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かゆみ学#8~かゆみ研究の歴史Part2~

~本記事は以下の記事の続編です~


1. かゆみ研究の"冬の時代"
2. 動機となったあるきっかけ

2. 動機となったあるきっかけ

自らの手でかゆみ研究を行うことのなった倉石先生はまず、コンパウンド48/80という物質をマウスに投与してみることにしました。

当時は、
マスト細胞(=皮膚に存在する細胞)の脱顆粒により放出されるヒスタミンがかゆみを引き起こす
という考え方が常識であり、このコンパウンド48/80はマスト細胞の脱顆粒の研究に頻繁に使われていたことから、試してみたそうです。

すると、マウスが投与した部分を掻き始めたことから、この掻き動作をかゆみの指標として、動物実験の可能性が開けてきました。

前回の記事でも書きましたが、当時のかゆみ研究は冬の時代であり、イヌにヒスタミンを投与しても掻かないという報告がありました。

それは、イヌにヒスタミンを皮内投与すると膨疹と紅斑が生じるという報告で、
今になって思うと、それは投与したヒスタミンの濃度が高すぎたのが理由だと思うのだが、当時はそんなこと知る由もありません。

ですが倉石先生は突如かゆみの研究を始めたため、冬の時代など知らなく、また、たまたまこの報告を見つけなかったことが幸いだったのでしょう。(当時の文献検索はネットではなく書籍媒体であった)

先生自身も、最初の文献検索でこの報告を見つけていたら、コンパウンド48/80を用いてはいなかったかもしれず、かゆみ研究のきっかけにはならなかったかもしれない、と仰っています。


また、他にもマスト細胞の脱顆粒を促すとされるサブスタンスPでも試したところ、軽度ですが同様にマウスの掻き動作を観察することができました。

ですが、肝心のヒスタミン自体を投与しても掻き動作は起こらなかったのです

この結果は、
「マスト細胞のヒスタミンがかゆみの主な原因である」
という当時の常識に矛盾するものでありました。

そしてこの結果が、倉石先生がかゆみ研究を自身の研究人生の大きなテーマの一つにしようとした大きなきっかけとなったのです。

ヒスタミンによって掻かない問題は、用いるマウスを変えることによって解決しましたが(当時よく使われていた安価なddY系マウスではなくICR系マウスを用いた)、最初からICR系マウスを使用していたら、一般常識に疑いをかけることもなかったので、ここまで大きな動機にはならなかったと述べています。

そうして実験を重ね、マウスでも掻き動作がかゆみの指標であることを報告し、冬の時代が終わり21世紀に入るころには第一回World Congress on Itchが開催されるほど研究が盛んとなりました。


いかがだったでしょうか?
このように、最初はただの製薬会社からの依頼だった研究が、偶然が積み重なったことによりかゆみ研究の誕生に繋がったのかと思うと、とても感慨深いですね。。。


【参考文献】
ファルマシア(2015)Vol. 51 No. 6
ファルマシア(2020)Vol. 56 No. 9



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