『こいつ、おれのこと好きなんかな⑳』
「そうだ なつ あそぼ?」
「そうだ、京都行こう」と「くうねるあそぶ」のコピーライターが書いたような、キャッチーなセリフを僕に投げてきた。二つのコピーを同一人物が書いたかどうかは知らない。
3限終わり、彼女の言葉で、夏の始まりを実感する。今年は5月くらいから既に暑く、感覚が麻痺していた。
日差しが差すアスファルトを見ると、夏はもう始まっているんじゃないかとぼんやりと考えることもあった。
夏は一年の中で、一番長いようで一番短い。
お父さんと遊ぶ夏があって、そこまで田舎じゃないおばあちゃんちに帰る夏があって。
体育館でポカリをがぶ飲みする夏があって、流しすぎた汗が涙に変わる夏があって。
夏祭りの露店の匂いで笑う夏があって、蒸し暑い校舎裏で恋わずらう夏があって。
一年の内で一番伸びると言われた夏があって、その言葉を信じて自習室に籠る夏があって。
青空の下で爆音の音楽を聴く夏があって、深夜の高速でゆるりと音楽を流す夏があって。
夏休みがない夏があって、夏休みを支える側の人間になったんだと実感した夏があって。
ざっと人生の夏を思い出すとこんなものだ。
こう見ると、やっぱり短い。
こんなコピーを学習塾や鉄道会社あたりが使ってくれないかと妄想しつつ、彼女の言葉に返答する。
「いいよ いつ行く?」
彼女は「今でしょ!」と笑う。「それ、フリ?」とおどけながら。
ちょっと古いな…と思いつつ、時計を見る。
「まだ夏じゃないし、4限もあるし…」と困る僕だが、もう腹の内は決まっている。
恋愛に発展することは恐らくないだろう。
彼女がどんな気持ちかも知ったこっちゃない。
それでも、ひと夏の思い出が、一生の思い出になるかもしれない。
恋をするのも、終わらせるのも、夏がいい。
「こいつ、おれのこと好きなんかな」
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