#yourpulseletter:想軌戀連:弍:鸚鵡返しの空白
昔からお気に入りで大事に着ていたTシャツにシミがついてもいいって思えていたのに、その濁点に染み込んでる思い出のせいであたしは膝を抱えている。
オーバーサイズのそのTシャツを着てソファで抱えた膝まですっぽり覆いかぶせると、ちょうど膝の上にそのシミが顔を出す。忘れるなよ?みたいな感じで言われている感覚が満載でそんな記憶を産業廃棄物にしたいのに、どうしても連鎖的に思い出すキラキラがそれを阻みにくる。
もうすでにそのシミの成分は何回か繰り返した洗濯によってなくなっていて残っているのは色だけ。だから関係ない、と思って、ゆっくりと寄り添っていくように左頰を当ててみる。自分の左膝の熱が、伝わってくる左頬。
視界の端には自分の反対側の膝。正面に白い壁。少し視力の弱い右目の視界の右端にはぼんやりと灯る電球色の照明の明かり。Tシャツの裾を抑える左手は足首までをなぞるようにしてから膝を抱え込むけど、利き手の右手は宙を舞う。
からっぽの、虚空に、かつてあった熱を思って、涙は膝に落ちる。耳にたらせるほど、上を向くことができない。思い出の魂は、恋の魂はがらんどうになっていってしまう。失われる熱が、あたしに現実という槍でとどめを刺してくる。磔になったつもりなんてないのに。
どれくらいそうしていたのかわからないけどけど決してそんなに長くはないはずだ。とにかく早くシャワーを浴びたいように急に立ち上がったあたしは乱暴にそのTシャツを脱ぎ捨てて、手近にあった白いブラウスに着替える。下着同然の下半身に少し緩めのジーンズを穿いてスニーカーソックスを履く。黒いキャップを被って、乱暴に携帯をポケットに放り込んだ。よし。
これまた適当にスニーカーをチョイスして部屋を出る。戸締りよし。心の戸締りは甘いけど。
さあいこう、と思って階段を駆け下りて、とにかく走る。
何かを追いかけたい。
このままじゃダメだ。ずっと自分の、あのころの幻影にやられてしまうし、それしか求めることができなくなってしまう。
そんなこと続けるのは駄目。ダメに決まっている。
追い越さないといけない。
上がってくる息の熱が、いつかのキッチンを思わせる。
あなたがくると言っていたのになかなか来なくて、ダイニングテーブルの上で冷めていくそれらをみながら、あたしのついた頰杖は可愛く作ったはずの顔にいつの間にか跡をつけてた。
そんなことも思い出したけど、このシャドウは追い抜ける。
さっきまで着ていたTシャツのシミも思い出す。
けどそれもきっと追い抜けるはず。
あたしの足は暴力的に加速していく。
“お前じゃダメだったんだよ"
何がダメ?ダメって何?
肌に触れた暖かくてたまらなく幸せだったはずのその肌がまるで殺すみたいに鋭利な冷却をもたらしてきたことを思い出す。
それはダメだ。そのシャドウはまだ追い越せない。
けれど、追い抜きたい。
呼吸がまた輪をかけて加速度的に荒くなってくる。
夜空は暗渠のようにあたしに道を作る。
甘えてるからだ。
あたしは、私にならなきゃいけないのに、それができないから一人で走っている。
闇雲に走っていたはずが気付けばぐるりと大回りをして家の近くまで戻ってきていた。と、不意の段差で転んでしまった。派手に転がるけど関係ない。けれど少し体が痛い。もうこのまま一旦帰ってみるか。と思ってアパートの階段をこれまた駆け上がって鍵を開けて転がり込むみたいに玄関に飛び込む。
「はぁ…はぁ…」
息をしている。あの恋は死んだのに。あの思いは枯れていくだけなのに。
からっぽの、がらんどう。
けれど、息を、していた。
さっきより体の痛みは引いている。
念のため洗面所にいって確認すると、頬骨の上に少しだけ擦り傷ができていた。女の子が顔に傷なんて。そう思ったけど、治りきるまでそんなことしないことを決めた。
しばらく、想うことはお休み。恋の凪。かな。
そんな傷がにじませた血が、ブラウスの襟に少しだけ染みていた。
痛みを訴える相手のいないあたしは、痛みを耐える。
そこで気付く。痛みの連鎖を築いていたこと。
急に苦しくなって、ああ、一番痛いの心だ、って想う。
また性懲りもなく出てくる涙が傷に沁みて。
それに殴られたみたいに思い直す。
このまま、強くなろう。
熱を逃がしていくテーブルの上も
虚空を掻く右手も
膝に流れる涙も
傷にしみる後悔も
シャツとブラウスのシミも
繰り返される逆の意味の”駄目”たちも
いろんなからっぽもがらんどうも
この夜を抜けたいと想う心が
あたしの最強になるために。
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基本的に物語を作ることしか考えていないしがないアマチュアの文章書きです。(自分で小説書きとか作家とか言えません怖くて)どう届けたいという気持ちはもちろんありますけど、皆さんの受け取りたい形にフィットしてればいいなと。yogiboみたいにw