魔法少女マジカルなつきVS超変身アイアンカイザー

【これまでのあらすじ】
私、日宮なつき13歳。笑顔だけが取り柄のどこにでもいるごく普通の中学生!ある日、ひょんなことで魔法少女マジカルなつきになっちゃったの。それからはフザケンナーから街を守ったりしても~大変!
今日はみんなで水族館へ遠足なの!そしたらまたワルダークがやってきてサメさんをフザケンナ―にしちゃったの。私、これからどうなっちゃうの~!?

――――――――――――


「フザケンナーーー!!!」
フザケンナ―の仮面で怪物に変化したサメさんが水槽を突き破った。水が一気にフロアになだれ込んでくる。
「マジカルバリア!」バリアで水を食い止める。「はやく!みんな逃げて!」
食い止めている間もフザケンナーはバリアを重い拳で殴ってくる。一撃ごとに衝撃で脚がめり込みそうだった。バリアが破られるのも時間の問題だった。
「フザケンナー!」
「うわっ!」
魔法のバリアが破られ、再び激流がフロアを走る。ふと振り向くと、逃げ遅れた女の子が巻き込まれそうになっていた。
「マジカルウィングブーツ!」
白いブーツに翼が生える。床を蹴り、一気に女の子に近づいて拾い上げる。女の子は小さい体で力強く私に抱きついていた。腕ですすり泣く息遣いが分かった。
安全な場所で女の子を下ろす。
「もう安心だからね。みんなと一緒に逃げて!」
「おねえちゃんありがとう!」
泣き顔の女の子は非常口の先に逃げていった。私はフザケンナーに立ち返る。
フザケンナーは所構わずあたり一帯を破壊し尽くしていた。床は30cmほどまで水没していた。
「もう許さないんだから!」
「フザケンナー!」
マジカルウィングでフザケンナーに向かい、射程距離に入る。
「マジカルアタック!」
マジカルステッキから虹色に光る光球が放たれる。だけどあのフザケンナーはアタックをものともせず、光球は虹の粒になって散った。
「うそっ!?」
マジカルアタックに動じないフザケンナーなんて初めて!じゃあどうすれば……。
私はフザケンナーの攻撃をいなしながら次の手を考えていた。ミラクルマジカルフラッシュで元の姿に戻してあげても水槽の中じゃないとサメさんが苦しんじゃう……。
防戦一方の戦いが続いた。このままでは元の姿に戻すどころの話じゃなかった。
「フザケンナー!!!」
フザケンナーはとうとう外壁を突き破った。瓦礫があたり一面に崩れ落ちる。このままじゃ避難したみんながまた危険に晒される……!
今までなかった事態に頭が真っ白になる。私、どうすれば――

その時、銀色の影が空から急降下してきた。
「とぉぉぉ!!!」
「グギャアアアアア!!!!」
フザケンナーが聞いたこともない悲鳴を上げていた。影をよく見ると、フザケンナーの頭を蹴り降ろしていた。
そこからの連続パンチ。凄まじいスピードとパワーで繰り出される正拳突きに、フザケンナーの頭がボールのように弾んでいた。
そして最後のサイドキックでフザケンナーの身体は地面に叩きつけられた。
なんて強さなの――。あのひとは一体――。でも、今はそれどころじゃない。はやくサメさんを助けてあげなきゃ!
ステッキで大きく円を描き、呪文を唱える。円の周りに徐々に魔力が集まってくる。
「ミラクルマジカル…」
その横であの鉄の影が唐突に高く飛び上がり、脚を槍のように突き出した!
「グレートカイザーキィィィッック!!!」
稲妻のように急降下するその影は黄金の光を帯び、フザケンナーに突き刺さった!
「アギャアアアア!!!!!」
腹が抉られたフザケンナーが断末魔と共に爆発炎上した。四方に飛び散る肉片もあっという間に燃え尽きた。
なんてひどい戦い方、いや、殺し方なの……。
「そんな……」
右手からマジカルステッキが滑り落ち、力なく地面にカラカラと転がる。私は膝から崩れ落ちる。
どうして……?私ならフザケンナーに変えられたサメさんを助けられたのに……。あの人はなんでそんな簡単に……。
サメさんを殺したあの影がツカツカと歩み寄ってくる。それは銀色のプレートと仮面に覆われた鋼の戦士だった。
「あなた……」私の胸の底から怒りがこみ上げてきた。「あなた!なんでサメさんを助けようとしなかったの!?」
男が私の目の前で静止した。
「戦いごっこならもう止めろ。おとなしくお家に帰るんだな」鋼の仮面が冷酷に言い放った。
「なんですって!」
私は遊びで戦ってるんじゃない!フリフリで可愛らしい格好だけど、これは勇気と魔法でできた本気の証なんだ!
私は側転し、脇に転がっていたマジカルステッキを拾う。男が私を追いかけてくる。
「マジカルウィングブーツ!」
呪文を唱えると、白いブーツから翼が生えた。アスファルトを蹴り、後方へ大きくジャンプした。空を蹴って、ジグザグに舞う。
「マジカルアロー!」
ステッキが弓に変形し、光の弦と矢が生まれた。狙いを定めて引き絞るが、鉄仮面の動きが速くて定まらない。しかも、フザケンナーと違って人間サイズだから尚の事狙いづらい。
私は必死で彼を矢先で追いかけ、ひたすらに連射した。だけど彼は的確に矢をかわし、かすり傷一つ追わなかった。光の矢は地面に刺さるとすぐ溶けるように消えていった。
「当たれ!当たれーーー!!!」
あの人に当てるのに必死になって乱射した。気づくと私は方で息をし始めていた。夢中になるあまりマジカルパワーが切れかけていたことに気づかなかった。
マジカルウィングとマジカルアローを無闇に使ったせいでパワーを浪費してしまっていた。
そしてとうとうパワーが切れた。脚を滑らせるようにブーツの浮力が切れ、頭から落下し始める。変身を維持するパワーも尽きそうだった。目をぎゅっと閉じる。もうダメ!このままじゃ――
「きゃああああああ!!!」
誰かが私を抱きかかえた。
「え?」
目を開くと、陽光に輝く鉄仮面の顔が見えた。この人、私のことを助けて――
気を緩めかけた一瞬、男は私を地面に投げ飛ばした。
どうして――

地面に激突する瞬間、私は気を失ったようだ。気付くと私の身体はアスファルトを突き破ってめり込んでいたようだった。
「かはッッ」
肺から空気が抜け出した。息ができない。吸おうとすれば咳が出てさらに空気が出ていく。
しばらくすると息が落ち着いてきたけど、今度は目から涙が溢れてきた。
「痛い……痛いよ……」
腕が痛い。足が痛い。体中が痛い。こんなに痛いことなんて……。
あの男が近づいてきた。
「ひどい……ひどすぎるよ……!私達、同じフザケンナ―の敵でしょ?なのにどうして……」
「分からないのか?」
「え?」
「弱さを見せれば犠牲が生まれる。戦うならば甘さを捨てろ。そして覚悟を持て」
「……!」
男は私の衣装を見ているのではない。私の目の奥を見ていた。仮面を被っているから本当かどうかは分からないけど、そんな気がした。
男は振り返り、遠くへ歩いていった。どこか寂しそうなその影は夕日にゆらめいていた。

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