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色がわからなくても人生を彩れるし生きていけるし色々あってグレージュ|谷口賢志note

彼の名前をMとしておこう。

Mが、周りの人間と自分に違う部分があると知ってしまったのは、小学校低学年の図画工作の時間だった。

それは異なる世界の始まりと言っても良い。

夏休みの課題。「おしゃれな鳥」をテーマにした水彩画だった。Mが書いて提出した絵は、芸術的にはとても評価され、地域の展覧会に飾られ、最終的には国際展覧会に招かれるほどの栄光を手にした。ただ同時に、大人たちに対しては不信感を生み、ほのかな疑問を手にさせた。

「なぜ、土が赤色なの?」

「なぜ、太陽が黄緑なの?」

「なぜ、空が紫なの?」

Mは答えた。

「そう見えているから」

調べられた。

Mは、色弱だった。

「パイロットにはなれません」

母親に連れて行かれた眼科で、将来の可能性を幾つか潰されたMは、それ以来「色」について考えることをやめた。

服は黒しか着なくなった。美しい景色を見てもどうせ何かが足りないと思うようになった。ぷよぷよが嫌いになった。世界がくすんで見えた。色わからないけど。

現在。

Mは仕事で髪の色を変えることになった。

「グレージュにしてきてください」

と、オーダーを受けた。

ージュ?

暗号か、何かの言い間違いかと思った。

Mがヘアメイクさんに「グレージュで・・・」と注文すると、何一つ違和感なく作業は進んだ。

五時間後、髪染めは終了した。

どうやら綺麗にグレージュになったらしい。

Mは思った。

世の中、色々あるなと。




谷口賢志


映画『文豪ストレイドッグス BEAST』


『BANANA FISH』The Stage -後編-

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