は完全に庭園という屋外を主体としており、肖像画の主体であるはずの人物を目立たせすぎず、風景として完成している。このイギリス人の自然への深層心理というべきものが、この後水彩画の世界で巨匠ターナーなどを生み出すのだ。そういった側面からもこの《庭園の語らい》をはじめとするゲインズバラの作品はイギリス絵画史上で重要と言えるのではないか。
この作品の素朴な愛らしさになんとなく惹かれており、私自身のイギリス贔屓もあって《庭園の語らい》は好きな作品だった。数年前にOfficine Universelle Bulyがルーヴル美術館とコラボした商品を出した際に、美術館コラボに目がない私は勇んで店舗に行った。しかし、なかなか気に入る匂いがない。せっかくルーヴルなのに……と半ばあきらめかけていた時にやっと好きだと思える匂いに出会えた。それがこの《庭園の語らい》をイメージした匂いだった。
とにかくベルガモットの香りがよく、庭園の地面に小さく生えるようにペパーミントの香りがあり、アロマオイルとアラバストルを購入した。唯一の好きな香りがイギリスの絵画で、しかも好きなゲインズバラの《庭園の語らい》だったなんて、これはもう運命では?と思うほどだった。部屋がイギリスの庭園の香りになって本当に幸せになれた。
先日京都市京セラ美術館でルーヴル美術館展を見ていたら、《庭園の語らい》が出展されており驚いた。こんなところで会うとは……とおもいつつじっくり見た。他の作品よりも人がいなかったのでゆったり見ることができた。
ミュージアムショップでこの作品のポストカードを購入したので、アラバストルを飾っているところに一緒に飾ろうと思う。似合うポストカード用のフレームを探しているところだ。もし素敵なフレームをご存知の方いたらご一報ください。
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