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「駆け抜ける少年」発「アクセルを踏み込む自分」行


いつの頃からだろう。

中学校に行くまでの下り坂を車で通ることの方が多くなったのは。
物凄いスピードで走る車を横目に、あの頃の道を歩く。
通り過ぎる1つ1つの速度が、時の流れを感じさせるようにぐんぐんと速くなる。
あの場所に辿り着く度に大きくなったものは、今はどれほどの大きさになったのだろうか。
日が経つにつれて伸びた身長は、今はどれほど高くなったのだろうか。
自分がかつて想像した未来が、今、僕の目の前を通り過ぎる。

思えば、つまらない中学生だった。
自分はいつか死ぬと思っていたし、中学校もその通過点の1つに過ぎないと思っていた。
数ある思い出も、すぐに忘れてしまうだろうと思っていた。
楽しいことも、悲しいことも、寝てしまえば無かったことになる。
何があっても明日はやって来る。
どんなに振り返っても昨日は戻って来ない。

幾ら速度を上げても、僕の歩くスピードは変わらない。
少し歩くのが下手になったのかもしれない。
走るのが辛くなったのかもしれない。
すぐに疲れてしまう。
息が切れて、走るのを止める。
靴紐が解けて、歩くのを止める。

小学生に抜かされ、中学生に抜かされ、高校生に抜かされ、僕は大人になった。
子供から大人になるという、ごく当たり前のことが、なぜだか信じられない。
今も子供のつもりでいる。
あの頃と、何も変わっていない。
自分だけ、まだあの道を、あの視線のまま歩いているような感覚で。
あの頃と、同じように。

少し歩くと、よく遊んでいた公園がある。
振り返れば、帰りによく立ち寄っていたセブンイレブンがある。
この景色、この匂い、この温度、この音、この気持ち…。
あの頃、抱いていた感情の数々はどこに消えてしまったんだろう。
何にでも言葉にできた胸の内は、途方に暮れた日々の積み重ねによって隠れていく。
美しい夕空を見つめ、友達とはしゃいだ季節を馳せながら、1人佇む。
今日は、雲が掛かっていて、あの日の夕日みたいに綺麗には見えないようだ。

全てをあの頃に置いてきてしまった僕は、何をしているのだろう。
あの頃、憧れた大人になれているのか。
何を想って、大人を演じているのか。
何を目指して、生きているのか。
そして、この先の長く険しい道のりを、僕は越えられるのだろうか。

時計の針が、17時丁度を指す。
チャイムの鐘の音が、肥えた耳に鳴り響く。
あの頃、見上げていた時計も、今ではポケットの横で見下ろすことが多くなったものだ。
目の前に広がる景色はモノクロに変化し、やがて消えていく。

長い坂道をこどもが懸命に駆け抜ける。
短い坂道を車が次々と追い抜いて行く。

いつの頃からだろう。
うしろを振り返るだけで、涙を流すことが多くなったのは。

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