見出し画像

過程の想像


ソウゾウしい街を歩く。


周りを見回すと、たくさんの人工物が目に飛び込んでくる。
ひとつひとつのものたちには、ひとつひとつのストーリーが存在する。
どんな人達が、どんな過程を経て、どんな会話をしながら…
歩きながら、完成するまでのエピソードを想像してみる。


老舗のかつ丼屋の看板を見ると、昔ながらの町の工務店にやってもらったのかな、とか。


20年来の知り合いに頼んで、「カッコいいの頼むよ」とか言って、出来上がったのは意外とシンプルで、白地に黒の習字ぽい字体で、完成したのを見ると「あれ普通だな」とか心の中では思うけれど、長年の付き合いだからそんなことも言えずに、でもオープンしたら大繁盛で、「これも看板のおかげだよ」とか褒めたりして、かつ丼を食べながら工務店のおっちゃんもいい気になって、笑いながら「俺が作ったんだよ」って周りの常連さんに吹聴して、気付いたらかつ丼屋も二代に渡って続くほどで、先代が亡くなって、二代目の息子は古くなった看板を変えたいと思うけれど、工務店のおじいちゃんは相変わらずかつ丼を食いに通い続けてて、「ここが俺の最初の仕事場なんだよ」とか物思いに耽っているのを見ると、息子も「この看板なくして、この店なしだもんな」みたいな感じで微笑んだりして、それが働く原動力になって、今日も美味しい匂いを通りに漏らしてるのかな、とか。


よくわからんコンセプトのガチャポンを見ると、ヤル気なさそうな2年目の若手社員がとりあえず意見出しした案が通っちゃったのかな、とか。


「今週中に1人10個ずつ企画案出してこい」とか課長に指示出されて、「は、1人10個て。そんなに出せるかよ」とか思うけれど、根は真面目だから家とかでも色々考えたりして、でも大体6個くらいで万策尽きて、「やべー、明日までに残り4個どうしよ」って焦って、友達に考えてもらったりして、残り1個になって、でも日付越してて眠いから、「もうなんでもいいや」ってなって、窓の外にあった室外機の案を最後にリストに入れたら、企画会議で課長が、「室外機、いいねえ」って珍しく褒めて、他の人も「うん、面白いかも」とか何故かみんな同調して、若手社員は「え、まじかよ」ってなって、他にちゃんと考えた案は全部ボツで、「仕事ってよくわからんなあ」とか思いながらも企画はどんどん進んで、実際に商品が完成したのを見ると、「こんなん誰が買うねん」とか内心思うけれど、他の人は「おおー」とか感嘆の声を上げていて、でも実は課長以外全員が内心は「誰が買うねん」って思ってて、ただフタを開けてみると売れ行きは絶好調で、だから中のガチャポンのケースは少ないのかな、とか。



自動販売機にある愛のスコールを見ると、自動販売機に飲み物を詰める仕事の人の愛のメッセージなのかな、とか。


どこの自販機にはどの飲み物をどの位置に入れて、みたいなのはマーケティングに基づいて決まってて、お茶と炭酸とスポーツドリンクは必ず入れるとか、何割の割合にするとか、暑い日はこれが売れるし、寒い日はあれが売れるし、みたいな法則めいたものも存在するし、いろんな条件を考慮して、本部みたいなところで決定したものを、下請けみたいな会社のドライバーが詰めていくんだけれど、その人達は給料は安そうで、炎天下、汗垂らしながら、自動販売機に黙々と詰めていって、もちろん詰めるものは本部の人が決めた位置に、決められたものを詰めていく簡単な作業なのだけれど、あるとき、決められた飲み物とは異なるものを詰めて、それが愛のスコールというヨーグルト味の炭酸飲料で、そこの通りにはスコールが大好きな幼馴染みの女の子が住んでいて、小さい頃からスコールを飲んでいて、彼女がそこに住んでいるのは仕事をしているときにたまたま見かけたからで、彼女には何も伝えていないけれど、スコールを買っているのを度々見かけるようになって、そんなときにスコールがそこの自販機から外れてしまうことになってしまって、でも彼女が嬉しそうにボタンを押す姿を思い出すと、本部に逆らってでも愛のスコールを詰めてしまって、下段の右から2番目に置いてあるのはその人にとってのラブレターで、今日も彼女が買いに来るのを愛のスコールは待っているのかな、とか。


それぞれにストーリーが存在して、世界は回っている。
全てのものには誰かが関わっていて、何かしらの想いが詰まっている。
よく目にしている、普段は気にも留めないけれど、通りすがりの風景が、巡り巡って誰かの大切な人のエピソードかもしれない。

可能性は無限大で。
今日も過程を想像して。


もし、私の文章に興味を持っていただけたら、サポートお願いいたします。いただいたサポートは活動費として大切に使わせていただきます。よろしくお願いいたします。